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本編
20. バレた……
お茶会が終わってからは相変わらずの毎日。ダンジョン攻略に勉強に剣の稽古。
ダンジョンのドロップアイテムに種が出るようになったので庭師のガルドとシュザークで試しに植えてみた。種は一週間でみるみる成長し、あっと言う間にトウモロコシが収穫できた。しかも、とても美味しかった。
あまりの成長の速さに土壌が痩せてしまうのでは? と心配になり詳しく調べてみると、土壌には何の影響も与えていなかった。種そのものに成長するまでの魔力が含まれていて、その魔力のみで成長するみたいだ。
但し、一度収穫してしまえばそれで終わり。収穫したものから種を採っても、それが育つことはない。収穫物を取ってしまえば残った茎や葉や根はあっと言う間に枯れて腐り、逆に土壌を豊かにした。
植えてしまえば手もかからず短期間で収穫出来る上に土まで豊かになる、こんな凄い夢のような農作物があるのかと驚いた。でも、何故か市場には出回らない。
タキートに理由を聞くと、収穫したものから次の種を採れないのでギルドから冒険者が獲って来た種を買うしかない。種も安いとは言えない金額だし欲しい数の種を継続的に得るのが難しい為、安定した供給ができず売り客が定まらないそうだ。収穫した時だけ大量に市場に出しても、値崩れを起こすだけで実入りが少ないとも。
後は収穫が早すぎて人手が足りないのも要因の一つだ。知っている者は、偶に畑に植えて自分達の食料にするのが普通らしい。
こんなに美味しいのに……なかなか上手くいかないものなんだな。だが、俺達はその種を大量に持っている訳で。
「キディリガン家の土地に、荒れ地で売れなかった土地があるのだけれど……そこに植えたら土地が豊かにならないかしら……?」
ミーメナが呟いた一言で、その荒れ地に種を蒔くことにした。
土属性を持つシュザーク、カドリス、ガルド、シリアの四人で荒れ地をザクザク掘り返し、残りは結界魔法で土の中の石や木の根を結界に閉じ込めて別の場所に移した。
収穫量を考えて自分達が作業出来る分の種を蒔く。
その周りには結界を張って獣や人が入って来れないようにした。
収穫は大忙しだった。
採ったものは収納空間に入れたけど邪魔になるので、荒れ地から出た大量の石を魔法で加工して倉庫を建てた。その倉庫に空間魔法で空間を拡張して腐敗防止の魔法を施した。
今迄やって来た畑仕事はなくなり、それからはダンジョンの種を使った農作業に切り替わった。
我が家の食卓が益々、潤った。
領主としての仕事を手伝うこともある。
盗賊が出たと報告があれば皆で捕まえに行ったし、崖崩れが起きたと報告がくれば復興作業に出向いた。農作物が獣の被害で収穫が危ういと聞けば出向いて獣を狩ったり、外道の整備をしたりもした。
そのせいか、領民からは感謝され色々農作物を貰ったりした。
そんなこんなで、あっと言う間に一年が経った。
ハニエルとシュザークの背は潤沢な食事のお陰で、二十センチは伸びた。身体もムキムキではないけれど筋肉が付いて逞しくなった。
俺達だけでなく、他の皆も背が伸びたり筋肉が付いて健康的になった。おどおどとした雰囲気はなくなり自信が付いてきたように思う。
その頃には、ダンジョンは八十階層まで攻略していて全員の冒険者ランクがBになっていた。
二回目の王太子殿下のお茶会にも行った。
お菓子が美味しくなっていた。ソーン程じゃなかったけどね。
今回は殿下に話し掛けられることもなく何事もなく終わった。
俺の一番の悩みはハニエル。
この頃は、殆ど表に出て来ることがなくなっている。
勿忘草の花畑では、俺の髪は伸び続けていて、今では地に付くほどだ。切りたくても切れない。一体、何なんだ!? 髭なんかは全然伸びないのに髪だけが伸びる。
ハニエルは眠ってばかりだし、何が起こっているのかも解らないので、不安ばかりが募る。
ハニエル、いい加減起きてくれ……眠りに落ちるのは俺のはずだろ? お前の身体も健康で丈夫になったし、強くもなった。借金の返済の目処もたった。何の憂いもないはずだ。――何時まで俺に人生預けてるんだよ……
俺は行き詰まっていた。
そんなある日、夕食を皆で摂ってお茶をしていた時のことだ。
夕食後のお茶の時間は打ち合わせの時間でもある。真ん中にテーブルを置き、それを囲うように三人掛けのソファを四つ周りに並べた形だ。
一つのソファにはミーメナとカドリスが座り、もう一つには俺とシュザーク。ガルド、ソーン、ユリセスが一つのソファに座り、メルとシリアが残りのソファに座っている。
「――ねえ、ハル。今までずっと黙って来たけれど、君は一体誰なんだい?」
「…………」
シュザークからの突然の誰何だった。
他の皆は困惑して俺とシュザークを見詰めた。
「前までは、ちゃんとハルも出て来ていたよね?……でも、最近は全然出て来なくなった。どうしてだい?」
静かな口調で問い詰めて来るシュザーク。その眼は厳しい。
「…………」
俺は答えることが出来なかった。何と言えばいいのか分からなかったから。
「――シーク、何を言っているの……?」
ミーメナが強張った顔でシュザークを見た。
「母上も気付いているはずです」
「…………」
思い当たることがあるのだろう。ミーメナは黙り込んだ。
「――私を兄様ではなく、兄さんと呼ぶ君は誰……?」
「…………」
どうしようか? ここで全てを話して信じて貰えるだろうか? もしかしたら、今のハニエルの状態を脱却出来る糸口を見付ける、いい機会なのかも……?
俺が思案していると痺れを切らしたのかシュザークが言う。
「私はこんな時の為に、一つ、魔法を覚えたんだよ?」
シュザークは、にこりと笑みを浮かべて俺の肩に手を置いた。
「真実の姿を表せ」
シュザークの魔法の言葉と共に、俺の身体が眩しいほどの光りに包まれ、無理矢理引っ張り出される感覚がした。
光が収まると、俺の胸にハニエルが居て思わず落とさないように抱き締める。――抱き締める……?
「「「「っ………!?」」」」
全員が息を飲んだ音がした。
俺は俺の姿で、眠るハニエルを抱っこしていた。
異常に長くなった髪もソファの上に、とぐろを巻く。
今は、一体どんな状況なのだろう……?
「……俺の身体が、ある……?」
思わず、呟いていた。
「――違うよ?……魂のあり様を形にしただけだ」
シュザークも驚いているだろうに説明してくれた。流石、説明担当。
俺は、ゆっくりと全員を見渡す。皆、目を見開いて口を開けて俺を凝視している。無理もないな。こんな怪し気な男が、いきなり現れたのだから。
――まあ、こうなったら仕方がない。
「この姿では、初めまして。俺はアシャレント」
本当は芦谷蓮人だけど、ステータスにアシャレントと出ているので、そう名乗る。
「アシャレント……? 君は何故、ハニエルの中に居るの?」
シュザークが問う。
「さあ……? それは、俺にも解らない。そもそも俺はこの世界の人間ではないしね」
「この世界の人間じゃない……?」
「そう、魔法のない別の世界で暮らしてた。死んでしまったけどね」
「魔法がない……? 死んだ……?」
シュザークも他の皆も困惑している。無理もない。こんなオカルト的な話を突然されてもな。
「……死んだと言うなら……ハニエルに取り憑いてるってこと?」
シュザークが眉間に皺を寄せる。
「うーん、どうだろ? 気が付いたら真っ暗闇にいてそこでハニエルと会った。ハニエルは、自分以外は誰も入って来れない、ハニエルが創った場所だと言ったが……深層心理の中の……心の逃げ場所かな? と俺は解釈したけれど」
「…………」
「――暗闇で、泣いて助けを求めていたから声を掛けた」
あの時のハニエルを思い出すと胸が痛む。無意識にハニエルの背中を撫でていた。
「――それは……いつのこと……?」
「公爵家に助けを求めに行った、少し前辺りかな?」
「――じゃあ……あの時、私の所に転移して来たのは……?」
ミーメナが恐る恐る聞いて来る。
「俺ですね」
「――そう、やっぱりそうなの……」
「あの時は大変だった……魔法の使い方も解らなかったし、ハニエルの身体は瀕死の重傷だし、母様と兄様を助けてって泣かれるし……自分があんな状態なのにな……」
「「…………」」
ハニエルの背中を撫でていると、漸くハニエルが目を覚ました。
「……アシャ?」
「やっと目を覚ましたな。……ハル」
ハニエルは、目を擦りながら周りを見渡した。
「記憶を見てくれ」
「うん、分かった」
状況が解っていないハニエルには、記憶を見てもらった方が早い。
「そっか、バレたんだね」
ハニエルは、くすくすと笑った。
「兄様、アシャを消そうなんて思わないで下さいね?」
「――どうして?」
シュザークが不満そうに聞いて来る。
消すつもりだったのか……それは、それで良くないか?
「アシャ……! 良くないよっ!」
頬を膨らませたハニエルに、胸を叩かれる。
「アシャが消えたら、僕も消えちゃうって言ってるでしょう。そもそも、アシャが僕を護ってくれてるから僕はまだ消えてないんだよ?」
「だったら、俺が眠るからハルは自分の人生を生きろ。いい加減、俺を眠らせろ」
それは、俺の本心。本当に眠らせて欲しい。
「ごめんね……アシャ……それは、出来ないよ」
ハニエルが唇を噛んだ。
「何故?」
「アシャと僕は……もうすぐ完全に一つになるから」
「また、それか? 魂がくっ付いてしまったのはもう解った。だから、意識としてハルが表に出ていればいいだけだろ?」
ハニエルは首を横に振る。
「違うの。アシャと僕のどっちかじゃなくて、アシャと僕がどっちも表に出るんだよ」
「ん……?」
「アシャは僕で、僕はアシャなの。アシャが幸せなら僕も幸せだし、僕が幸せならアシャも幸せなの。哀しい時も、怒ってる時も、嬉しい時も、全部そうなのっ!」
「…………」
「本当は……とっくにそうなっているはずなのに……アシャが抵抗するから……アシャのその髪……アシャの力が開放されないから、どんどん溜まってるんだ……」
「そうなの……?」
「アシャ、アシャはおかしいと思わないの……?」
「――何が?」
「最初に体がくっ付いた時から、アシャは無条件で僕を助けてくれたよね……? 知り合いでもなんでもない僕の為に痛みを引き受けて……助けてくれたよね? 母様と兄様のことだってそう。どうして助けてくれたの? 僕がお腹を空かせてるから、皆もお腹が空いてるからって……天空鳥を狩りに行ったのは何故?……家のお金のこととか、皆の食事のことまで気に掛けるのは? 今は、兄様のことを一番気に掛けてるよね?……どうして?」
ハニエルの質問攻めにうっと詰まる。どうして……だって?
「……情が、湧いたんだろ……」
ハニエルが首を振る。
「違うよ、アシャ。全部、僕の望みだったからだよ。僕がそうしたかったこと。――僕の身体が透けていって眠ってばかり居るのは……アシャが消えたいと望んでいるから」
「…………」
「アシャが、皆を好きなのは僕が皆を好きだから。ダンジョンで皆が傷付かないように、その為の魔法をいつも考えてる。皆が、死なないように強くなるように鍛えてる。アシャは別にそんなことしなくても良いのにね……」
ハニエルが苦笑する。何だか随分大人びたように見えた。俺の記憶を見たせいか……?
「――目の前で死なれたら、……寝覚めが悪いからだろ」
「ううん。もう、僕とアシャが交じってる証拠だよ」
「…………」
確かに、俺は最初からハニエルの為に行動していた。ハニエルの身体にいるんだから、ハニエルをどうにかしないと駄目だと思った……
「――要するに、ハルとアシャレントは二人で一人で、アシャレントを消してしまったら……ハルも消えるんだね……?」
「そうだよ」
シュザークが確認するように尋ねてくる。
「……アシャレントが私を……一番気に掛けてると言うのは何故なの?」
「――それは、兄様が魔王候補だから」
「「「えっ……!?」」」
皆の声が揃う。
「言わない方が良かったんじゃないか……?」
俺の言葉にハニエルは首を振る。
「…………私が、魔王候補…………?」
ミーメナとカドリスがシュザークをがん見している。
「アシャは、兄様が魔王にならないように兄様を護ってるんだ」
「私を……?」
「兄様もアシャに抱っこされれば分かるよ。自分がアシャに護られているって……」
シュザークは、じっと俺を見詰めてきた。
ん?……これは、抱っこする流れか……? そんなんで何が分かるんだ?
ハニエルが俺の脇にずれたので、シュザークに手を拡げてみる。
シュザークは、暫く迷ってから寄って来たので抱き上げて縦抱っこして背中をぽんぽんした。
「――もしかして……時々、私をぽんぽん、ぽんぽん叩くのは意味があったの……?」
シュザークは、恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋めた。
「時々、お前から黒い靄が出るからなあ。見掛けたらこうやって払っていた」
「…………」
「まあ、お前もまだまだ子供だしな。ハニエルばかり気に掛けているけれど、あの件では、お前だって深く傷付いているよ……」
シュザークの頭を撫でて、もう片方の手で背中をぽんぽんするとシュザークがピクリと震えた。
「……痛いのも……怖いのも……悔しいのも……寂しいのも……全部ハルと一緒だ……お前は……よく頑張ったよ……お前だって辛かったよな……」
頭をゆっくりと撫でて、震える背中をぽんぽんする。
「――シュザークが、なんてことないように強がっててもさ、ダンジョンで魔物を難無く薙ぎ倒すような子供だけどさ、それでもまだ子供なんだよ……もうちょっと、シュザークも気にかけてよ……あんた達も辛かったろうけど、親だろ?」
ミーメナとカドリスを見てお願いする。
「……ごめんなさい。シュザークがあんまり頼りになるから、甘えていたみたい……」
「そうだな……その通りだ……すまない……気を付けるよ」
二人は項垂れてしまったけれど、別に責める気はない。あの件じゃ、皆、傷付いたのは一緒だからな。
シュザークが落ち着くまで、暫くそうしていた。
ハニエルは、黙ってシュザークに寄り添っていた。
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