俺の幸せの為に

夢線香

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本編

35. 態とだよね?




 あれから、被害者と自称モブ少年達をランドラークが呼んだ騎士団とギルドに引き渡した。

 俺達は、ギルドマスターの執務室に来ていた。

 ギルマスのマルムは、今回の冒険者講習の責任者でもある。

「はあ~……、まさかこの講習でこんな事になるなんて~、思いもしませんでした~…。ランドラーク王太子殿下とノルフェント殿下が無事で良かったです~」

 マルムは、心底ホッとしたように溜め息を吐いた。

「ダンジョン内の事は自己責任とは言え~、二十五階層でこれ程の被害が出るとは~…、やはり今回は何かがおかしいです~…」

 マルムは、丸い身体を更に丸めて、また溜め息を吐いた。

「ギルマス、ダンジョンの魔力値は、今はどうですか?」

 シュザークが尋ねると、マルムは緩く首を横に振った。

「─其れが~、昨日の朝より揺れ幅が大きいんですよ~。こんな事は始めてで~何が起こっているのかもわからないのです~…」

 不安定なダンジョンか…。俺の元の世界の記憶を持つ者が、多過ぎるのが原因じゃないだろうな?

 そうなると…当然、俺も含まれる訳で……。

 この世界にいる記憶持ち達は、皆、俺と同じように向こうで死んで、この世界の誰かと魂魄融合したのか…? 

 それにしても…こんなに、じゃんじゃん送られて来るものなのか…?

「─二十五階層は、教官達に取っては苦戦するような階層じゃない筈だ。なのに、教官も数人被害に遭っていた。何があったのか詳しく調べて欲しい…」

 ダレンは、膝の上に置いた拳をぎりぎりと握り締めた。

「はい~、其れは勿論です~!」

 マルムは強く頷く。

「兎に角~、今回の講習は中止とします~! ダンジョンが落ち着くまで~、ダンジョンは閉鎖する事にします~。ランドラーク王太子殿下、宜しいですね~?」

「─そうだな。妥当だろう…」

「ただ…気になるのは、ランドラーク殿下と、ノルフェント殿下が狙われた事です。…姿を見せずに近付いて、殿下達を拘束しようとした。…もし、今回の件にそいつが関わっているとしたら…今回の件は人為的に起こった事です」

 ジックバルが難しい顔をする。

「ダンジョンに入れると言うことは、間違いなく学園の者ですよね?」

 俺の言葉に、全員が頷いた。

「学園に通うこと自体が、危険ではありませんか?」

「その通りです」

 俺に同意したのはジックバル。

「ランドラーク王太子殿下は、国に無くてはならないお方。─今の学園は…異常で、危険が多過ぎます。出来れば、学園には通って欲しくないのです」
 
 ジックバルが畏まって、ランドラークに訴え掛ける。

 ランドラークとノルフェント以外の全員が頷いた。

「畏れながら、私もその意見に賛成です。こんな処で、ランドラーク王太子殿下を失う訳には参りません」

 シュザークが座ったまま、貴族の礼を執った。俺もそれに倣う。

 泰平国母のスキルを持つランドラークは、本当に国に必要な方なのだ。ひいては、この国に住む俺達の幸せに繋がるのだから。

 ランドラークはシュザークを見詰めて、ほんの一瞬泣きそうな…辛そうな顔をした。

「だが…、学園には、多くの貴族の子息子女が通っている。彼等も又、未来の国の礎となる者達だ。このおかしな事態を解決しなければ、国の安寧には繋がらない気がするのだ。私が此処に居るからこそ、対処出来る事もあるだろう。─出来れば、おかしな連中を一掃してしまいたいのだ」

 ランドラークは、毅然とした態度で己の意志を示した。

 だが、ジックバルも簡単には引き下がらない。

「お考えは、大変ご立派だと思います。一掃する事には、私も賛同致します。─ただ、御身を危険に晒すのは反対です。別の方法は幾らでもある筈です。どうか、御再考願います」

 ジックバルは、立ち上がり殿下に向かって跪いた。

「─本当に危険を感じた時は、直ぐに身を引くと約束しよう。─だが、其れまでは…私の好きにさせて欲しいのだ…」

 ランドラークも引き下がる気は無いらしい。

「─分かりました。御心のままに……」

 ジックバルは、溜め息を呑み込むように低く頷いた。



 ずっと難しい顔をしていたシュザークが、ふと俺を見た。

「お話中、申し訳ありませんが…少し、弟と話す時間を貰えないでしょうか?」

 ん? どうした、改まって?

「─構わない。少し、休憩しよう」

 ランドラークの許しを得て、シュザークは俺を連れて部屋を出た。廊下の隅に寄り、遮音と目眩ましの魔法を掛ける。

「─どうしたんですか? 兄上…?」

「うん。─私は、殿下達に姿変えのペンダントを渡した方が良いと思うんだ」

 姿変えのペンダントを? 渡すのは構わないが…。

「其れは、良いですが…俺達が姿を変えているのが…バレませんか?」

「そうだね。でもね…? 今回、王太子殿下と関わりを持ってしまっただろう? 私達のこの姿は、学園に通っている間だけだよね?」

 其れは…そうだ。頷く。

「学園の外で、殿下と会うとしたら社交会になる。その時に本来の姿で挨拶などしたら、王族を謀ったのかと言われると思わないかい?」

 うっ…、其れは…その通りだ。何となく、王太子殿下は許してくれそうな気がするけれど…周りは、そうはいかないよな…。こんなに殿下達と関わるつもりはなかったし…。


「だから、今の内にバラした方が良いと思うんだ。姿変えのペンダントと引き換えに、ね?」


 にこりと笑うシュザークを見て頷く。

 確かに、いい考えだ。流石シュザーク、先々の事まで考えているんだな。本当に頼りになる魔王候補様だ。

 善く善く、考えてみれば…ここのダンジョンに入る為に学園を卒業しなかっただけだ。隠しダンジョンに入った事で、卒業してもこのダンジョンに入れる事になった今は、いつ学園を卒業しても良い状態だ。

 要するに、ヤバくなったら、さっさと退散出来るのだ。

「兄上の言う通りです。学園は、いつでも卒業出来ますもんね!」

 シュザークと二人頷き合って部屋に戻った。



「ランドラーク王太子殿下に、お話がございます」

 席に着くなり、早速シュザークが切り出した。

「此方のペンダントを……ランドラーク王太子殿下に、お譲りしようと思うのですが…」

 シュザークは、予め、収納空間から取り出していたペンダントを五つ、ジックバルに差し出した。

 ジックバルは、フーガルンに其れを渡す。フーガルンが鑑定魔法を使えるからだろう。

「──姿を変える事の出来る─ペンダントのようですね…」

「その通りです。ダンジョンから入手したものです」

 ジックバルからペンダントを受け取ったランドラークが、一つを手に取って眺める。

「─蜥蜴か…?」

 このペンダントは、黒い革紐に三センチ程の平べったい七色のカメレオンが付いている。

「─実は……学園に入る前に、我がキディリガン家におかしな令嬢が毎日のように現れて…門前で騒がれまして…」

 シュザークが苦い顔で話し始める。

「おかしな令嬢…?」

 ランドラークが顔を顰めた。

「はい…。私を出せと騒ぎ立て、母や弟が死んで辛いだろうとか…私を救い出してあげるとか…学園が始まるまで待っていられないとか…訳の分からない事を騒ぎ立てまして…。家の者が何度、追い返してもやって来て…困って居たのです」

「何と言う…非常識なっ…!」

「ええ…本当に。丁度、ダンジョンからこのペンダントを手に入れたばかりだったので、姿を変えてその令嬢に会った処、“こんなのはシュザーク様ではない”と酷く驚いて…其れからは来なくなりました」

「そうだったのか…」

 ランドラークが同情している。いい感じだ。

「その令嬢が、”学園“と口にしていたので…姿を変えて学園に入ることにしたのです。王太子殿下のお茶会には同じ年頃の子息令嬢もいらっしゃるので…本来の姿が学園でバレないように、姿を変えて出席しておりました…。結果的に王家を謀る事になったこと、深くお詫び申し上げます…」

 シュザークが立ち上がり、片膝を突いて頭を垂れる。その隣で、俺も同じように謝罪する。

「─いや、そのような事情があったのなら仕方が無い。今の学園の有り様では、その方が安全だったろう…許す」

 おお、流石ランドラーク王太子殿下だ。懐が広くて助かる。でも…其れだけ、この学園でおかしな連中に絡まれて、シュザークの置かれた立場が身に沁みて理解出来ると言うことでもあるんだろうな…。

「「─寛大な御心に、感謝致します」」

 俺達は、心からの礼を尽くした。

「─今の話だと、お前達のその姿は…偽りのものと謂う事だな…?」

 席に座り直した俺達に、ランドラークが真剣な眼を向けて来る。俺達はそれに頷き、胸元からペンダントを取り出して握った。一瞬だけ強い光を放ち、本来の姿に戻る。


「「「「っ!!」」」」


 その場に居た全員が、息を飲んで固まった。

 無理も無いことだ。何しろ家の魔王候補はヤバい位の超絶イケメンだ。艶々の白金髪は、繊細な細い光の糸が泳いでいるように煌めき、同じ色のまつ毛は、長く切れ長の目を縁取る。純度の高い碧みを帯びた氷のような眼。整った高い鼻梁に薄っすら紅い形の良い唇。キメの細かい肌は、白いけれど…白過ぎる程ではない。美しいけれど…儚さはなく、厳しさと凍てつくような強さを持つ、まさに…氷の魔王様なのだ。


 ─はあ…麗しい…。氷の城で睥睨する姿が、たいそう似合いそうだ……。


 久しぶりの姿に見惚れていると、シュザークに苦笑されて頭をぽんぽんされた。

 ああ…、氷の魔王は、こんな事はしない。
 
 俺は此方のシュザークの方が好きだな。

 俳優かモデルを崇拝する気持ちで、ついつい眺めてしまうな。最早、芸術の域だ。


「ハーシャ……見過ぎ」


「あ、すみません。…久しぶりの麗しい姿だったので…」


 シュザークは、困ったように俺を見る。

「其れは、此方の台詞何だけどね……?」

 全員を見渡すと皆、呆けた顔でがん見してくる。

 ノルフェントなんか、俺と眼が合っているのにも気付かない。

 あ、そうだ。ノルフェントにもペンダントを渡しておこう。シュザークが出したものは、ランドラークとその護衛に持たせるつもりだろうし。

「ノルフェント殿下にも、お渡ししますね」

 そう言ってペンダントを差し出すが…受け取ってくれない。眼は俺を見ているのにな…?

 目線の高さにペンダントを翳して見せる。


「─ノルフェント殿下…?」


「…………」


「? ペンダント、お着けしましょうか?」


 向いに座っているノルフェントに、ほんの少し身を乗り出して尋ねる。


「っえ…?……あ、…は…い…?」


 はっと我に返ったノルフェントは顔を真っ赤にしながら頷いた。

 テーブルの上に身を乗り出し、ペンダントを首にかけて…一つに束ねた髪を革紐の輪の中から抜き取る。


「ひゃっ…!?……え…?…ぇ…?」


 了承したのに…何故か困惑するノルフェント。

 不思議に思いながらも着け終わったので離れる。


「ハーシャ…。お前、態とやっているのかい…?」


 シュザークが座り直した俺に身を寄せて小さく囁いた。


「態と? なにをです?」


 シュザークは、視線でノルフェントを示す。そちらを見ると、さっきよりも真っ赤になったノルフェントが、俯いて胸元の七色のカメレオンを両手で握り締めていた。


 もしかして……具合い悪い?


 俺は立ち上がって、ノルフェント殿下の傍に片膝を突いて顔を覗き込む。


「ノルフェント殿下? お加減が悪いのですか?」


「え?…あ…ち、違っ……。あ、あの…お願いです……も、元の姿に戻って下さ…い…」


「? 戻っておりますが…?」


「…あっ…!…違っ…!…そ、その…さっきまでの…姿にです……」


 ノルフェントの慌てようは凄まじく、真っ赤になりながら、眼はどんどん潤んでくる……なんか…エロいんだけど…?


「ああ…、ぽっちゃりの方がお好きでしたか…」


 意外だな。そう思いながら、ぽっちゃりジト目に姿を変えた。


「ッ!…べ、別にっ…ぽっちゃりが…好きなわけではっ…!…あ…い、いえっ……ぽっちゃ…り…も……」


 ノルフェントは、何かボソボソと言いながらどんどん小さくなった。


「ハーシャ…。絶対、態とだよね?」


 眠そうなぽっちゃりシュザークに戻りながら、頭を小突かれた。


 ──ちょっとだけね。


 だって、あんな可愛い態度取られたら…誂いたくなるじゃん。

 心のなかでテヘペロしながら涼しい顔でお茶を飲む。



「──ジックバル副団長…」

 フーガルンが隣りに座っているジックバルに、そっと声を掛ける。

「──何だ?」

「──俺……眼が潰れそうです…」

「──瞑っておけ…」

 ジックバルは、自身も固く目を閉じながら低い声で呟いた。














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