俺の幸せの為に

夢線香

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本編

18. 皆でダンジョン



 結局、イグディスとカドリスの話し合いがどうなったかというと、ハニエル達がダンジョンへ行く日は公爵家の仕事を休んでもいいことになったらしい。しかも、夜勤の仕事はなくなり給金は多少下がるが、次の団長候補を育てることで手を打ったようだ。剣の稽古はハニエルとシュザークだけではなく、キディリガン家全員と一緒に公爵家の訓練に参加出来るようにしてくれたらしい。

 余程、カドリスを手放したくなかったようだ。

 その後、カドリスは訓練場に戻って行った。ハニエル達は、イグディスとその妻のリーリンとお茶をしている。

 リーリンは、前に会った時よりも綺麗になったというか、艶が増して色っぽくなったというか……美しさが増していた。

「はあぁ。まさか、お前達がダンジョンに行くとは思ってもみなかったよ」

 イグディスは、疲れたように深い溜め息を吐いた。

「本当に、大丈夫なのかい?」

 イグディスは、ハニエルとシュザークを見ながら眉を下げる。それに、シュザークが答えた。

「心配要りません、イグディス伯父上。無茶な攻略はしませんから」

「僕達、冒険者ランクがDになったんですよ!」

 にこやかに話す二人に、大人三人の不安そうな眼が突き刺さる。

「そうだ、伯父様達にお土産があるんです」

 ハニエルは、収納空間から木苺の入った箱や胡桃やプラムなどを次々と出していく。シュザークも一緒になって一角兎の肉やぷんすかボア、狂い鳥の肉を出していく。

 公爵家のイケオジ執事さんがワゴンに次々と乗せて行った。

「こんなにたくさん……いいのかい?」

 イグディスが驚いて聞いてきた。

「はい。伯父上や伯母上には、いつも良くして貰っているのでそのお礼です」

 シュザークが、にこりと微笑んだ。

「これを伯父様に」

 ハニエルが出したのは、スライムジェルの瓶。それを五つ程出して並べる。

「スライムジェルかい? リーリンではなく私に? とても肌に良いらしいね?」

 女性のリーリンに渡した方が喜ぶのでは? と、暗に匂わせながらハニエルに聞いて来る。

「えっと……」

 ハニエルは、何かを思い出そうとするように顎に指を当て首を傾げる。そして、ぱっと表情を明るくした。

「男のたしなみですっ!」

 自身たっぷりに答えるハニエル。

 ガチャッ。

 皆が音のした方を見ると、リーリンがティーカップをソーサーに戻している所だった。

「ご、ごめんなさい、私ったら……はしたなかったわね」

 頬を染めて恥じらう、リーリン。

 ハニエルの愛読書を知るリーリンには、解ってしまったのだろう。

「大丈夫かい?」

「え、ええ……」

 心配そうなイグディスにリーリンは俯きがちに微笑む。

「それで、男の嗜みというのは?」

 あ、そこ聞いちゃうんだ。

「えっと……」

『ハル! 待ちなさい! 責めて伯父様には、こっそりと教えてあげなさい……』

 ん? わかった……?

 ハニエルが、この場で公言することを何とか阻止した。

 ハニエルは、椅子を降りてイグディスの傍に寄り口元に手を当てると、内緒話だと察したイグディスが耳を寄せて来た。

 リーリンは、言わないでと言わんばかりにハニエルに祈るような視線を向ける。

 暫く、こしょこしょとイグディスの耳に囁やき、何度かイグディスからハニエルの耳元に口元を寄せて何事か聞きながら、ちらりとリーリンに流し眼を送った。その眼のエロさと言ったら……筆舌に尽くしがたい。

「――そう……それは、楽しみだね」

 イグディスは、リーリンを見ながら眼を細めて笑った。

 リーリンは、あから様に狼狽えていた。

 はい、そうです。「秀麗騎士団物語」情報です……

 スライムジェルを使ったローションプレイですよ……あの本のシリーズで、何度か出てくるプレイです。

 どうやらイグディスは、ハニエルが前回お勧めしたセドリック・バタフライ編をお読みになったようで……でもスライムジェルは、セドリック・バタフライ編には出て来ない。

 なるほど。リーリンが急に綺麗になったのは、そのせいか……イグディスは官能に目覚めたに違いない。

 うん。夫婦仲がいいことは良いことだ。

 イグディス夫妻の間には、リーリンがイグディスの五歳下と言うこともあって二歳になる女の子しか産まれていない。きっと兄弟が増えることだろう。

 リーリン伯母上、頑張ってください……



 ハニエル達は一頻り談笑した後、転移で屋敷に戻った。

 正直、シュザークに、イグディスと何を話していたのか聞かれるかと思っていたけど、そこに触れて来ることはなかった。……ほっとした。

 屋敷に着いてからは、自由時間。

 ハニエルとシュザークは、この間行けなかった森へ行くことにした。

 途中でガルドとユリセスに出会い、二人も付いて来ると言うので四人で森に入った。

「ユリセスは、ダンジョンなんかで怪我したりした時はどうしてたの?」

 ふと疑問に思ったのでハニエルを通して聞いてみる。

「んー、酷い怪我の時は、ギルドの治癒院で金を払って回復魔法を掛けてもらうな。後は回復薬なんかは必ず持っているし、ちょっとした傷はその辺の薬草を採って使ってたな。傷薬も買ったやつを持ち歩いてる」

「へぇー。じゃあ、薬草は見れば分かるの?」

「俺が知ってんのは、傷薬と熱冷まし、打撲に塗るやつと毒消しくらいなもんだ」

「ガルドは?」

 今度は、ガルドに尋ねる。

「俺もユリセスと同じです。孤児院で教わるんですよ。薬なんて買えないですから」

 そうなのか。

「あ、そこの葉っぱが傷薬になるやつ」

 ユリセスが指差した葉っぱを見る。

「これをどうやって使うんだい?」

 シュザークが興味津々で尋ねる。

 ユリセスは、葉っぱを一枚ぷちっと採ると指で擦り合わせるように潰した。

「こうやって潰して、傷に塗るだけ」

 ハニエルとシュザークは、自分達も葉っぱを採って同じように指で擦り潰して匂いを嗅いだりした。

「でも、買った方が効き目が良い。これは、緊急処置くらいに思っていた方がいいぞ」

 ハニエルとシュザークが頷く。

「あそこに、山鳥がいますよ」

 ガルドが前方の木の上を指差す。

「狩るかい?」

 シュザークが聞いて来る。

「うーん。お肉はいっぱいあるから今はいらないです」

 ハニエルが答えるとシュザークは、頷いた。

 暫く、色々尋ねたり鑑定したりしながら歩き回ったけれど、これといってめぼしいものはなかった。

「帰ろっか」

 シュザークの言葉に頷いて転移で屋敷に帰った。



 そして翌々日、遂にダンジョンの四階層に行くことにした。

 ハニエルが眠っているので、俺が出てる。最近ハニエルは眠ってばかりだ。大丈夫だろうか……

 本日は、新たにカドリスとユリセスを加えた十人パーティだ。

 ユリセスが最低限の持ち物や装備を教えてくれたけど、その殆どがお金がなくて準備出来なかった。

 何か言いたげなユリセスだったけど、自身も何も持っていないので何も言わなかった。

 念の為、全員に結界魔法を掛ける。つるりじゃないやつ。外からの攻撃は防ぐけど、こっちからは攻撃出来るやつを張った。

 四階層は、草原だけど岩や木等の障害物がぐんと増えた。

「いいか? いくら弱い敵とはいえ油断するなよ? この階層からはゴブリンが出る。奴らは子供くらいの知能があるからな。今までの、ただ突っ込んで来る魔物とは違う。俺達をおびき寄せて数で襲ってくるぞ。捕まると犯されて孕み袋にされちまう」

 ユリセスが厳しい口調で注意してくる。

「じゃあ、女性は気を付けないとな」

 ガルドが言った。

「女だけじゃない、男もだ」

 ユリセスの言葉に男性陣が固まる。

 ……尻を狙われるんだよな?……絶対に嫌だ。

「ゴブリンは人型だから、倒すのを躊躇う奴が多いんだよ。遭遇したら迷わず倒せ、何も考えるな」

 四階層で出る魔物はゴブリン、アクアフロッグ、水を撃ってくるカエルだ。罠蜘蛛、鳥黐トリモチみたいなベタベタくっつく蜘蛛の巣を飛ばして来たり、罠みたいに仕掛けたりする蜘蛛。速鶏、中型犬くらいの茶色い雄鶏で動きが速い。トサカをブーメランみたいに飛ばして来たり鋭い羽根を刺してきたり、足蹴りして来たりする。

 取り敢えず一通り倒して歩き、これなら魔物を呼び寄せても大丈夫だとなってからは、二人一組で行動することに。

 俺とシュザーク、ミーメナとカドリス、タキートとユリセス、ガルドとソーン、メルとシリア。

 人の居ない場所を選んで魔物寄せの歌を歌いながら、がんがん倒した。何となく寄ってくる魔物が多い気がした。ギルマスのギャジェスには、四階層からは好きなだけ狩っていいとお許しが出たので、何度も歌っては倒すを繰り返した。

 昼食に一度集まって、其々の進捗を聞きながらソーンが作ってくれたサンドイッチを食べる。

 ガルドとソーンの魔力が怪しかったので、ガルドとシュザーク、ソーンと俺でやることになった。

 ソーンは魔法よりも物理なので体力の消耗が激しい。おまけに切れ味の悪い武器のせいで、余計疲れるみたいだ。魔力を譲渡する手もあるけど、それよりも武器の精度を上げるべきか? 炎の剣とか作れないかな? 掠るだけでも燃えるようなやつ。ソーンは刀のほうがいい気がするから……

「炎の刀」

 口にしたら出てきた。

「ソーン、これ使ってみて」

 刃が炎のように燃え盛る刀をソーンに差し出す。

「うわっ! 何ですかこれ? かっこいい……」

 ソーンが持っても消えることはなかった。

 ソーンが魔物の集団を炎の刀で横に一線させると、ニ、三十体くらいが一気に燃えて消し炭になった。

「凄いですっ! この剣凄いっ……!」

「剣じゃなくて刀ね」

 ソーンは、大喜びで魔物を蹂躙した。

 これは、ガルド、ユリセス、メルにいいな。シュザーク、タキート、シリアに是非、覚えてもらおう。

 ギルドカードで連絡を取って、一度皆に集まって貰う。武器の出し方を教えて出せるようになって貰った。

 最初に張った結界のお陰で俺達が怪我をすることはなかったので、全員で魔物を呼び寄せ、其々魔法で出した武器で戦ってみた。カドリスとユリセスの剣技は流石で、二人に実践で教えてもらいながら頑張った。

 それでも、碌に扱ったことのない武器でずっと戦うのは無理があって、俺、シュザーク、ミーメナ、シリアはへばっていた。

 落ち着いた頃を見計らって、俺達は離れた場所で魔物を呼び寄せ、魔法でバンバン倒した。


 魔力の残量が少なくなってきた頃合いで切り上げ、転移でギルドに戻り精算をする。

 四階層からは魔石かアイテムのどちらかが出るようになった。ゴブリンは魔石のみ、アクアフロッグは魔石か肉。罠蜘蛛は魔石か蜘蛛の糸。この糸の巻一つでハンカチ一枚分くらいの布が織れるらしい。速鶏は魔石か卵。

 魔石は需要があって、幾らでも買い取ってくれるんだって。
 
 四階層で取れる魔石は小さいので銅貨一枚で売れる。

 この世界のお金を、元の世界に換算すると、こんな感じ。

 小銅貨一枚    十円
 銅貨一枚     百円
 大銅貨一枚    千円
 銀貨一枚    一万円
 白銀貨一枚   十万円
 金貨一枚   二十万円
 大金貨     百万円

 今日俺は、五千体くらいの魔物を倒した。いつもより寄って来た魔物が多かったせいだ。

 魔石は二千ちょっと。二千売って二十万円、その他に罠蜘蛛の糸を千ちょっと手に入れたので、それも少しだけ手元に残して、糸一つ銅貨一枚で売って全部で三十万円相当を手に入れた。

 他の皆も、似たりよったりのお金を手にした。

「その金で、まずは装備を買え。それと次ダンジョンに行くなら五階層に行けよ」

 ギルマスのギャジェスに、そう言われた。

 早速、ユリセスのアドバイスに従って服を買う。

 この世界は魔法で浄化出来るせいで、服が高い。

 最悪一揃い持っていれば簡単に浄化出来るので、同じ服を毎日着ていても不潔じゃないから服があんまり売れないのだ。

 そして、売っている服も丈夫で良い素材を使っているので余計に高い。しかも、サイズも魔法で自由自在。よくよく話を聞いてみると、服というのはとても大きいサイズで作るそうな。そうすれば魔法でサイズを調整出来るから。子供の身体にぴったりの服を作っても小さくは出来るけれど、元々の大きさより大きくすることは出来ないそうだ。

 魔法でサイズを調整出来ない服もあって、それは手頃な値段でオシャレを楽しみたい人に、人気があるらしい。ただ、サイズ調整出来る物よりも品質は劣る。

 どうせなら、パーティでお揃いにするかとなって、黒のあまりピッチリとしていない革ズボンとベージュの柔らかい革で出来た長袖シャツ。動きやすくて軽い焦げ茶の革で出来た脛までの編み上げブーツ。焦げ茶の柔らかい革手袋を買ったら、あっと言う間に二十五万円分のお金が飛んで行った。鞄と外套も欲しかったけれど今回は諦めた。それでも、布で出来たシャツやズボンよりはずっと丈夫だ。

 残ったお金で足りない食材を買ったりすれば、手元に残るお金はなくなった。

 必要な物が揃うまでは、お金を貯めるのは無理かな。

 新しい食材が手に入ったから、ご飯が楽しみだ。

 こんな感じで、俺達のダンジョン攻略は進んで行った。






 


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