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決着
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「雄大、この打席を楽しんでくれ」
ベンチから固唾を飲んで見守る太一は心の中でつぶやいた。監督から雄大がキャプテンを任命されたとき僕は少し嫌だった。
野球部が廃部になりそうだった時もそうだ。一人でなんでも抱え込んでなんとかしようとする。監督とチームとの間を取り持ちキャプテンとして人一倍練習していたのは雄大じゃないか。だからこの打席はチームのためとかじゃなくて自分のために楽しんでほしい。でもそんなことを言ったら怒るだろうな。
「チームの勝利のために打席に立たなくてどうする」とか何とか。でもいいんだ、最後くらい自分勝手にしても、雄大で夏が終わるなら僕や他のメンバーも悔いはない。
電光掲示板を見上げる。九回にとられた一点はあまりにも重い。それに走路へ迂闊に入ってしまった自分に責任がある。あれがアウトになっていれば状況はまた変わっていたかもしれないのに。
バットを高く構え脚を肩の幅と同じくらいに広げる。膝を軽く曲げてピッチャーと対峙する。前田は初球を変化球から入った。真ん中からアウトコースに逃げるようなボール。雄大は憮然とした態度で見送った。ワンストライク。前田も分かっているはずだ。最悪同点で抑えれば選手層の薄い幸手連合に勝ち目はない。
雄大がちらりとこちらを見て、笑った。ぼそぼそ口を動かして何かを言っていたが、ベンチにいる太一にはまず聞こえるはずもないのになんとなく分かってしまう。
「たまんねぇ」
雄大らしい。確かにこの状況はたまらないよね。
僕たちは今かけがえのない二時間を過ごしている。今はまだ緊張と興奮で疲労感に漂っているが、五年後、十年後にふと思い返すと胸が熱くなるだろう。
僕は汗と泥に塗れながらあそこでホームランを打った。あれは本当に僕だったのだろうか、と。
二球目、アウトコースの変化球を続ける。今度は見送ることなくバットを振りだした。コンパクトなスイングで快音を残した打球が一塁線をライナーで襲う。先ほどナイスプレーで球場を沸かせたファーストが横っ飛びするも間に合わずグラブの先を抜ける。
ファール。一塁ベースを叩きつけ悔しそうにグラブをパンパンと鳴らした。しかしあのグラウンドで一番悔しい顔をしていたのは間違いなく雄大だ。打ち損じたと言わんばかりにバットでこつんとヘルメットを叩く。ツーストライクと追い込んでいるのに、前田はサイン交換に戸惑って投げにくそうに首を振っている。
ストレートで一球様子を見たいんだな、太一は感じ取った。おそらく二球目のボールを完璧に捉えられたのが相当堪えたのだろう。自信のあるボールを振り切られたら迷いが生じるはずだ。またもアウトコースに変化球。ジャッジが難しいコースだったが雄大のバットはピクリとも動くことはなく見送った。
ボール。手が出なかったわけじゃない完全に見極めて見送ったのだ。
突然に雄大の表情がだらしなく崩れた。あぁそうか、もうこの高揚感を味わえないのか。太一はすぐに理解した。次の一球でこの試合が決まる。勝っても負けてもこの試合は終わるのだ。
打席に目を戻す。球場にいる誰もが彼らの一挙手一投足を見守っていた。決め球はインコースのストレート。
テイクバックを十分にとり飛距離の限界に挑むような力強いスイングだ。
完全に振り切った時には太一の位置から背番号が見えていた。
空高く上がった打球はバックスクリーンへ一直線に向かっていく。
定位置に守っていたセンターが懸命にボールを追う。
どんどん伸びていく。
いけ、いけ、いけー!
太一は全身から力が抜けていくのを感じた。歓声と悲鳴の豪雨がグラウンドの熱気を抑えつけ、その間に雄大は颯爽と一塁を蹴っていた。
まだ打球は落ちてこない。
あぁいっそこのままあの青空の向こうに消えてなくなってしまえばいいんだ。
打球は伸びる。
みんなの想いをのせて高く、遠くへ。
ベンチから固唾を飲んで見守る太一は心の中でつぶやいた。監督から雄大がキャプテンを任命されたとき僕は少し嫌だった。
野球部が廃部になりそうだった時もそうだ。一人でなんでも抱え込んでなんとかしようとする。監督とチームとの間を取り持ちキャプテンとして人一倍練習していたのは雄大じゃないか。だからこの打席はチームのためとかじゃなくて自分のために楽しんでほしい。でもそんなことを言ったら怒るだろうな。
「チームの勝利のために打席に立たなくてどうする」とか何とか。でもいいんだ、最後くらい自分勝手にしても、雄大で夏が終わるなら僕や他のメンバーも悔いはない。
電光掲示板を見上げる。九回にとられた一点はあまりにも重い。それに走路へ迂闊に入ってしまった自分に責任がある。あれがアウトになっていれば状況はまた変わっていたかもしれないのに。
バットを高く構え脚を肩の幅と同じくらいに広げる。膝を軽く曲げてピッチャーと対峙する。前田は初球を変化球から入った。真ん中からアウトコースに逃げるようなボール。雄大は憮然とした態度で見送った。ワンストライク。前田も分かっているはずだ。最悪同点で抑えれば選手層の薄い幸手連合に勝ち目はない。
雄大がちらりとこちらを見て、笑った。ぼそぼそ口を動かして何かを言っていたが、ベンチにいる太一にはまず聞こえるはずもないのになんとなく分かってしまう。
「たまんねぇ」
雄大らしい。確かにこの状況はたまらないよね。
僕たちは今かけがえのない二時間を過ごしている。今はまだ緊張と興奮で疲労感に漂っているが、五年後、十年後にふと思い返すと胸が熱くなるだろう。
僕は汗と泥に塗れながらあそこでホームランを打った。あれは本当に僕だったのだろうか、と。
二球目、アウトコースの変化球を続ける。今度は見送ることなくバットを振りだした。コンパクトなスイングで快音を残した打球が一塁線をライナーで襲う。先ほどナイスプレーで球場を沸かせたファーストが横っ飛びするも間に合わずグラブの先を抜ける。
ファール。一塁ベースを叩きつけ悔しそうにグラブをパンパンと鳴らした。しかしあのグラウンドで一番悔しい顔をしていたのは間違いなく雄大だ。打ち損じたと言わんばかりにバットでこつんとヘルメットを叩く。ツーストライクと追い込んでいるのに、前田はサイン交換に戸惑って投げにくそうに首を振っている。
ストレートで一球様子を見たいんだな、太一は感じ取った。おそらく二球目のボールを完璧に捉えられたのが相当堪えたのだろう。自信のあるボールを振り切られたら迷いが生じるはずだ。またもアウトコースに変化球。ジャッジが難しいコースだったが雄大のバットはピクリとも動くことはなく見送った。
ボール。手が出なかったわけじゃない完全に見極めて見送ったのだ。
突然に雄大の表情がだらしなく崩れた。あぁそうか、もうこの高揚感を味わえないのか。太一はすぐに理解した。次の一球でこの試合が決まる。勝っても負けてもこの試合は終わるのだ。
打席に目を戻す。球場にいる誰もが彼らの一挙手一投足を見守っていた。決め球はインコースのストレート。
テイクバックを十分にとり飛距離の限界に挑むような力強いスイングだ。
完全に振り切った時には太一の位置から背番号が見えていた。
空高く上がった打球はバックスクリーンへ一直線に向かっていく。
定位置に守っていたセンターが懸命にボールを追う。
どんどん伸びていく。
いけ、いけ、いけー!
太一は全身から力が抜けていくのを感じた。歓声と悲鳴の豪雨がグラウンドの熱気を抑えつけ、その間に雄大は颯爽と一塁を蹴っていた。
まだ打球は落ちてこない。
あぁいっそこのままあの青空の向こうに消えてなくなってしまえばいいんだ。
打球は伸びる。
みんなの想いをのせて高く、遠くへ。
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