異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲

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第三章 自衛隊の在り方(前)

第十五部

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 応じた隊員は、指揮所の奥、見えない所へ行ってしまった。

「前偵オート、降着完了。威力偵察準備良し」

 指揮所通信要員が、火蓋が切れる事を宣言した。
 威力偵察は、「偵察」と言う単語が入りながら真逆と言っても差支えない事をする。実際に敵を攻撃して、我の装備が敵にどれだけ通用するのかとか、それにより敵の反撃を促して敵戦力の詳細を分析するとかするのだ。
 プロジェクターが、彼等から伝送された映像を映し出す。
 それは、絶望であった。未明である為、まだ視程が非常に低いが、敵と思しき集団は火を使っていたので、彼等の規模を計る事が出来る。
 木が一切無い丘陵地帯。奥には背景として山岳が国を隔て、その麓にだけ森林がある。日本では先ず見られない光景だ。そして、その森林手前には、明りの影と成った棒が何本も何本も重なり最早壁を成している。よく見ると、それは人であった。有難い事に、日本では先ず見られない光景だ。

「これを相手にするのかよ……」
「おい! 中継繋がってるんだぞ」

 情報小隊の偵察用オートバイ、通称オートの隊員もこの反応だ。
 私達指揮官等も指揮官で、実写で目にして希望をどう見出すか考えを巡らせている。
 誰も諦めんとする人は居なかった。これは、みんなが強い意志を持って居ると言う訳ではない。無論、そう言う人も居るが、これは「戦いの原則」に起因するものだ。
 私の行動原理もおよそそれに則って居る。
 指揮官にとって、特にこのような状況では主動の原則が重要となって来る。主動の原則とは、「主動」の意味の通り、我が中心となって行動する事である。特に言うと、戦場で中心となり中心とさせる事だ。つまり、強い意志を以て敵を受動の立場に追込み、我が主動の位置に立ち最終的には敵を屈服させる、これが主動の原則だ。
 主動の原則は、戦いの原則の中でも無二の感情的な要素である。私達指揮官が、強い意志、「絶対に突通す」と言う強い意志が無ければ、科学的に生まれた他の原則はそもそも使えない。
 そして、我々が諦めると、それは指揮下全隊員に伝播し、部隊は戦う気力を失ってしまうのだ。
 主動の原則は、勿論もちろん、作戦をこなすにも重要だが、部隊の士気にも影響するものなのだ。

「敵、行進を開始! 会敵出来ます!」

 「行進」とは、諸外国で言う「行軍」の事だ。陸上自衛隊では、諸々の事情でそう呼称している。

「二科長。どうだ」

 早速、連隊長は、先の連絡の結果がどうであったのかを聞いた。

「現在、臨時閣議で審議中だそうです。統幕は防衛省、防衛省は政府の決定が無いと命令出来ないと」
「何? 今やれば、敵情解明に大きく拍車が掛るのに」

 然し、結果は望むものではなく、酷く残念がっている。私も同じだ。

「新渡戸さん。おかしくありません? 持ち回り閣議じゃなくて、臨時閣議ですよ。臨時閣議じゃあ、余計時間が掛ってしまいます」

 自在さんが、顔を近付けて話し掛けて来た。

「その、持ち回り閣議と言う方が早いんですか?」
「勿論です。閣議室に集まらないでやるのが持ち回り閣議なんですから。大震災の時ですら持ち回り閣議でしたもの」
「え、じゃあ、政府は私達の事を――」
「確かに高度に政治的な問題ですが、異世界だから、と言う理由でじっくり考えている可能性は有り得ますね」

 他人ひとごと、と思われているのか……。

「今、統幕から更に連絡が」
「今度は何だ」

 連隊長は明らかに苛ついている。然し、気にする事無く、第二科長は報告を続ける。

「統幕長から、命令が発出されました!」

 第二科長は嬉々としている。気持ちは分らんでもない。
 一気に奥の通信機器の辺りが忙しくなっているのが分った。何やら、何枚もの紙がプリンターから排出されている。そして、其処そこの一人が、その紙の角を一度机で整えてから私達に持って来てくれた。
 察するに、命令書か。
 私も受取った。
 簡潔に言えば、我等派遣隊の武器使用の許可と攻撃の許可が記されている。
 でも、閣議は先、始まったと思うのだが、そんなに早く終るものなのだろうか。……早く終って貰わないと困るが。

「よし分った。みんな! 統幕長の意向を無駄にするな!」

 連隊長は、いよいよ立上たちあがり指揮所に集まった各級指揮官のみならず、指揮所要員の全員にも語り掛けるように言った。
 どうやら、やはり閣議は終って居ない様だ。

「威力偵察始め!」

 威圧ある態度で、遂に、自衛隊主動の作戦の火蓋が切って落とされた。

「了解。威力偵察始め。威力偵察、第一波。前偵オートは、『とび01』の配置完了報告を受け次第、敵集団、装甲化されていない歩兵に対して小銃射撃を実施せよ!」
「こちら前偵オート、了解」

 今回、偵察用オートバイを多用途ヘリコプター UH-1J二機が輸送し、そ々のコールネームに「鳶」を使用し、「鳶01」が威力偵察の観測を行う事とし、前進偵察隊を「前偵」とする。第弐号作戦概要にそう書いてあった。

「各隊へ、こちら鳶01。観測位置に到着。前偵オート、送れ」
「此方前偵オート、了解。これより射撃する!」

 皆、プロジェクタースクリーンを注視して居る。

「89、単発撃方うちかた。安全装置良し、弾込め良し……装填良し、単発撃方良し」

 二人組で行動している前進偵察隊オートバイ隊員の頭に付いているウェアラブルカメラから、映像に加え音声が伝送されて来て居るので、隊員の発言が筒抜けとなっている。
 訓練宜しく射撃体勢を整えた。よく見ると、中即連においては武器庫でほこりを被って居たはずの二脚を、89式小銃に装着してして使用して居る。
 更に、消炎制退器には赤外線レーザーを使用する照準具が取付けられて居る。夜間でこれを付けて居ると云う事は、個人用暗視装置を彼等は装備して居るのだろう。

「てぇ!」

 小型カメラのマイクを通した発砲音は、ゲームのそれより安っぽい。
 オート隊員の89には、薬莢受けも装着されている。恐らく、弾薬管理が目的ではなく、隠密性を持たせる為だろう。それに、薬莢で、我がどの弾薬を使用しているか敵に解明されてしまう可能性もある。

「鳶01より、報告。命中弾は複数。敵集団は混乱し離散。命中したと思われる敵歩兵は、出血し倒れている。送れ」
此方こちらCP、了解。威力偵察、第二波へ移行。続いて、前偵オートは、装甲化された敵歩兵に対し小銃射撃を実施せよ」
「此方前偵オート、了解。斉射! てぇ!」

 一人称視点で、射撃の様子を見せられて居る事に加え、この距離は多分五百メートルだ。人が豆粒大の大きさで、射撃の効果が分らない。
 そう言えば、彼等は普通の光学照準具とは少し形の違うものを使っている。

「鳶01より、報告。命中弾有り。然し、効果は認めず。既に体勢を整えつつある為、早急に次段階へ移行するのが求められる。送れ」
「此方CP、了解。威力偵察、第三波へ移行。前偵オートは、直ちにLAMを射撃せよ」
「信管伸ばさず射撃するだけ」

 予め定められたシナリオ通りに進んで居た通信に、巻口連隊長が口を挟んだ。本来は、対戦車榴弾の信管を伸ばさず射撃するのに加え、信管を伸ばして射撃するのもする予定であった。
 鳶の報告を危惧して、オート隊員の生存性を高める方を選んだのだろう。少すぎる派遣隊は、米海兵隊方式を執るしかないのだ。
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