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本編
33. ごめんね…?
殿下達がギルドの受付を済ませてから、ギルドの転移部屋を使って六人でダンジョンへと転移して来た。
殿下二人は、お菓子の家の様なダンジョンに終始、驚いていた。
中に入ると、お菓子のレンガで出来た竈の近くに、人が集まっている。
殿下を見付けた二人の冒険者が、此方に近付いて来た。二メートルを超えるガタイの良い口髭の男と、俺達より少し低めの細い男。
「お早うございます。殿下方。皆さん。教官を務めますジャックとダレンです。宜しくお願いします」
細身の男…ジャックが名乗って、口髭の男…ダレンと共にお辞儀をした。どうやら平民出のようだ。
「宜しく頼む。この講習での無礼は問わない。畏まる必要は無いぞ」
ランドラークは、俺達に言った事と同じ事を言った。ノルフェントも頷いて挨拶を交わす。全員が名乗り合い挨拶を終えた。
ジャックは、黒っぽい茶髪。糸目で殆ど見えないけれど透き通る水色の眼。二十歳半ば。砂色のフードが付いた足首迄の長いローブを着ている。黒革の編み上げブーツに革手袋。手には魔力を増幅させる1メートル程の白木の杖を持っている。
ダレンは、煉瓦色の赤茶髪。ジックバルよりも更に短くした髪で後ろ髪だけを長く伸ばしている。眼も同色の赤茶眼。薄目の褐色肌で生成りのシャツに革の胸当てを着け、ズボンは黒革、編み上げブーツはくすんだ茶色。同色の革手袋。焦げ茶色の太腿迄の革のコートを羽織り、ロングソードよりも長くて幅が広い剣を背負っている。
ジャックとダレンが殿下達に講習を始めたので、俺達は少し離れた。
「──そうだ。ユリセス達に講習期間中は、このダンジョンに入らないように連絡しましょう」
「危険なのかい…?」
シュザークが俺を見る。
「うーん…。何か、嫌な感じなので…。ダンジョン自体も不安定みたいだし…。俺達のいない間は、ワナミリアのダンジョンに行ってもらいましょう」
不安要素は、少ない方が良い。
シュザークは、思案してから頷いた。ギルドカードで連絡を取り、了解の返答が来た。
ジックバルが合図を寄越したので側に行く。これから中に入るようだ。
「あ、ジャックとダレンにも結界魔法を掛けておくね」
そう言って、二人に魔法を掛けた。
「此れは…どの位の強度なんだ? かなり硬そうだが…」
ジャックが繁々と、自身の身体を眺めた。
「このダンジョンなら怪我一つしないよ」
「嘘だろ……?」
訝しげにしているので、腰に提げた剣を鞘ごとダレンに渡す。ダレンは、よくわからないまま受け取った。
「同じ結界を俺も張っている。それで、全力で斬り掛かって来て」
シュザークが溜め息を吐いて、目眩ましの結界を張った。
「正気か……?」
ダレンが困惑している。
「俺達はSランクだよ?」
其れを聞いて踏ん切りが着いたのか、鞘に入ったままの剣を振り被り渾身の力を込めて振り落とした。
ガギィィィンッ……!!
凄い音がして、鞘ごと剣がへし折れた。俺は無傷。
「手、大丈夫?」
「………いや、其れは…大丈夫だが………。すまん…剣が折れた…」
ダレンは、呆然として折れた剣を見詰めた。
「これと同じ結界を全員に張ってあります。俺が解かなければ、何時迄も有効です。講習が終わった時点で解除します」
折れた剣を受け取りながら説明した。
「この結界があるので、俺達は後から…少し離れて付いていきます。講習を続けて下さい」
全員が頷いた。
「なあ…剣、へし折って悪かった…。大丈夫なのか…?」
ダレンが跋が悪そうに謝ってくる。
「ああ、やらせたのは俺だし、予備もまだあるから気にしなくて良いよ」
俺が笑ってみせると、ダレンはホッとしたようにもう一度すまん、と言って殿下達の元に戻って行った。
剣の稽古で使っていたものだから、あまり良い剣ではない。ダンジョンからドロップしたものだから、タダだし。後でダンジョンに捨てよう。ダンジョンに吸収されるからね。
講習は既に始まっていて、俺達は其れを少し離れて聞いていた。
獲得品の分け方、何を誰がやるか入る前に必ず決めておきなさい、とか。他の冒険者が戦っている獲物を横取りしてはいけません、とか。不調を隠すな、とか色々。この辺は、ユリセスに教わったな~と思いながら聞く。殿下二人は真剣に聞いていた。
そして、ダンジョンへ。
ダレンが一番前。その後ろにランドラークとノルフェント、更に後ろにジャック。その後ろにジックバルとフーガルン。そこから更に離れて俺とシュザーク。
一階層は、弱い魔物しか出て来ないので、殿下二人は剣でサクサク倒していく。
ノルフェントは、魔法を封じられているので剣しか使えない。
「今晩にでも、ノルフェント殿下の“不幸招来”を封じようと思います」
隣のシュザークに言うと、彼は頷いた。
「そうだね。幾ら軽度とはいえ…困ったスキルだからね。──其れに、魔法を使えないんじゃ不便だろうしね」
シュザークの言葉に頷く。
「“淫靡妖艶”のスキルを封じても……ノルフェント殿下の持つ色香は、半端ないですね……」
俺は、心底気の毒に思った。あれじゃあ、自分が望まなくても相手を誘ってしまう。
「ギルドで…ノルフェント殿下を抱こうと考えていた者がいましたよ」
「随分、質が悪いね……」
シュザークが顔を顰めた。
ドロップしたお菓子に、無邪気に喜んでいる殿下方を眺めながら、頷いた。
二人は順調に階層を進めて、今は七階層。
二人の実力に合う階層まで進める腹積もりだ。
俺達は、のんびりと付いて行く。偶に、後ろから来た魔物を倒しながら、小休憩を取りつつ進む。
周辺をシュザークが索敵魔法で警戒しているので、危なげなく進む。ちらほらと居た他の生徒も、今は大分少なくなった。
十階層の入口付近で昼食を取る。少し休んだら階層主を倒すようだ。
周りに結界を張って、皆で車座に座る。
俺とシュザークが並んで座ると、俺の隣にノルフェントが、シュザークの隣にランドラークが座って来た。
特に気にする事もなく、朝にソーンから渡されたサンドイッチを取り出す。コーンスープ付き。結構デカい籠に入っている。
「─美味しそうですね…。そんなに沢山食べるのですか…?」
ノルフェントが聞いてくるので応える。
「ええ、大きくなる為に沢山食べていたら…量も増えまして」
分厚い肉が挟まったサンドイッチにかぶり付きながら言うと、その見た目ならそうだろうと言わんばかりに全員が頷いた。
失礼な……。姿替えのペンダントでぽっちゃりしているだけだからね。
家の麗しの魔王候補を見たら、赤面ものだよ?
「良かったらどうぞ? 美味しいですよ?」
あんまり、繁々と見てくるものだから、サンドイッチが入った籠を差し出す。
「良いんですか……? じゃあ…一つ、いただきます」
ノルフェントは、おずおずとサンドイッチを取った。
卵、トマト、レタス、ハム、チーズがたっぷり挟まったやつだ。ソーンのサンドイッチは、食パンを厚めに切って挟んだもの。三角になるように切ったりしない、四角いままだ。おまけに具材をケチらないから、かなりの厚さになる。サンドイッチよりも、デカいハンバーガーの方が近い。持ち手を紙で包んであるので食べやすい。
「凄いボリュームですね…? あの…このまま食べるのでしょうか…?」
貴族、ましてや王族ともなれば、マナーが気になるのだろう。
「ええ、そのまま、かぶり付いて下さい。冒険者のマナーです」
当たり前だろ? と言わんばかりに、ニコニコしながら言うと、逆隣から小さな溜め息が。
「ハーシャ……」
ワナミリアのダンジョンで、散々、元の世界の俺的マナーを叩き込まれたシュザークが呆れたように俺を見る。
「冒険者のマナー…。分かりました。いただきます」
ノルフェントは、意を決したように頑張ってかぶり付いていた。暫く、ムグムグと口を動かして飲み込む。
「何ですかっ、これ…!? 凄く! 美味しいですっ!!」
「そうでしょう? 我が家の食材は、殆どがダンジョン産ですから、とても美味しいんですよ。勿論、我が家の料理人の腕もかなりのものですが」
きらきらの眼で言うものだから、俺はうんうんと頷いた。
「ダンジョン産っ…!? 凄いですね! 同じ野菜なのに全然違いますっ…! パンもっ! ダンジョンでは、野菜や小麦も取れるんですかっ!?」
興奮気味に聞きながら、サンドイッチに齧り付くノルフェント。可愛いねえ。
「ダンジョンでドロップした種から育てたものです」
「種からっ!? 凄いっ…!」
ノルフェントは、夢中で頬張っていた。
「─そんなに美味いのなら、私も食べてみたいな…」
ランドラーク殿下が、ボソリと呟いた。
「宜しければ、どうぞ」
シュザークが自分の籠を差し出すと、ランドラークは嬉しそうにノルフェントと同じものを手に取って、頬張った。
「美味いっ…!! 本当に…美味いなっ!?」
ランドラークの眼もきらきらになって、シュザークを見上げた。
「御口に合って良かったです」
シュザークは、くすりと笑って返した。
其れを見たランドラークの顔が赤くなって、恥ずかしそうに俯いてしまった。
他の皆がサンドイッチに釘付けになっているので勧めると、美味い美味いと言って食べていた。
ソーンが余分に持たせてくれていたから、助かった。
はしゃぐノルフェントに分厚い肉の挟まったものも渡し、あんまり喜ぶものだから、コーンスープも渡した。
ノルフェントは満足そうに食べ終わると、暫くして、はっとなって蒼い顔になった。
「っ…! す、すみませんっ…! 貴方の食事を奪い取るような真似をしてっ…!」
慌てて謝罪するノルフェントを宥める。
「いえいえ、余分に持たせて貰っているので大丈夫です」
安心させるように笑うと、ノルフェントは頬を染めて小さくなった。その頭を無意識にぽんぽんと撫でて……。
やべっ! 他国の王子だって忘れてたっ……!
慌てて、手を引っ込める。
ノルフェントは、益々赤くなって小さくなった。
セーフ…かな。……嫌がってないしな……?
恐る恐るシュザークを伺うと、溜め息を吐かれた。
昼食を終えると十階層の主に挑んで、危なげ無く倒して終わった。そのまま二十階層を目指す。
早足で進む理由は、他の生徒を近付けない為。ダンジョンで…あんなのに絡まれたら、堪まったものじゃない。
だが、十五階層を越えた辺りから殿下達が苦戦し始めた。慣れないダンジョンで疲れて来たのだ。
ジックバルと相談して、二十階層の主までを俺達が倒す事に。明日は十五階層から始めることにした。
教官達の許可も下りたので、シュザークと二人先頭に立って移動する。魔法剣ではなく、実物の剣を使う。
全員が身体強化を使えるので、俺達の後を付いて来るだけ。ノルフェントは、身体強化の魔道具を着けている。
魔物を寄せている訳じゃないので、あっさり二十階層の主を倒して終わった。
「お前達の戦い方を見ていると…魔物がとんでも無く弱く見えるな……」
ランドラークの言葉に全員が頷いた。
何故、二十階層の主を倒すまで急いだかと言えば、主が居るこの部屋は、俺達以外は誰も入って来れないからだ。
主さえ倒してしまえば、此処より安全な場所は他に無い。魔物も出ないので見張りを立てる必要も無い。
まだ夕方から夜になったばかりだが、疲れた状態で無理をしても良いことはない。
皆は、テントの準備を始めた。
俺とシュザークは、興味深くそれを眺めた。
この世界のテントは簡単だ。
いや、元の世界にも、あんなのがあったな。出すだけで開くやつ。ポップアップテントだっけ? 仕舞う時が、ちょっとだけ大変なやつ。
こっちの世界のものは、もっと簡単。風船が膨らむみたいな感じ。骨組みが無い。膨らます作業も魔法であっと言う間だ。素材も丈夫で、余程の事が無い限り穴が空いたりしないらしい。固定も杭を打ち込むのではなく、魔法で地面に固定するみたいだ。本当に便利だな、魔法。
殿下達は、護衛の二人と寝るみたい。中を覗くと、八畳くらいの天井の低い部屋って感じだった。
「お前達は、テントを出さないのか?」
ダレンに聞かれた。側にいたジャックも俺達を見る。
「テントは、持って来てないよ」
「「はっ??」」
二人は豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔をした。
「? そのまま寝るのか?」
「まさか。マットレスを持って来た」
「「マットレス???」」
ジャックとダレンが、益々分からないというように首を傾げる。
シュザークが適当な場所に分厚い木の板? ブロック? を魔法で出してくれたので、その上にマットレスを収納空間から出した。ついでに毛布と布団も。もう、完全にベッドだ。って謂うか、最初からベッドを持ってくれば良かったのか。後で、簡易なベッドを作ろう。シュザークが、中が見えないようにベージュの結界を張った。
「─お前達…いつも、そうやって寝ているのか?」
ジャックが聞いてくる。
「ダンジョンに泊まるのは、これが初めてだよ」
「「「「はっ!?」」」」
ジャックとダレンの他に、傍に来たジックバルとフーガルンも一緒になって驚く。
「……は? だって、キディリガンの上級ダンジョンとワナミリアの特級ダンジョンを完全攻略したんだよな…?」
ダレンが尋ねてくるので、俺とシュザークは顔を見合わせてから頷いた。
「え…? 九十一階層までは、ダンジョンの入口から転移出来るだろうけど、最深層の主を倒すのに…一日で九十一階層から最深層まで駆け抜けたのか……?」
信じられないものを見るような眼でジャックが確認してくる。
「「そうだけど……?」」
俺とシュザークの声が揃った。
「冗談だろ……?」
フーガルンが引き攣った顔で笑った。
「……ああ、私達は十人で攻略したんだよ?」
シュザークが皆が驚いているのは、“二人だけで攻略したと勘違いしている”、と思い当たって訂正した。
「…いや、人数じゃないからな?」
ジックバルが違うと言う。
「……でも今は、兄上と二人で駆け上がって、主の部屋は別々に入るじゃないですか? 人数は関係ないですよ」
「は?……特級ダンジョンの最深層の主を…一人で倒すのか……?」
ジックバルの顔が強張っている。俺とシュザークは、益々、混乱して頷いた。
「「「「………………」」」」
全員が固まってしまった。
ダンジョンの階層主を倒すと、次にダンジョンに来た時は、次の階層に転移が可能になる。
例えば二十階層の主を倒すと、次からは入口から二十一階層に転移する事が出来る。但し、そこから二十階層の主の部屋の前に戻る事は出来ない。戻る階段が無いのだ。
もう一度、二十階層の主を倒したければ、十一階層から始めなければならない。二十階層の主を倒せば階段があるので、ダンジョンを出ない限り何度でも挑めるのだ。
だけど最深層の主だけは、倒すと入口に戻されるので、最短でも九十一階層からのスタートになる。
「お前ら……もう…SSSランクでいいだろ…」
ダレンが呆れたように言った言葉に、皆が頷いた。
其れからは、魔法で火を熾して夕食を摂りながら雑談をした。
キディリガンのダンジョンやワナミリアのダンジョンの話を聞かれたので、答えた。
火を囲んで皆で食事を摂るのは、キャンプファイヤーみたいで楽しかった。
そろそろ休もうと謂うことになったので、俺は殿下達を呼び止めた。
「ノルフェント殿下のスキルについて、お話があります」
ランドラーク殿下は、ジャックとダレンを先に休ませた。護衛騎士の二人を残したという事は、話を聞かれても大丈夫ということだろう。
「スキル名を出しても大丈夫ですか……?」
念の為、ノルフェントに確認を取る。
ノルフェントは、眼を泳がせ逡巡してから…ぎこち無く頷いた。
「…ノルフェント殿下のスキル、“淫靡妖艶”は封印する事が出来ました。ですので、“不幸招来”も封印したいと考えています。…魔法が使えないのは、不便でしょう?」
なるべく、優しく話した。普通なら人に知られたくないスキル名だもんな。可哀想だ。
「──もしかして…朝の…ギルドでの事ですか……?」
俺は頷いた。ノルフェントは感じ取っていたんだな。
「あの時……ハーシャ殿の魔力が大量に纏わり付いて来て…私の中に入って来たのです……。そうしたら、頭の中でガチリと何かが閉まるような…噛み合うような音がしました……」
へえ…そんな感じがするのか。ノルフェントは、何故か頬を染めて話す。
「……“不幸招来”も封印出来るのなら……是非、お願いしたいです……」
ノルフェントは、何処か歯切れが悪い。
「スキルを封印するだなんて…そんな事が出来るのか?」
ランドラーク殿下が驚いている。
そりゃ、そうだ。本当なら、こんな事は知られたくなかった。特に王族には…。
他人のスキルを封印出来るだなんて、危険視されても仕方が無い。
でも…ノルフェントのスキルは、余りにも危険だ。この国が危うい程に。この国が傾くと謂うことは、結局は俺の大事な人達が苦しむと謂うこと。
キディリガンの皆の不幸に繋がる…。其れは…絶対に駄目だ。
ノルフェントのスキルは、王族も把握しているだろうし警戒もしているだろう。こっそり封印しても…ノルフェントが魔力封じを外して魔法を使っていれば、直ぐにバレるだろう。封印したのが誰かなんて、簡単に割り出せる。
だったら、堂々とやるしかない。でも、自衛はさせてもらうからな。
「誰のものでも出来る訳ではありません。何かしらの条件が必要です。現に、スキルが封印出来たのは、これが初めてです。ノルフェント殿下と…余程、相性が良かっただけだと考えています」
嘘です。此れは、他の人が俺を完全に鑑定出来ないからこそ、つける嘘。
だって、俺が危険視されて王宮に繋がれたら嫌だもん。
「やはり……そうなのですね……」
ん?……あれ? 何でノルフェントが援護を…? 俺の思惑に気付いたのか…? 自分にとっても有用だから? 利害の一致ってやつ?
「初めて学長室でお会いしたとき、私に結界を張ってくださったでしょう…? その時からずっと、貴方の魔力が暖かくて…心地よく感じていました………」
ノルフェントが頬を染めて俯く。
え? そうだったの?
「今朝もギルドに入って直ぐに、貴方が結界を張ってくれたのが分かりました…」
ああ、だから直ぐに結界に気付いたのか。
「そ、それでっ…、ギルドの受付をしている時に…あ、貴方がっ…大量の魔力を私に流して来たからっ…!」
ノルフェントが真っ赤になって顔を覆った。
あ、あれ…? 何で、そんなに恥じらうの…?
「……なる程。──恐らく、ノルフェント殿下とハーシャ殿は、非常に魔力の相性が良いのだろう……」
ジックバルが真顔で、感心したように頷く。
ん? 魔力の相性? そんなものがあるの?
思わず、シュザークを見る。シュザークは考え込んでいる様子だ。
「結界を張っただけで、それ程心地よく感じられると謂うのなら、尋常ではなく魔力の相性が良いと言うことだ」
よく解っていない俺に、ジックバルが補足してくれた。
「ええ、そこまで相性の良い相手とは…一生涯掛けても出会う事は難しいと言われていますね」
フーガルンが、にこにこ笑いながら言う。
何か、話がおかしな方向に……。
「一度その魔力に触れてしまうと、一目惚れ以上に惹きつけられてしまうとか。身体の相性もですが…不思議と心も、ぴたりと合うのだそうですよ! 羨ましいですね! そこまで魔力の相性が良いと、二人だけの特殊な力を発揮するとか……ああっ! だからスキルが封印出来たのかもっ! 良かったですねっ、ノルフェント殿下っ!」
フーガルンは、興奮気味にノルフェントを祝福している。
……いや……話の流れとしては、悪くない……。特別に魔力相性が良いから、スキルの封印が出来た…。二人の間にしか発揮されない特殊能力…。これなら、俺は危険視されない…。渡りに船の丁度良い話だが……。良いのか? これ?
俺と付き合う的な話じゃないよな……?
「──そうなのか。其れは、素晴らしい事だな」
ランドラーク殿下が納得している。
「と、兎に角っ…! “不幸招来”を封印してしまいますねっ……!」
ここは、強引に封印してしまおうっ…!
俺は、ノルフェントをがん見しながら、“不幸招来”のスキルを封じに掛かる。
「っあっ…! ちょっ…ま、待ってっ……………!!」
ノルフェントの静止の声は聞かなかった事にして、さっさと終わらせよう!
顔を真っ赤に染めて…眼をうるうると潤ませ、懇願する表情を浮かべて…俺を見上げて来るノルフェント。
寧ろ、泣きそう…?
よしっ!! 封印出来たっ…!!
「っ…!!!」
ノルフェントは、その場に崩れ落ちた。
「ノルフェント殿下っ…!?」
え…? なにか不味かったのかっ…!?
慌てて、ノルフェント殿下に近付いて抱き起こす。
顔を覗き込むと、ヤバい程に…エロい顔をしていた…。
上気した頬。焦点の合わない蕩けた眼は涙に濡れて、黒の長いまつ毛も濡らしている。濡れた唇は紅さを増し、吐く息は早く熱い。
イった後みたいな顔をしていた……。
って言うか……イってるな……これ……。
咄嗟に浄化魔法を掛ける。
「ひゃ…ぁ……」
ノルフェント殿下が…小さく悲鳴を上げて小刻みに震えた…。どうして良いか分からなくて、周りを見渡す。
皆、顔を赤くして視線を反らしている……。
唯一、平然としているシュザークは、同情の視線をノルフェントに送っていた。
これ……俺が悪いの…?
暫くして、ノルフェントが落ち着くと……俺の胸元の服を掴んで顔を埋めてくる。
「……待って…て……言ったのにっ…酷いですっ……!」
そう言って……シクシクと泣き出してしまった……。
「──ああ~………ごめんね………?」
取り敢えず、謝って抱き締めて…頭をゆっくりと撫でてやる。
“不幸招来”なんて、厄介なスキルを封印したのに…。
何で俺……怒られてるの……?
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