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Summer Camp

第46投

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 ーー四番か。

 久留美はいつもよりロージンを指先につけた。菜穂からマウンドに上がる前に言われたことを思い出す。

『調子がいい時ほど慎重にいきなさい』

 たったそれだけだったが、久留美には菜穂の意図がなんとなく伝わっていた。

 初球をインコースのストレートで空振りをとると、真咲は立て続けにインコースにミットを構える。

 ボール半個分内に構えてあったが、バッターは構わず強振する。ミットに収まったボールの球速は129キロと大台にいよいよ近づいた。

 久留美は勢いあまってとんでしまった帽子を拾い上げ、ミットを見つめる。

『真咲さん顔に似合わず大胆なリードだなぁ』

 光栄大学ピッチャー陣をリードする二人のキャッチャーの配球は正反対だ。

 真咲と翔子。

 どんなピンチでもピッチャーを鼓舞し、遊び球をあまり使わせずテンポよくサイン交換を交わしながら最後まで強気のリードを心がける真咲と、一球一球の間を意識してピッチャーが投げ急がないように状況を整理しながら冷静なリードを信条とする翔子。

 最近のオープン戦で菜穂は相性の良いバッテリーの組み合わせを確かめていたようだが、ブランクがあり、マイナス思考の久留実には、経験と度胸で引っ張てくれる真咲の方が投げやすかったりする。

 逆に体中から闘気が溢れてやや前のめり気味になってしまうりかこには翔子の方が相性がいい。

 泉のようにどちらでも特に問題がない場合もあるが、やはり人によって波長が合う、合わないはある。

 そういえばキャッチャーミットの色も真咲は赤で、翔子は青だ。道具の色ひとつとっても選手の性格が反映させるのかもしれない。
 

 インコースに2球ストレートを投げられて、簡単に追い込まれたのだ。幼い顔をして強気すぎる配球をする真咲のギャップに驚嘆しつつ、久留実は4番の必死な顔を見て打たれるイメージがわかなかった。

 ストライクアウト!

 審判のコールが響き、ストライクを一つ奪うたびに自信が出てくる。


 その後も真咲の大胆なリードとテンポよい投球で凡打の山を築き、四球でランナーを二人出しながらも要所をしっかり押さえて無失点で切り抜けていた。

 三回表の攻撃に美雨がツーストライクから意表をつくセーフティーバントで出塁するとノーアウトで打撃好調の詩音に打席が回る。

「琴音、ネクストのあんこを呼んでくれる」

 菜穂がこの試合初めてベンチの最前列に立った

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