堕天/FREEDOM’S CROWN

いちじく

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もう目覚めたから

公安-神性事案対策部

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腹が鳴る。まるで餓鬼の断末魔のように、腹の底から絞り出される音だった。
もう何日も何もまともに食っていない。昨日コンビニで弁当を見たけど、どれも高くて手が出ない。
だが、俺は笑う。腹は空いても、心は元気、そして下半身も元気。武士は食わねど高笑いってな。
『高楊枝じゃないか?』
ルシファーがツッコんでくる。うるせえ。
『それに武士でもない』
「知ってるわ‼︎」
俺は誰も住んでない部屋にいる。壁に穴が開いてるし、天井から雨が漏る。まるで世界中の不幸がここに集まってくるみたいに。床には空のカップ麺の容器が転がってる。中を舐めたけど、塩の結晶ひとつ残ってなかった。
畳は腐って、踏むとぺこぺこ沈む。まるで死人の腹を踏んでるみたいだ。ゴミと腐った食い物の匂いがする。でも俺には贅沢な住処だ。何でかって?
タダだから。

契約してから三日経った。あの夜、アバラを殺してから。
体が変わった。音がよく聞こえる。匂いもよく分かる。力も強くなった。でもそれじゃ腹は膨れね。力なんて、結局は飯を食うための道具でしかない。
『ヒカリ』
頭の中でルシファーが呼ぶ。
『誰か来る』
「誰だよ」
『公安のヤツらだ』
公安?俺が何したって?
『一般市民が神を殺した...それは国家にとって重大事件だ』
マジかよ。
コンコン。
ノックの音がした。まるで死神が扉を叩いてるみたいに響く。

...やべえ。

「警察の者です。近隣住民から騒音の苦情が出ているんですが、お話を聞かせてもらえますか」
男の声。低くて、なんか気味が悪りぃ。まるで地獄の底から響いてくるような声だ。
騒音?俺が何か音出したか?
俺はそっとドアに近づく。隙間から覗くと、二人いた。
一人は眼鏡をかけた男。背が高くて、スーツを着てる。でも普通の人間じゃない。まるで刃物みたいに研ぎ澄まされた危険な匂いがする。
もう一人は女。

女を見た瞬間、息が止まった。
(うわあああああ。かわいい。美人だ。こんな美人見たことない。まるで天から降りてきた天女?っヤツみたいだ。青黒い髪を後ろでくくってる、かわいい。黒スーツはバチバチ決まってて、かわいい。スタイルも。あれぇ……なんだこれ、目ぇ合っただけで頭ん中が溶けて)
ガキが見ちゃいけないレベルの美人。まるで太陽を直視するような眩しさだった。
心臓がドクドク鳴ってる。まるで太鼓を叩かれてるみたいに。顔が熱く燃えるように。

「開けてくれないか?近隣の方が心配されているんだ」

男がまたノックする。今度は少し強く。まるで俺の心臓を叩いてるみたいだ。
逃げるか?でも窓は三階だし、飛び降りたら死ぬか?
それに、あの美人ともう一度話してみたい。地獄に落ちても構わないから。
仕方ない。
俺は仕方なくドアを開けた。
「あの...」
声が裏返った。自分でもびっくりして、耳まで赤くなる。胸の奥がドキドキして、喉がカラカラに固まったみたい。恥ずかしい。
「ヒカリ君ね」
美人が俺を見て微笑む。うわあああ、笑顔も美しい。まるで観音様の微笑みみたいだ。
「だ、誰ですか、あなたたちは」
なんで敬語になってるんだ、俺。でも仕方ない。こんな美人の前では、自然と頭が下がってしまう。
「警視庁公安部・神性事案対策課の牛島純一だ。こちらは同じく神性事案対策課の神崎リリス」
男が手帳を見せる。
うわぁ、本物っぽいな。
リリスさん?変わった名前だけど、きれいな響きだ。まるで鈴の音みたいに美しい。
「寒いでしょう?中でお話ししましょう」
リリスさんが俺の肩に手を置く。
えっ、触られた!美人に触られた!
手が温かい。まるで春の陽だまりみたいに。いい匂いもする。シャンプーの匂いか?まるで花畑を歩いてるような気分だ。結婚したい。
「は、はい...」
俺の声がまた裏返る。まるで壊れたラジオみたいに。
「入らせてもらってもいいかしら?立ち話では風邪をひいてしまうわ」
かしら、だって。お嬢様みたいな喋り方だ。ツラだけじゃなく言葉まで上品だ。
男が部屋に入ってくる。リリスさんも続く。
俺は慌てて空のカップ麺を足で隠す。恥ずかしい。こんなの美人に見られたくない。まるで自分の恥部を晒すようなものだ。
「汚くて、すいません...」
「大丈夫よ。一人で頑張ってるのね、偉いね。」
リリスさんが優しく言う。責めない。むしろ褒めてくれた。
うわあああああ。優しい。こんな優しい人見たことない。まるで仏様みたいだ。
俺の胸がドキドキする。結婚しよ。
牛島が部屋を見回してる。何かを確認してるみたいだ。まるで獲物を狙う鷹のような鋭い目つきだ。
そして振り返る。さっきまでと表情が違う。
「実は騒音の件ではない」
え?
牛島がブリーフケースを開ける。中からファイルを取り出した。
俺の名前が書いてある。
「えっ?」
ファイルを開くと、俺の写真が貼ってあった。いつ撮ったんだ、これ?
「三日前の夜、君は《アバラ》という神を殺害した」
心臓が止まりそうになった。まるで氷水を浴びせられたような衝撃だった。
知ってる。こいつら、全部知ってる。
「証拠はある。目撃者もいる。監視カメラにも映っている」
牛島がファイルをめくる。路地裏の写真だ。俺が変身してアバラを殴ってる写真。
やべえ。完全にやべえ。まるで地獄の釜の蓋が開いたみたいだ。
でもリリスさんが俺の手を握った。
「でも大丈夫よ」
優しい声。まるで母親の子守唄みたいに。俺の心が温かくなる。
「あなたは悪くない。生きるために戦っただけ」
うわあああ。手、握られてる。美人に手を握られてる。
柔らかい。温かい。まるで絹のような手触りだ。
「神による社会秩序の破壊。これは国家にとって重大事案だ」
牛島が淡々と説明する。無駄のない言葉遣い。まるで機械みたいに正確だ。
「君のような神殺しは貴重だ。特に神と一体化....合一している。我々が知る限り前例はない。」
一体化?
『バレてるな』
ルシファーが頭の中で笑ってる。
「で、何ですか」
俺は開き直った。どうせもう終わりだ。まるで崖っぷちに立たされた囚人みたいな気分だった。
「ただ、無届の力行使は違法だ。そこで、選択肢をキミに与える」
牛島が俺を見据える。その目は、まるで裁判官のように冷たかった。
「国家の犬になるか、犯罪者として処分されるか。」
処分?まるで粗大ゴミみたいな言い方だな。
「でも協力してくれたら良いだけ、大丈夫よ」
リリスさんがまだ俺の手を握ってる。
「あなたは悪くない。生きるために戦っただけ。」
うああああ。この人、天使だ。絶対天使だ。まるで救世主みたいに美しい。
「協力するってどういうことですか」
敬語になってる。でも仕方ない。こんな美人には敬語を使わないと。まるで神様に祈りを捧げるような気持ちだ。
「まずは保護下での訓練と教育だ。君はまだ未成年で、正式な職員にはなれない。」
牛島が答える。でも目が冷たい。まるで実験動物でも見るような目だ。
「でも特別措置として、訓練を受けながら段階的に任務に参加してもらう。」
『「保護」という名の監視だな。不自由、死と同義だな。』
ルシファーが頭の中で呟く。でも俺は聞こえないふりをした。
「君は神崎の指揮下に入る。私とは別働隊だ」
リリスさんが微笑む。
「よろしくね。私があなたを守るから」
守る?
こんな俺を?
この人が?
まるで夢を見てるみたいだ。いや、夢の方がもっと現実味があるな。小説より奇なりってこういうことかぁ?
『守る、か...きな臭い女。』
ルシファーの声に、何か引っかかるものがあった。でも俺は気にしない。
「給与は月二十万。食事と住居も支給する」
牛島が事務的に続ける。
「条件としては悪くない」
二十万?
毎日カップ麺食えるじゃねぇか‼︎
俺の人生で一番大きい数字だった。まるで宝くじに当たったような気分だ。
「食事も、ですか?」
「三食きちんとね。あなた、痩せすぎよ。」
リリスさんが心配そうに俺を見る。
「栄養のあるものを食べなさい。体が心配だわ」
心配してくれる?俺のことを?
こんなこと言ってくれる人、初めてだ。
特に美人に。まるで砂漠でオアシスを見つけたような気分だ。
「どうする?」
牛島が問う。無感情な声だが、プレッシャーがそこにはあった。まるで死刑宣告を待つような重さだ。
リリスさんがまだ俺の手を握って待ってる。
選択肢なんてない。この人についていきたい。初めて優しくしてくれる美人に。たとえ地獄の果てまでも。
「やります」
俺は答えた。
リリスさんが嬉しそうに笑う。
「ありがとう、その言葉を待っていたよ。一緒に頑張りましょうね」
俺の新しい人生の始まりだった。まるで暗闇の中に一筋の光が差したような気分だった。
「まずはシャワーを浴びましょう」
リリスさんが俺の頭を撫でる。
うおおおお!頭撫でられた!美人に撫でられた!
まるで天国の門が開いたような気分だ。
「臭いですか?」
「そうね、少しだけ...かな?」
でも嫌な顔をしない。むしろ微笑んでる。
「でも大丈夫。きれいにしましょうね」
まるで汚れた子供を慈しむ聖母のような優しさであった。

霞ヶ関の警視庁施設、地下の極秘フロア。エレベーターの扉が開くと、目の前には真っ白な廊下が果てしなく続いている。光の反射に包まれ、まるで天国への道を歩むかのような錯覚を覚える。しかしその静謐の底には、人知れぬ秘密と監視の影が潜み、白の清らかさはただの幻であることを、歩み出す足音がひそやかに告げている。
「ここがあなたのお部屋よ」
リリスさんが扉を開ける。八畳くらいの部屋。ベッドと机と椅子がある。
「マジすか?俺の部屋?」
「そう、ここがあなたのお部屋。鍵もあるわ」
鍵をもらった。自分の部屋の鍵なんて初めてだ。まるで人生で初めて自分の居場所を手に入れたような気分だった。
「シャワーはあちら。お着替えも用意してあるの」
リリスさんが優しく説明する。
「食事は?」
「シャワーの後よ。何が食べたい?」
何が食べたい?
そんなこと聞かれたのも初めてだ。まるで王様になったような気分だった。
「何でも...」
「じゃあ、ハンバーグはどう?お野菜もたくさん食べなさいね」
ハンバーグ?
俺、ハンバーグなんて食ったことない。まるで夢んの食べ物みたいに思えた。
「あの...ありがとうございます」
リリスさんが驚く。そして優しく微笑む。
「どういたしまして。仲間であり”家族”なんだから」
家族?
俺に、家族ができたのか?
しかも美人の。
まるで人生が一変したような気分だった。今までの苦労が全部報われたような。
俺は走った。
シャワー室に飛び込んで、服を脱ぎ捨てる。久しぶりに鏡を見ると、やせ細った自分がいた。肋骨が浮き出てる。まるで餓死寸前の囚人みたいだ。
でも筋肉がついてる。前よりも。ルシファーの力?
風呂はお湯が出た。お湯が出たんだ、熱いお湯が。
天国だった。まるで生まれ変わったような気分だった。
お湯を浴びながら、俺は考えた。これでやっと人間らしい生活ができる。飯も食えるし、屋根もある。
そして、リリスさんがいる。
あんな美人が俺を心配してくれる。
『後悔してるか?』
ルシファーが聞く。
「するわけねえだろ」
俺は答えた。
「やっと這い上がれるチャンスだ。それに...」
『それに?』
「初めて優しくしてくれる美人がいるんだ」
『...そうか』
ルシファーが何かを言いかけて、やめた。まるで何か言いたいことがあるような口ぶりだった。
『君はもう、普通の人間ではない。』
「え?」
『何でもない』
でも俺には、その言葉の重さが分からなかった。
俺はシャワーを浴び続けた。新しい人生に向け、過去の汚れを洗い流すように。罪を洗い流す禊のように
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