燃え尽きた灰から蘇るもの

庵ノ雲

文字の大きさ
15 / 29

それぞれの勇者と仲間達 - アルフォンスside/勇者カズマ・アリシアside

しおりを挟む
廃墟に響く咆哮。塵となって消えていく巨大な影。

「終わったか……」

アルフォンスは額の汗を拭いながら周囲を見渡す。
リーンは杖を下ろし静かに息を吐いた。

「ありがとうございます。
 アルフォンス様のおかげで犠牲を出さずに済みました」

「いや。リーンのサポートがあってこそだ。ありがとう」

二人のやりとりに村人たちが集まってくる。

「ありがとうございます……命の恩人です」

「なんとお礼を申し上げたら良いものやら」

深々と頭を下げる村人たちの眼差しには畏敬の念が宿っている。

(この感じ……やはり俺たちは)

アルフォンスは複雑な思いを抱く。

かつてはアルフォンス自身も帝国の「騎士」として民から頼られていた。
だが今は違う。召喚勇者カズマが現れたことによって彼の立場は失われた。
それでも村人たちはアルフォンスとリーンに感謝し救いを求めている。

「みなさん。落ち着いてください」

リーンが優しく呼びかけると村人たちが次々に語り出す。

「町が魔族に襲われて食料も医薬品も足りなくて……」

「子どもが熱を出して苦しんでいます」

「魔物が出没する森を通るしか隣村へ行く手段がなくて……」

貧困と病と恐怖。小さな村が抱える問題の数々。
それらすべてを解決するのは容易ではない。

「どうしましょう? アルフォンス様」

リーンが不安げに問いかける。

(まずは彼らが生き延びるために必要な物を……)

アルフォンスは即座に判断した。
前勇者の墓へ向かう旅は重要だが最優先すべきは目の前の窮状だ。
聖女と共に人々を助ける――それが彼らの使命なのだ。

「リーン。手持ちの薬草を分配してくれ。それから水を浄化したい」
「承知しました」

リーンが魔法で清めた水を汲み置き場に貯めていく。
アルフォンスは負傷者を診察し症状ごとに薬草を選別する。

(これは……思った以上に深刻だな)

小さな村ひとつとってもこれだけの人々が苦しみ喘いでいる。
おそらく他の地域も似たり寄ったりなのだろう。

(もし帝国が本気で対策に乗り出しているのなら……
 なぜもっと手を打たない? カズマやアリシアたちはどうしているんだ?)

疑問が浮かぶ。

アルフォンスが帝国を離れている間に起きたであろう変化。
召喚勇者カズマと元婚約者を含む仲間たちは一体どこで何をしているのか?

「アルフォンス様?」

考え込む彼にリーンが心配そうな眼差しを向けた。

「いや。なんでもない」

彼女の問いかけに答えずアルフォンスは思考を切り替えた。
目の前の問題に集中しなければならない。

「水の浄化と食料分配が終わったら次の町へ移動しよう。
 そこで情報を集めて前勇者の墓へ向かうルートを探る」

「分かりました。アルフォンス様は大丈夫ですか?」

リーンが気遣うように言う。

「ああ。問題ない。少し疲れただけだ」

本当は身体に痛みが走っている。
隻腕のアルフォンスにとって長時間の作業は想像以上に堪える。

それでも彼は顔に出さず笑顔を作った。
隻腕隻眼で顔の半分が焼け爛れた彼を、リーンは献身的に支え続けてくれる。

(これ以上の負担を彼女にかけるわけにはいかない)

アルフォンスは決意を新たにする。

彼らの旅は始まったばかりだ。

前勇者の墓を見つけ真の力を手に入れる為に。
そして苦しむ人々を救う為、長い旅路の中で二人の絆はさらに強くなっていく。

---

数週間後。

アルフォンスとリーンは各地の村や町を訪ね廃墟や避難所で人々を救っていた。
時に魔族や魔物を退治し食糧や医薬品を提供して回復魔法で傷を癒やす。
その活動の噂は次第に広まり彼らを指して「解放者」や「救済者」と呼ぶ声が上がった。

しかし――



「ねぇカズマさまぁ? 次はどの街に行くのぉ?」

甘えた声が響く。召喚勇者カズマの仲間たちだ。
煌びやかな馬車には魔導師のアリシア他二人の女性が乗っている。

「そうだな。次の領地は魔物討伐の報奨金が高くて良いらしいぞ」
「えー? またお金稼ぎぃ? もう飽きてきたなぁ~」

愚痴を零すアリシアの膝上には大きな宝石のネックレスが光る。
豪華なドレス姿。かつての知的な魔導師とはまるで別人のように変貌していた。

「文句言うなよアリシア。俺がいるから安心だろ?」
「うん♪ カズマさまなら平気だよねぇ~?」

カズマがアリシアの肩を抱くと彼女は嬉しそうに擦り寄る。

二人の後方ではカズマの魅了スキルの犠牲となった
貴族令嬢や宮廷魔道士たちが護衛兵と共に馬車を守っていた。

「まったく……あの調子じゃ帝国はもうおしまいかもな」

護衛兵の一人がぼやくように呟いた。

「まぁ俺達には関係ないけどな。カズマ様がいれば安泰だ」
「それにしても……カズマ様の取り巻き達の実力派大丈夫なのかよ?
 アリシア様なんて変わり過ぎて戦えんのか?」
「さあな。勇者サマのご機嫌取りでもしてりゃいいんじゃね?」

この護衛兵たちもかつてはアルフォンスの雄姿に憧れたはずだった。
その志しはもはや欠片も残ってないように見える。

そして、カズマ達の眼中にもない小さな村や町で広がり始めた……
アルフォンスとリーンが救った人々から始まった噂は彼らの耳にはいまだ届かない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...