大正魔術英雄譚

うさみかずと

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大正美人の敵討

なんの了見だい?

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 麹町を出た時には、小雨は降りやみ、家々の屋根に重くのしかかっていた雲のは晴れ間が見えていた。

 車はゆるりらと進んでいく。そのすぐ近くを先を急ぐ車たちが睨みを利かせながら横をぐんぐん追い越していった。

「あのぁお客様、いい加減にしてくださいますか?」

「なにがだ」

 運転手は大きくため息をつく。しかしそれには理由があった。

「何って、さっきから同じ場所をぐるぐると回るだけでちっとも降りてはくれないではないですか?」

「口答えをするな、金なら払うし、それに地図ではこの辺をしめしているのだ」

 運転手はハンドルを切りながら呆れたように座席を座り直す。半分諦めた口調で、

「ですからその地図をわたくしめにお見せくださいな。きっとその方が早いと思われますよ」

 運転手の提案はもっともだ。しかしこの男。骨川カウツは頑なに首を縦に振らない。それどころか、

「貴様のようなむさくるしい輩に俺の私物を触らせるか、文句を言わずに進め」

 悪態をつく始末だ。

「……」

『ふん、生意気な態度で接しやがって、俺の世界だったら三回は殺しているぞ』

 カウツは不機嫌に窓の外を眺めていると、車は急に進行を止め、路肩につける。

「おい勝手にとまるな」

「もう限界でございます。お代は結構なので降りてください!」

 運転手の返答に虚をくらったが、その声の圧迫感に根負けしそそくさと車を降りた。

「もう二度とご利用なさらないで!」

 ばたんと閉まるドアに、立ち去る車を眺めながら、

「それはこっちのセリフだ、タコスケ!」

 と人々の往来も関係なく叫んだ。

「くそ! また迷った。この世界の地形は分かりにくすぎる!」

 行き場のない怒りを地面にぶつけ地団太を踏むカウツを人はみな避けて歩みを進めていく。

「ここにカフェがあって、大学が……」

「もし」

「うるさいな、今はそういう気分じゃないんだ、客引きはすっこんでろ!」

「あ、いえそうではなく、その大丈夫でしょうか? さきほどタクシーに乗られていた殿方ですよね、この通りをぐるぐると走られていたことを見ておりましたから、もしやお困りだと思いまして」

「なにぃ」

 男は振り返り声の主を視界に収めた。長い髪をポニー・テールに結っており、名門女学校のセーラー服が色白の顔立ちに良く似合った。

 しかしそれよりも目を引いたの純朴で大きな瞳だった。この世界の美人の定義として切れ長の瞳や華奢な身体とは少し外れてはいるが、健康的な体躯の彼女の立ち振る舞いはまさしく大正美人に相応しい。

「ふむ、ふむ。ほう~なるほど……」

 カウツは指で丸を作り右目にあてると彼女の下から上まで眺め小刻みに頷いた。

「もし、何をやっておられますの?」

「おっと、こいつは失敬。実は家に帰れなくなってな、困っていたところだ」

 カウツは大人しく手に持った地図を手渡す。手渡された彼女は数秒眺めた後不思議そうに何度も首を傾げた。

「もし、この地図が正しければ目的地はここになりますが」

 指さした場所を目で追うと古びた二階建ての建物が見える。下の階はカフェの看板が出ており、上の階には玄関先に擦れた文字で【探偵事務所】とそう書かれていた。

「あぁそうかこれが俺ん家だ」

「はぁ」

「いやぁ助かったよ。ありがとうお嬢さん。ところでさぁお前さんこんな明るいうちから俺にどういう了見だい?」
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