俺の幸せの為に

夢線香

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本編

36. 呪いですか?




 姿変えのペンダントを渡した後は、講習期間の護衛を達成したものとみなされ、依頼達成の報酬を貰って殿下達とはギルドで別れる事になった。

 殿下達は、これからも姿を変えて学園に通うらしい。

 殿下達に掛けた結界は、殿下達二人だけ、暫くの間は解かないことになった。狙われているので了承した。その分の報酬も貰えるみたい。

 既に夜になっていたので、俺達はキディリガン家へ転移して帰宅した。




 講習が中止になってから、数日が経った。

 学園のダンジョンが閉鎖されたので、俺達はワナミリアのダンジョンに行っていた。

 一度だけ、学園のギルドから呼び出しを受けて行くと、ジャックとダレンも同席していて、マルムから今回の事件の顛末を聞かされた。


 見て居ただけだと主張していた自称モブ少年達は、加害者だった。

 魔物を予め一箇所に集めて、目を付けていた者達に倒すのを手伝って欲しいと言って誘導し、後ろから麻痺の魔法で身体の自由を奪い、魔物の中に放り込んだ。

 後から助けに来た者達も同様だ。


「─随分と悪質ですね…」


 シュザークが顔を顰めた。

 あのモブ少年達は、ギルドカードを剥奪され、ギルドの口座も停止、お金は没収された。其のお金は、被害者に渡すそうだ。

 ギルドとしての罰はそれで終わりだが、被害に遭った生徒に貴族が何人か居たので、そちらの報復がある。勿論、学園からも追放された。退学ではなく追放。退学なら試験を受ければ、再入学することも出来る。追放は、この先、何があっても学園に戻る事は許されない。


「彼奴等が、気になる事を言っていてな…その計画を立てたのは、自分達ではないと言っているんだよ」 

 ジャックが腕を組んで顔を顰める。

「他に、主犯格がいたって事?」

 俺の問いにジャックは、益々、顔を顰めた。

「彼奴等が言うには、元々はノルフェント殿下が目的だったらしい。二十五階層で、ノルフェント殿下が魔物に凌辱されるから、其れを見物した後に全員で輪姦まわす予定だったと供述した」

 俺は、思わず顔を顰める。

 魔物に散々凌辱された後に、十人以上の者に輪姦まわされる…? とんでも無く酷い話だ。そんな事をしたら、ノルフェントの心が壊れてしまう…。だからこその闇堕ちなのか……。

「その者は、何故、一緒に居なかったんだい?」

 シュザークが首を傾げる。

「其れが…ノルフェント殿下が来るだろうと思った時間にやって来ず、待っても待っても現れないから、痺れを切らした連中が、他の者に目移りした時点で居なくなったらしい」

「でも、そいつが誰かは分かるんだろ?」

 ずっと、一緒に居たんだから顔を見ているはずだ。

 ジャックは、首を横に振って溜め息を吐いた。

「どうも…認識阻害か何かの魔法で、姿が記憶に残らないようにしていたみたいでな…誰も、顔も名前も分からなかった。男だって謂う事以外にはな」

「なんか…ノルフェント殿下に…固執してる感じがするね…」

 シュザークが眉根を寄せた。

「殿下達を狙ったのも…そいつの仕業かな?」

 俺達は首を傾げて唸った。

「まあ…此処で考えていても、如何どうしようもない。この話しは、殿下達にも報告が行っているから対策してくれる筈だ」

 俺達は、頷き合った。

「ダンジョンなのですが~予定していた講習期間が過ぎたら魔力値が安定したんですよ~。なので閉鎖を解くことにしました~。…何だったんでしょうね~?」

 マルムの間延びした声に力が抜ける。

 講習期間が過ぎたらって……やっぱりゲームのイベントに関係していたのか…?

 この世界は…一体、何をしたいんだ?



「兄上。強化合宿をしましょう」

 俺は、ギルドから家に戻ってからシュザークに言い放った。

 ダンジョンが不気味な動きを見せるのは、魔力値が多過ぎるからだと予測を立てて、ならば魔力値をガッツリ削いでやろうと思ったからだ。

「─其れは、また…唐突だね」

 シュザークが、やれやれと言わんばかりに俺を見る。

「学園のダンジョンは、魔力値が多過ぎるので…この際、徹底的に魔力を減らしましょう」

「─分かったよ。…ユリセス達も連れて行くんだろう?」

「はい、各自ベッド持参で、暫く籠もりましょうっ!!」

「ベッド持参……」



 そして俺、シュザーク、ユリセス、ガルド、ソーン、メル、シリアの七人で、一ヶ月間、ダンジョンに籠もる事になった。

 料理人のソーンを連れて行くので、キディリガン家の方へは、作り置きを沢山作って貰い、収納空間にしまって貰った。

 ダンジョン内では、どうせなら更に強くなってもらおうと魔力が尽きるまで戦って貰った。

 魔力切れで倒れたら、結界を張ったベッドへ。

 起きたら食事をして、ガンガン魔法を撃って貰い、魔力切れになったらベッドへ。其れを、只管ひたすら、繰り返した。


 十日位までは、皆も楽しんでいるように見えたけれど、段々と元気がなくなって来た。

 ずっとダンジョンの中だから…気分が滅入るのかもしれない。

 特に、メルとシリアの元気がなくなって来た。

 軍隊じゃないんだから休んでも良いよ、と言っても大丈夫と言って休もうとしない。

 何か、気分を上げるものはないだろうか…と思案していると、シュザークが傍に来た。

 眠そうな目のぽっちゃり姿で……コレだっ!!

「兄上、姿変えを解いて下さいっ!」

「何で?」

「良いからっ、早くっ!」

 俺が急かすと、訳が分からないながらも元の姿に戻ってくれた。

「その姿で、メルとシリアに応援の言葉を掛けてあげて下さいっ!」

「?…何で?」

「良いから、良いから。早くっ!」

 シュザークは、戸惑いながらもメルとシリアの方を向いた。

「メルっ! シリアっ! あんまり無理するんじゃないよっ!!」

 ぱっと振り返った彼女達に、シュザークは手を振った。

「「っ!! はいっ…!! 頑張りますっ!!」」

 二人の顔は、みるみる明るくなって元気を取り戻し、バンバン魔法を撃ち始める。

 ─いや……休んで欲しかったんだけどな……。

「ハーシャ、お前も元の姿で声を掛けると良いよ」

 シュザークがにこりと笑って、やれっと無言の圧を掛けてくる。

 俺よりも、シュザークの方が効果があるのに…そう思いながらも元の姿に戻って、二人に声を掛ける。

「メルっ! シリアっ! 本当に休んで大丈夫だからなっ!? ちゃんと休めよーっ!!」

 二人がバッと此方を見たので、俺も手を振っておく。

「「きゃあぁっ!! わ、分かりましたぁっ…!!」」

 二人は悲鳴を上げて、今迄より更にデカい魔法を打ち込み始めた。

 …本当に分かってるのか…?

「何か俺、悲鳴を上げられましたね…。もしかして俺、怖がられてる…?」

 鬼監督的な感じなのかな…。

「ハーシャ…アホだね…」

 シュザークは、麗しい笑みを浮かべて俺を見た。

 アホって…。



 十五日を過ぎた辺りで、ガルドとソーンの元気がなくなって来たので、俺は知恵を絞った。

 男に激励されても、効果は無いだろうから…。

 姿変えのペンダントを使って、女体になってみた。ついでに、セクシーな青いロングドレスのサービス付き。

「ハーシャ……何やってるんだい…?」

 シュザークが呆れて声を掛けてきた。

「あ、兄上もやってみてくださいよ。─そうだな…白?…いや…ここは黒かな…?…ああ…でも赤も捨て難い…う~んここは黒で…やっぱり赤で!」

 渋るシュザークを急かして、女体の俺と同じような赤のロングドレス姿になって貰った。

 絶世の美女だ。デカイけど…。

 あらかじめ、掛ける言葉を決めて二人で叫ぶ。

「「ガルドっ! ソーンっ! ステキ~、頑張ってっ~!!」」

 二人はバッと勢い良く振り向くと、唖然として固まった。

 何してんだ? 後ろから魔物が来てるぞ!?

「後ろっ! 後ろっ!!」

 叫ぶと、ハッとして後ろに殊更デカい魔法を打ち込んで、必死の形相で此方に走ってくると “頼むから止めてくれっ!” “夢に出そうだっ!” と必死に懇願された。

 分かったと了承したら、ぶつぶつ文句を言いながら戻って行った。 

「そんなに変ですかね? やっぱり、デカ過ぎるから? ……あ、ユリセスだ。声を掛けてみましょう」

「ハーシャ……」

「ほらっ、ユリセス~!って言って手を振りますよ?」

「「ユリセス~!!」」

 叫び声に此方を振り向いたユリセスに、二人でしなしなと手を振る。

 ユリセスは、すっ転んでいた。

 その後、数え切れない程の斬撃を魔物に繰り出し、凄い速さで俺達の元にやって来て、滾々こんこんと説教をされた。

「う~ん? どっからどう見ても絶世の美女なのに……」

 眼が潰れそうな程に美しいシュザークを眺めながら、首を捻る。

 シュザークは、元の姿に戻ると深く溜め息を吐いた。

「ハーシャ…バカだね…」

 シュザークは、駄目な子を見るような目で俺を見た。

 バカって…。



 こんな感じで……鬼だ、悪魔だと言われながらも、ダンジョンで一ヶ月間過ごした。

 お陰で隠しダンジョンを完全攻略して、俺達は冒険者ランクがSSランクになった。

 ダンジョンの魔力値もかなり下げることが出来て、ギルマスのマルムに大感謝された。




 一ヶ月振りにキディリガン家へ帰ると、──ノルフェントが居た。

「──ノルフェント殿下? 何故…家に?」

 困惑顔のノルフェントを見ながら首を傾げると、ミーメナがスッと俺とシュザークの腕を掴み、失礼します、と言って俺達を執務室に引き摺り込んだ。

 ソファにシュザークと二人並んで座り、ミーメナと向かい合う。

「「─ただいま戻りました」」

「お帰りなさい。無事で良かったわ」

 帰還の挨拶をすると、収納空間からお茶を取り出して俺達に勧めてくる。

「何故、ノルフェント殿下が我が家に?」

 俺が首を傾げると、ミーメナに深い溜め息を吐かれた。


「私が、説明して欲しいのだけれど? 陛下から親書が届いたの……。ハーシャ、貴方…ノルフェント殿下と神結糸かみゆいいとの仲なの?」


「神結糸? 何ですか、それ?」


 本当に分からなかった。


「はあ…。魔力の相性が、尋常じゃない程良い二人を神結糸の仲って言うのよ。ノルフェント殿下と貴方がそうなの?」


 ミーメナに説明されても、今一ぴんとこない。


「?…え、…っと、─どうなんでしょう?」


「ハーシャ、お前、ノルフェント殿下のスキルを封じた時に、相性が良いって事にしたでしょ?…スキルを封じられるのはノルフェント殿下だけ、って事にしたじゃないか」

 シュザークに言われて思い出した。

 確かにそういう事にして…有耶無耶にはした。

 じゃないと…スキルを封じる事が出来ると思われて、俺が危険視されると思ったから…。

 でも、凄く相性が良いとかって…おかしな方向に話が流れて……あれ? って思ったんだよな…。


「確かに…思わぬ方向に話が流れて、都合が良かったので、そのままにしましたね…」


「スキルを封じた? どういう事なの?」


 ミーメナが、訝しげに聞いてくる。


「─あー…ノルフェント殿下は、三人目の魔王候補だったんです…」


「また、魔王候補なのっ!? 一体、何人居るのよっ!?」


「…其れは、俺にも分かりません…。─それで、ノルフェント殿下の持つスキルが、国を脅かすスキルでして…国が傾くのは困るので、封じたんです」


 ミーメナは口を開けたまま固まった。


「ハーシャは、ノルフェント殿下に何も感じないのかい?」

 感じる? ノルフェント殿下に?

 俺が困惑していると、シュザークが更に聞いてくる。

「ノルフェント殿下は─ハーシャの魔力に酷く敏感だったじゃないか。……お前の魔力だけで…極めてしまう程に…」

 シュザークは、ちらりとミーメナを伺って声を少し潜めた。

 まあ、下ネタだから女性の…しかも母上の前となれば言い難いよな。


「俺は──特に感じていない、かな? ただ、ほっとけ無い感じはありますが…。つい、構ってしまうというか…」


 でも、恋愛の意味では、何も感じてはいないかな。

 綺麗だなあ、可愛いなあとか、エロいなあ、とかは思うけれど…抱きたいかと言われれば、違うと言える。

 少年の儚げな…不安定な色香はあるけれど、俺の好みで言えば、もっとしっかりした身体つきの方が好みだ。

 逞しい身体をしているのに、俺の手で可愛く悶えるのが良いんじゃないか…。

 其処まで考えて、思考を止めた。…もうとっくに終わっているものを思い出しそうになったから。


「そうなの?」


 シュザークが意外そうに聞き返してくる。


「兎に角っ! どうして陛下からの親書が母上に?」


 先ずは、そこからでしょ。

 ミーメナは溜め息を吐いて、収納空間から陛下の親書を取り出し、俺の前に置いた。

 封の切られた封筒から、手紙を取り出して読む。


 簡単に言えば、国を脅かすスキルを持ったノルフェント殿下を持て余していたが、俺がスキルを封じた事により、其の脅威が無くなった。

 それが、神結糸の仲だからこそ出来たことなので、万が一に備え、同じ場所にノルフェント殿下を置きたい。


 要は、一緒に居て、封印が解けそうになったら、また封じてね。と言う事だ。


 俺は頭を抱えた。


 手に持った手紙を、シュザークがするりと抜き取り眼を通す。


「─成る程。一緒に住めって事だね」


 シュザークは、涼しい顔で手紙を丁寧に封筒に戻した。


「ハーシャ、陛下の親書である以上、私達に拒否権は無いよ。ノルフェント殿下は、悪い方ではないし…良いじゃないか」


「─そうですね…。魔王候補が一人増えるぐらい…どうって事無いですよ」


 俺はゆっくりと溜め息を吐いた。


 まあ…考えようによっては、魔王を生み出さない為にも、近くに置いておいた方が安心ではあるしな。


「ノルフェント殿下は、いつから我が家に?」


 ふと、疑問に思い聴いてみるとミーメナは溜め息を吐いた。


「貴方達がダンジョンに籠もった、次の日よ」


 何と言うか……速攻で、送り付けて来た感じだな。


「肝心のハーシャが居ないから、困って居たのよ。我が家でお世話をするのは構わないけれど、ハーシャがちゃんと面倒を見るのよ?」


「─母上…。犬猫じゃないんですから…」


 まるで、俺が捨てられた犬猫を拾って来たみたいじゃないか。


「あら? 神結糸の仲なんでしょう? なら、引き離せないわよ」


 だから……何だよ、其の神結糸の仲って?


「─其の、神結糸の仲って言うのは……具体的には、どういうものなんですか?」

 ミーメナが、うっとりとして話し出す。

「知らなかったの? 神結糸の仲って言うのは、神様が結んだ縁って事なのよ。神様の結んだ糸は、どうやっても、切ったり解いたり出来ないの」


「──呪いですか?」


「違うわよっ!」


 乙女の表情で話していたミーメナの眼が吊り上がった。


「糸と言うのは、神様の髪の毛なの。離れる事も、離す事も出来ないと言われているわ。そして…二人の間には奇跡のような力が宿るの! きっと、其れがスキルを封じたのねっ…!!」


 何だそれ…離れる事も、離す事も出来ないなんて…やっぱり呪いじゃないか……。


「相性が良いのは、魔力だけじゃないのよ? 身体も心もぴたりと合うの。惹き付けられて……如何どうしようもないんですって。……ふふふ、素敵ね!」


 何処が素敵なんだ…? 強力な魅了だろ? 呪いそのものだよな?


「まさか、ハーシャの神結糸の相手が、男性だとは思わなかったけれど…”神結糸の仲“の相手に、出会えただけでも凄いことだわ! しかも、陛下がお認めになったのよっ…!?」

 ミーメナは…まさに夢見る乙女の顔だった。



 ──陛下が、お認めに……。



 あれ…? 絶対逃げられないって事じゃ……。



 え? でも、成行きで…俺にとって都合が良いからそうなっただけで…神結糸の仲って訳じゃないけど…。

 もしかして……ノルフェントも巻き込んでしまったのか…? 


 サッと血の気が引いた。




 ──すまん……。ノルフェント……。

 









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