【完結】●●のために、婚約破棄を阻止したかった侯爵令嬢

カド

文字の大きさ
6 / 8

届かない叫び<王子視点>

しおりを挟む
なぜだ、なぜだ、なぜだ!!!

同じ問いばかりが頭の中で繰り返される。
口にも出ていたようだったのに、答える者は誰もいなかった。




あの女との婚約破棄を報告したら、国王である父は真っ蒼になって泡を吹きながら近衛兵に何かを命じた。
ほとんど悲鳴のようで聞き取れなかったが、僕はそれでなぜか、捕えられて地下牢行きになってしまった。


「何故だ!!おい、ここから出せ!!僕はっ……僕はこの国の第一王子だぞ!?王の正当な後継者だ!その僕にこんな事をして……ただで済むと思うなよ!!!」

地下牢の鉄柵を握り、ガシャガシャと揺するが、錆の匂いがきつくなるだけで開く事はない。
じめじめと湿気って陰気臭い場所だ。こんな所、一秒だって早く立ち去りたいというのに!





…………暗い。

喚いて、喚いて、幾日経っただろう?
日に日に、思考の鈍りを感じていく。

出される粗末な食事は口に合わない。というより、王子である僕が口にするものであるはずが無い。
……しかし、栄養不足で倒れる事も絶対にいやだ。番人の目を盗んで一口、二口と汁だけを舐める日が続く。
じわじわと限界が近づいて来ていた。




不意に、番人の交代以外では開かれなかった地下牢の入り口。その重々しい木扉が、ギ……と、きしんだ音を立てて開いた。
松明の光に照らされながら、一人の男が鉄柵の方へ近づいてくる。

男は番人へと優しく声を掛けた。微笑んでいるような声すら聞こえる。
番人の男が緊張でバッ、と姿勢を正しながら「――様!」と呼ぶのも聞こえた。
……どこかで聞いた名であった。どこで……


鉄柵の前に現れたのは、武装もない、武器もない、シンプルではあるが上質な衣服を纏った男だ。
これはどう見ても兵ではない。つまり……!

「ようやく僕を助けに来たのか!?何というのろまな……!!」

ダンッ、と拳で土壁を叩く。しかし、伝令者は牢の前に立ち、薄く笑うだけだった。

「いいえ、リード様。あなたは国外追放です」

「………は?」

ピシ、と。時の凍る音がした。

「先ほどの閣議で決定が下されました。今出して差し上げるので、どこへでも、好きなところへ行ってください。……この国以外の、ね」

「…………馬鹿な事を!!!」

やっと言葉の意味は飲み込んだが、到底納得いく話ではなかった。

「僕が、国を出る!?何を馬鹿な事を言っている……僕は、この国の王子だぞ!!」

「いいえ、リード様。あなたはこの国の王子ではございません。と、いうよりそもそも……」

伝令者は、嫌味なまでに整った顔をしている。その顎へ、わざとらしく奴は自分の指をあてた。

「もう、あなたの国はありませんから」


「………な、に…………?」

伝令者は柔らかな笑顔で、淡々と事実を告げていく。
王である父が、僕を見捨てて逃げたこと。
その際、権利がすべて侯爵家に渡ったということ。
そして、重臣達の多くが取り替えられ、トップの顔が変わり……
もう、ここは元のままの国ではないということ。


侯爵家……侯爵家だと…………?


「み……ミレイ、を……ミレイをここに呼んでくれ………」

「どうして?」

「婚約者だ。僕の婚約者なんだ……侯爵家の長女で……
あいつならきっと、何かの間違いだと……そう、きっと僕をここから出してくれる!!」

「リード様」

伝令者は、笑った。


「ミレイ様は、もうあなたの婚約者ではないですよ。婚約破棄をなされたでしょう?」

「ちがう。ちがうんだ……あれは誤解で……そう、誤解だ……!!」

呂律の回らない言い訳を続けていると、ふっと伝令者から笑顔が消える。

「彼女はもう、僕のものだ」

「な、それは、一体……ゲホッ……」

驚きと空腹と喉の渇きで、咳き込んでしまう。
飛沫がかからないようにか伝令者は一歩後ずさり、そのまま体の向きを少し変える。
視線だけを僕へ寄越している。なんだ、なんだ、その目は………

「そこだけは感謝してあげてもいいよ。老人達の取り決めで生まれた時から王子愚か者に縛られていた彼女は、王子あなたのお陰で解放された。彼女はもう、僕のものだ。これから先、ずぅっとね!」

牢の中で高笑いが響く。完全にくるっと入口の方へ向きを変えて、歩き出しながら伝令者が言う。

「感謝の気持ちで、処刑から国外追放へと処罰を軽減させておきました。
バイバイ、元王子様」



僕は、全て聞き終えた後、茫然とその場に崩れ落ちた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

元婚約者のあなたへ どうか幸せに

石里 唯
恋愛
 公爵令嬢ローラは王太子ケネスの婚約者だったが、家が困窮したことから、婚約破棄をされることになる。破棄だけでなく、相愛と信じていたケネスの冷酷な態度に傷つき、最後の挨拶もできず別れる。失意を抱いたローラは、国を出て隣国の大学の奨学生となることを決意する。  隣国は3年前、疫病が広がり大打撃を受け、国全体が復興への熱意に満ち、ローラもその熱意に染まり勉学に勤しむ日々を送っていたところ、ある日、一人の「学生」がローラに声をかけてきて―――。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

王家の賠償金請求

章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。 解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。 そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。 しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。 身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。 『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...