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Summer Camp
第48投
しおりを挟む美雨をホームで殺すため前進守備を敷く玄武大学のバッテリーは、低め中心の配球をしてきた。ストライクからストライクに落ちるスライダーやチェンジアップといった落ちるボールであんこを仕留めようとするがあんこはどこまでもくらいつき、カウントはフルカウントになっていた。相手バッテリーのサイン交換がスムーズにいかなくなって、一球、一球の間が長くなる。
「なぁ久留美、あんこってなにを狙ってんだろうな」
「わかりません。相手ピッチャーの持ち球を全部ファールにしてるし、もしかしたら球種ではなくコースではっているのかも」
問いかけに答えたが、詩音は首を傾げた。ベンチからもあんこがなにを考えて打席に立っているのかが全く読めない。変化球を見送ったと思えば、ストレートにも手を出さない。低めのボール球を打ちにいったり、まるで意図が見えないのだ。
「もしかして、あの子なにも考えずに来た球を打っているのかしら?」
翔子がぼそっとつぶやいた。
「そうだと思うよ」
菜穂が答える。
「あんこは、自分の感覚と生まれ持ったセンスだけで野球をやっています。おそらく配球など微塵も考えたことはないでしょう。あの子の頭にあるのはどこに打てばヒットになるかということだけ」
フルカウントから十二球目となるボールは低めから落ちるスライダーだった。
見送ればボールの可能性が高かったがあんこは打ちにいく。右肩を落としバットの軌道をレベルから少しアッパー気味に軌道を修正させると、届くはずのないボールにバットの芯があたる。
右手首でバットをかぶせないように左手をまるで居合切りみたく抜きヘッドを走らせるとそのまま手首をかえさずフォーロースイングした。そのスイングはまるで雅の瓜二つで低めを完璧にとらえた打球はショート後方に落ちたレフト前ヒットになった。
美雨は手を叩きながらホームに生還して、打ったあんこは一塁ベース上で堂々とピースサインをしていた。
「あのお調子者、よく打ったわ」
りかこが思わず手を叩いてしまうほどにベンチではあんこを称賛した。
「よし先制だ。このまま突き放そう」
美雨の檄が飛んで勢い掛かったのもつかの間、みんなに誉められ調子にのりすぎたあんこは必要以上にリードをとってピッチャーをおちょくり、一発けん制で刺されて帰ってきたのだ。意味のないアウトにベンチも落胆しソヒィーも凡打に終わる。
「みんな切り替えて守備行ってみよう」
チェンジになりあんこが一目散にベンチを飛び出すとすかさず、りかこが「お前が言うな」と叫んであんこを睨んだがお構いなしに笑っていた。
「咲坂さん。行けるとこまでいかせるから、この試合でスタミナ全部使い切りなさい」
菜穂が珍しく檄を飛ばす。あと四回だ。久留実はマウンドに走った。
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