俺の幸せの為に

夢線香

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本編

26. 十二歳のあれこれ




 十二歳になった。

 シュザークは十四歳。

 まだまだ、成長期。俺は百七十センチにもうすぐ届く。シュザークは伸びが緩やかになって来てもう少しで百八十センチに届く。




 ちょっとした騒動があった。

 なんと、キディリガン家の門前で騒ぎ立てる少女が現れたのだ。

 タキートやユリセスが追い払っていたようだが、毎日やって来ては騒ぎ立てるのだとか。

「その少女は、何をそんなに騒いでいるんだい?」

 夕食後のお茶の時間に、お疲れ気味のタキートとユリセスが気の毒になったのかシュザークが尋ねる。

「それが、シュザーク様に合わせろと騒ぐのです」

 タキートが溜息混じりに答える。

「私に? 何故?」

 シュザークは首を傾げる。ユリセスが呆れたように話し出す。

「アレはきっと、頭がおかしいですよ。シュザーク様を救えるのは私だけよっ! とか、酷い虐待から直ぐにでも助けてあげなきゃっ! とか、母親と弟が死んで哀しんでいるシュザーク様を癒やしてあげなきゃっ! とか、学園が始まるまで待っていられないわっ! とか……頭おかしいでしょ?」

「「え……?」」

 俺とシュザークの声が被った。

「……そのお嬢さんの中では、私とハーシャは死んだことになっているの?」

 ミーメナが顔を顰める。カドリスがミーメナを抱き寄せた。

「――その少女って、ピンク色?」

 俺が恐る恐る聞くと、タキートとユリセスは頷いた。

 俺の元の世界の記憶持ちっぽいな……しかも、ピンク色ならヒロインが濃厚だな。……え? もしかしてシュザークが魔王になる要因って……ハニエルとミーメナの死か? 本当なら、今もシュザークへの虐待は続いていた?

「兄上……確か、この間ダンジョンで姿変えのペンダントが出ましたよね?」

「出たね。……急にどうしたんだい?」

「学園に行くなら、それを使って姿を変えてください。今、持ってますよね?」

 シュザークは、理由の分からない顔をしながらもペンダントを出して首にかける。

「その麗しい姿を平凡でモテそうもない姿にするんですっ!」 

「――どんなだい?」

「えっと、そうですね……まず髪は……いや、色を変えるのは不味いな。髪は癖っ毛のボサボサ頭で、目はどんよりとした死んだような、眠そうな垂れ眼でお願いします。うーん、輪郭が整い過ぎてるな……そばかすも散らして、顔も体もぽっちゃり体型で行きましょう!……うん、いい感じ!……これなら、モテそうもありませんっ!」

「「「…………」」」

 ――女性陣が不満そうだ。

「私がこうなら、弟のお前も合わせないとね?」

「そうですね……念には念を入れて、そうしましょう」

 俺も収納空間からペンダントを取り出して、首に掛ける。

「じゃあ俺も……髪はボサボサで癖っ毛、目はじとっとした半眼で……そばかすも散らして、ぽっちゃりさせれば――どうですか?」

「確かに……モテそうもないね? ふふっ!」

 シュザークは、肩を震わせて笑った。

「「「…………」」」

 ――女性陣は、やっぱり不満そうだ。

「よし、今度ピンク色の少女が来たら、この姿で追い払いましょう」

 そして次の日、やって来た少女の前にその姿で出ると少女は口をあんぐりと開けたまま固まった。

 こんなの、シュザーク様じゃないっ! と叫びながら逃げて行った。

 うん。作戦成功だ。


 なんてことがあった。


 

 この世界、ちゃんと学校がある。但し、十四歳から。

 読み書き計算、魔法の使い方、平民が知っていなければならない法などは教会で習うのが常識。

 貴族は、各家で家庭教師を雇って習う。平民と違うのは、そこにマナー、ダンス、貴族名鑑の暗記、国の歴史、法等が追加される。

 俺達は、家庭教師を雇うお金がないのでミーメナやタキートにビシバシ叩き込まれた。

 何故か巻き添えを食ったガルド、ソーン、メル、シリア、ユリセスも一緒に。今では五人とも、貴族か? と思うほど所作が綺麗だ。

 十四歳からと云っても、それは一般的なもの。試験に合格さえすれば、それ以下でも、それ以上でも、何歳からでも構わない。

 元の世界の学校と似た感じなのは、騎士科と魔法科と文官科の三つ。この三つは制服がそれぞれあって、四年間学園に通うことになる。

 こちらの学校の面白いところは、職業訓練校みたいな感じで専門の科がたくさんあること。大工や建築士、料理人や服飾、武器や防具職人等など、たくさんあるのだ。

 将来使うかどうかも分からない勉強をだらだらとするのではなく、なりたいものを習うというスタイル。

 勿論、研究したい人は、それなりの科があるのでそちらに行く。

 それもあって、学園に通う年齢層は幅広い。一つだけの科だけではなく、複数の科を取る人もいるし、何をどう取るかは本人次第。

 職人系の科は、弟子入りするのに近いかも知れない。

 シュザークは十四歳なので、今年から学校に通うはずだが……試験とか、いつなんだろ? いつから学校に行くんだろう? と思っていたら、いつの間にか俺も入学することになっていた。

「俺……試験を受けた覚えがないんですが……?」

「この間、母上が一日だけ他の家庭教師を連れて来たことがあったろう?」

「あー、何か総合的な実力が見たいからと……一日中問題を解かされましたね」

 確かに、そんなことがあった。母上が自分達の教えだけでは不安だから、ちゃんとした人に観てもらうと言って連れて来たっけ……

「それが、入学試験だったんだよ?」

「え?」

「因みに、ガルド、ソーン、メル、シリア、ユリセス。この五人も試験に合格したから、一緒に学園に行くからね?」

「「「「「え……?」」」」」

 五人の声が揃う。

「行く行くは、君達はキディリガン家の幹部だからね。学園くらい、卒業してもらわないとね?」

 シュザークは、啞然としている五人を眺めながらにっこりと笑った。

「それに、考えてもご覧よ。ハーシャと一緒に勉強すれば楽勝でしょ?」

 五人の視線が一斉に俺に集まって、やがて納得した様に頷く。

「兄上……まさか、最初からそれが狙いですか?」

 じとりとシュザークを見ると、彼はニヤリと笑った。

「だってねぇ、私だけ学園に行ったらハーシャは他の皆とダンジョンに行くだろ? 寂しいじゃないか……それに、お前が何かやらかしたらどうするんだい? どうせ同じ勉強をするのだから、一緒に通った方が効率的だろ?」

「まあ……それもそうですね」

 俺もシュザークから眼を離したくないし。

「うーん、だったら五人にも姿替えのペンダントでモテない姿になって貰いましょう」

「「「「「え゙……?」」」」」

 俺は、眼の前の美男美女達を見回した。

 俺は、あのピンク来襲事件があってから学園は危険な場所と認定した。だって、あのピンク、王太子殿下に魅了を掛けたピンクとは違うピンクだったんだ。

「これは、冗談でも何でもない。皆も絶対ピンクには気を付けなくちゃだめだ。それが、男でも女でも。ピンクじゃなくても、ハーレムを築き上げてる奴の傍には近付いたら駄目だから」

 俺は真剣だ。だって、こうもゲームぽっい世界だと十分あり得る。実際シュザークは攻略対象に間違いない。剣聖候補のユリセスも怪しい。魔人の血が流れるシリアも。他の三人だって見た目が良すぎる。

「皆、美男美女だから危ない」

 皆は照れながら、やだ……とか、やめろよ……と呟いているけど本気まじだから。

 こうして、冴えない集団として学園に通うことになった。




 学園入学前に、今回も王太子殿下のお茶会があった。

 俺達は、姿替えのペンダントを付けて冴えない姿で参加した。この茶会には、シュザークと同い年もたくさんいるので学園で一緒になる人達が大勢いるからだ。

 最早、少年を通り越して青年にしか見えない背丈の俺達だが、ちゃんと顔を見れば幼さも残っている。

 王太子殿下にご挨拶に行くと、眼を見開いて俺達をがん見して来た。

「キディリガンの……随分……変わったな……」

「はっ、ここ数年で成長期が来たようで身体ばかりが大きくなってしまいました」

 シュザークは、しれっと身長のことだよね? と言わんばかりに答える。

「……そ、そうか…………楽しんで行くが良い……」

 王太子殿下は、何とも言えない顔で俺達を見ていた。

 挨拶を終えて席に着く。

「ふふっ、今年も視線が煩わしいね?」

 ぽっちゃりとした眠そうな顔でシュザークは優雅にお茶を飲む。その姿に、思わず吹き出してしまいそうになる。

「ふはっ……! 今年は、珍獣というよりもゲテモノを見るような視線ですがね」

 俺も負けじと優雅にお茶を飲む。

「ふふっ……! ハーシャ、お前……その姿で……ふ……ふふっ……!」

 シュザークは、肩を小刻みに震わせて笑いを堪えていた。

 そんな感じで、お茶会は何事もなく終わった。




 そうそう、俺にも精通が来た。

 シュザークと同じく、ユリセスに娼館に連れて行かれた。

「閨のやり方は、相手に教われ」

 そう言われて、お姉さんの待つ部屋に放り込まれた。

 俺、十二歳なんだけど……いくら見た目が青年でも、十二歳。中身が二十七歳が混じっていても、十二歳……

 元の世界なら犯罪だよ?

 シュザークの時も思ったけど……閨教育って、恐ろしいな……

 娼館に、当たり前のように閨教育コースがあるのがなんていうか……うん……世界の違いをまざまざと見せ付けられる。

 とはいえ、久しぶりの人肌に夢中になって気が付けば抱き潰していた。

 娼館の店主に目茶苦茶怒られて出入り禁止にされた。

 ユリセスにそれを言ったら、苦笑された。


 次の日は、出入り禁止にされた娼館の向かいの娼館に連れて来られた。男専門の娼館だった。

「男の抱き方も覚えておけ」

 ユリセスに、お兄さんの待つ部屋に放り込まれた。

 そこに居たのは……俺よりも逞しいイケメンのお兄さん。

 今日は抱き潰さないように気を付けようと思っていたのに……駄目だった……

 お兄さんが……彼に……マスターに……似ていたから……

 芦谷蓮斗が最後に付き合って……捨てられた彼に……

 違うと分かっていても抑えが効かず、執拗に貪り尽くしてしまった。

 やっぱり店主に目茶苦茶怒られて出入り禁止にされた。ショックだったけど、ほっとした。出入り禁止にされなければ、通ってしまったかもしれないから……

 落ち込んで店から出て来た俺を、ユリセスは頭を撫でて慰めてくれた。


「どうだった?」

 家に戻ったら、にこやかにシュザークに聞かれた。

「出入り禁止になりました……」

 俺が俯いて言うと、シュザークは笑った。

「お前もか。私も出入り禁止になったよ」

 え? そうだったの?

 聞けば、シュザークもやり過ぎて抱き潰してしまったらしい。

 
 その夜はナーバスになってしまい、枕を持ってシュザークの部屋に行き、一緒に寝てもらった。

 偶に、一緒に寝たりはしていたので抵抗はない。

 俺よりも、背の高いシュザークに抱き着いて眠った。

「何だか……久々に、弟って感じだね」

 シュザークはそう言って、くすりと笑うと俺の背中を撫でてくれた。

 それから、何日かはシュザークと一緒に寝てもらった。

 兄弟の有り難さが……骨身に染みるようだった……




 学園で何を勉強するか、考えることにした。

「騎士科って、取った方が良いのかな……」

「騎士科? ハーシャは騎士になりたいの?」

 俺の呟きにシュザークが答える。

 今は、夕食後のお茶の時間だ。皆揃っている。

「特には……騎士の肩書きがあれば、何かと便利なのかと思って」

「お前達は、別に必要ないだろ。冒険者ランクがAなんだから、普通の騎士よりずっと強いぞ?」

 カドリスが口を挟んで来た。

「父上は、騎士科を卒業したんですか?」

 俺が尋ねると頷いた。

「私は子爵家の三男だったからな。ミーメナと一緒になるつもりだったから騎士を選んだんだ。辺境伯の夫になるなら、騎士の方が箔が付くだろ?」

「騎士って……騎士科を卒業すれば騎士なんですか?」

「うーん、その辺は微妙だな……正式には、何処かの騎士団に所属して初めて騎士になるんだが……貴族出の者なんかは、騎士科を卒業しただけで騎士と名乗っている奴もいるからな」

 そういうものなのか……

「でも、お前達が騎士科に行く必要はないと思うぞ? シークはキディリガン家の嫡男だし、ハーシャは騎士よりも冒険者をした方がずっと稼げるし、名声も挙がるだろ? なんなら、ハーシャが辺境伯の騎士団長になれば、お前はそれだけで騎士だし」

「え? そんなざっくりとしたものなの?」

 俺が驚くと、カドリスが笑った。

「騎士科っていうのは、言ってしまえば兵士の養成学校だ。指揮官を目指す奴らは、団を運営するやり方や戦術、統率の仕方を学んだりするが……それだって、実践で積み重ねて行くものだ。騎士科では肉体の鍛錬、剣術、団体行動や上下関係のあり方を叩き込まれる。――お前、団体行動苦手だろ?」

「うっ……」

「それに、お前達は騎士の枠を超えている。一騎当千の騎士は、もう騎士とは呼ばない。英雄とか勇者だ。だから騎士科に行くのは無駄だ」

 カドリスに言われて納得した。元の世界の影響か、騎士というものに特別なものを想像してしまうが、確かに一兵士でしかないのだ。

「うん。騎士科は必要ないね。じゃあ、文官科を取るべきかな? でも、文官科は何をするの?」

「文官科は、王宮なんかで働く官僚ね。後は領地経営や商人を目指す者も、この科ね。私も文官科だったわ」

 今度は、ミーメナが答えてくれた。

「じゃあ、この科は取るべきですよね?」

 皆が頷く。

「ハーシャ、知っているかい? 学園にはね、ダンジョンがあるんだよ?」

「え? ホントですか!?」

 シュザークの言葉に食い付く俺達。

「奇級、ユニークダンジョンがあるんだ。そこには、学園に通って居る間、尚且つ、冒険者を目指す科に入らないと入れないんだよ」

「入りましょう!」

 即座に喰い付いた。

「ほら、早く学園に行きたくなったでしょ?」

「行きたいです!」

 シュザークは、単純な俺を笑っていた。



 学園に入学すると、やっぱりピンクが居た。

 しかも、数人。

「ハーシャの言った通りだね……」

 シュザークが、沁み沁みと呟いた。

 俺達は今、学園の食堂に居て二階の席から吹き抜けの階下を見下ろしている。

 一階では、数組のハーレムが形成されつつある。

 ピンク少女の周りには、二、三人の顔が整った少年たち。入学間もないと云うのに、すでに少年達を侍らせているあたり、いかにもゲームとか小説だよな。どんだけチョロいんだよ……別のピンクの少女も、同じ感じ。そしてピンクの少年。彼の周りには顔の整った少年達……

 美形、多すぎない? この世界って、顔の良い奴が多過ぎるよな。

「あ、皆。あそことあそこのグループにも気を付けて」

 俺の指した先には、茶髪茶目の平凡な少女と少年。其々を顔の良い少年達が囲んでる。

「……顔がいいグループは……全部避けた方が良さそうですね……」

 ガルドが呟いた。

「うん、そうかも……因みに、あそことあそこに勇者候補が居る」

「「「…………」」」

 全員が引き攣った笑いを貼り付けていた。

 無理もない……




 主人公枠、多すぎるだろっ……!?










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