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【ヤンデレメーカー#32】スキャンダルの巣窟
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「あ…あなたに抱かれるなんて冗談じゃない!」
声がひっくり返るみたいな金切声で叫んだ!
一瞬ウッと目を顰めた記者の男。
なのに嬉しそうなニコニコ顔は変わっていない。
「じゃあ僕と来るんですね?願ったり叶ったりだ!」
ソイツは立ち上がってアッハハと勝者の声を上げた。
「そんな…僕と来るって言ったって!このチェーン、どうするんですか…!?」
「それなら心配いりませんよ。週刊誌記者7つ道具。チェーンカッター持って来てるので。頑強に封鎖された扉も開くんですよこれで…ちょっと待ってて」
男はふいに階段を上がっていくと、ガサゴソと物音を立てて少しして戻ってきた。
そして僕の足首に巻きついていたチェーンを、ガチャリと切り落とした。
唖然とする僕。後ろ手に縛られたまま…。
「…い、いや…」
「さっき約束したでしょう。契約不履行は訴えられますよ?」
顔を近づけて言われてギクッとした。
そういって僕を担ぎ上げ、ミニバンへと運んでいった。
…キスされるのかと思ったんだ。こんなやつ、冗談じゃない!
外は雨が降っていた。それどころかモヤみたいな霧がかかっている。
黒のミニバンの後部座席にそっと乗せられて、ご丁寧にシートベルトまで絞められる。僕はどうしようもなく不安な思いでいた。涙溢れてしまいそうだった。
「…じゃ、発進しますね。僕ん家ちょっと遠いので寝てても良いですよ」
遠ざかるテディと暮らした家。こんな形でテディから去りたかった訳じゃない。どうしてこんなこと…。
せめてとばかりに僕は噛みついた。
「僕…あなたのこと訴えますからね!」
「どうぞお。訴えられてもおいしーんですよ、記者って。むしろ法廷であなたが何を喋ってくれるのか、楽しみですらありますね。それでひと記事書けますし」
振り返りはせずに、横顔だけを僕に向けてそういった記者。
流れゆく街灯の明かりがソイツの横顔を照らしていた。妙に整った横顔はマネキンみたいで、そいつの人間らしさを更に失わせていた。
僕はこれからどうなる?テディは?他の皆は?事務所に多大な迷惑掛けてしまうのだろうか。社長さん…。
■■■
記者の家は随分遠いマンションだった。
タワマンみたいなデカさ。豪華さ。
きっとスキャンダルが大きいほど見入りも大きいのだろう。なんて嫌な商売だ。
キッと駐車場に車を停めた男。
「さて。ウチ着きましたよお。…それでね?」
男はミニバンの中をくぐり、運転席から無理やり後部座席に移動してきた。
隣に座って僕を覗き込む男。前髪をいじってくるのを、顔を背けて抵抗した。
「い…いや!!」
何する気!?やっぱヤらせろとか、そんなの冗談じゃないから!!!
「そおんな怖がらないで。いやね、男の子のメイドさん担いでたらさすがに目立ちますでしょ?
それに助けてくれー!なんて声を張り上げられたらたまったもんじゃない。
だからあなたには寝てもらいますね」
え…。
そんな疑問の声を発せられたかも分からない。
ドスッ!って信じられない衝撃を腹に受けて、僕は失神したらしかった。
■■■
「う…」
目覚めると、僕は見知らぬベッドにいた。あれ、なんだっけここ…。
「あ、起きました?先ほどはすいませんねえ」
ビクッとした。そうだ。記者の家だ!
あとずさる僕。手の拘束は解かれていたけど、今度はまた脚にロープが巻きついている…。
僕はこうやって縛られてばかりだ。何なんだよ、一体!
「あ、あなた本当に一体何な…」
改めて部屋の中を見渡して、僕は唖然とした。
部屋中が写真だらけだったんだ。
映画で見たことある俳優さんやタレントさんの写真もあった。
私生活の一部を切り取ったもの、女性と歩いているもの。いかがわしい風俗店に出入りしてるっぽい写真。色々。
ここはスキャンダルの巣窟だった。
それに、それにテディ達アイドルグループbreezeの写真もあって…!
「ここねえ。僕の寝室兼仕事場なんですよ。写真チェックして、気に入ったやつは大きく引き伸ばす。他人のスキャンダル写真見てるとやっぱ興奮するし。
あとは記者と言ってもカメラマンの端くれなので、よく撮れた写真もとりあずポスターにしますね。breezeの子達はさすがに全員美形で絵になりますよねえ。
僕は僕が撮った満足な写真眺めて寝たいんです」
「あ、あれ…あの写真…」
僕が震える手で指差したその写真。
それは不良っていうのか、ヤンキー?っていうのか。いやそんな生ぬるい感じじゃない男の子たちが繁華街でたむろしてる。そんな写真だったんだけど…。
僕はその写真の真ん中に写る、1人の男の子に釘付けになっていた。
陳腐な表現だけど、尖ったナイフというか…いや違う。ギザギザした刃をそのまま手渡しされているような血生臭い雰囲気がする、その男の子。
どう見てもサミーさんだったのだ。
「あ、知ってます?サミーくんて元々随分荒れた子だったんですよ。
それはデビュー前の写真なんですけどね。
当時15歳、未成年喫煙。路上で喧嘩、暴力事件は日常茶飯事。バイクの無免許運転。クスリ…はやってたかは残念ながら分からない」
メンバーがサミーさんを恐れていた理由ってこれだったんだ。元ヤンのサミーさん。多分潜ってきた修羅場の数は1番多く、その拳は誰よりも強いのだろう。
「家庭に問題あるとかで荒れてたみたいですけどね。今の事務所の社長が拾ってから随分マシにはなったみたいですよ」
『藍におせっかいして欲しい、それが嬉しいんだ』ってかつてサミーさんが僕に言ったセリフが脳の中で蘇った。
サミーさんはどんな空虚さを抱えていたのだろう。写真から目が離せない。
「アイドルの過去を掘ると、何か出てくる子は必ずひとりやふたりはいる。
彼らの裏の顔。華やかなテレビ画面からは分からない苦難。人間て奥深いモンですよねえ。
それで僕は、彼らの過去写真をどう料理しようか考える。想像するだけでゾクゾクする。どのタイミングで出す?どんな見出しをつけて?
最高のタイミングで世に出したいじゃないですか。
ね、週刊誌記者って面白い仕事でしょう?」
続く
声がひっくり返るみたいな金切声で叫んだ!
一瞬ウッと目を顰めた記者の男。
なのに嬉しそうなニコニコ顔は変わっていない。
「じゃあ僕と来るんですね?願ったり叶ったりだ!」
ソイツは立ち上がってアッハハと勝者の声を上げた。
「そんな…僕と来るって言ったって!このチェーン、どうするんですか…!?」
「それなら心配いりませんよ。週刊誌記者7つ道具。チェーンカッター持って来てるので。頑強に封鎖された扉も開くんですよこれで…ちょっと待ってて」
男はふいに階段を上がっていくと、ガサゴソと物音を立てて少しして戻ってきた。
そして僕の足首に巻きついていたチェーンを、ガチャリと切り落とした。
唖然とする僕。後ろ手に縛られたまま…。
「…い、いや…」
「さっき約束したでしょう。契約不履行は訴えられますよ?」
顔を近づけて言われてギクッとした。
そういって僕を担ぎ上げ、ミニバンへと運んでいった。
…キスされるのかと思ったんだ。こんなやつ、冗談じゃない!
外は雨が降っていた。それどころかモヤみたいな霧がかかっている。
黒のミニバンの後部座席にそっと乗せられて、ご丁寧にシートベルトまで絞められる。僕はどうしようもなく不安な思いでいた。涙溢れてしまいそうだった。
「…じゃ、発進しますね。僕ん家ちょっと遠いので寝てても良いですよ」
遠ざかるテディと暮らした家。こんな形でテディから去りたかった訳じゃない。どうしてこんなこと…。
せめてとばかりに僕は噛みついた。
「僕…あなたのこと訴えますからね!」
「どうぞお。訴えられてもおいしーんですよ、記者って。むしろ法廷であなたが何を喋ってくれるのか、楽しみですらありますね。それでひと記事書けますし」
振り返りはせずに、横顔だけを僕に向けてそういった記者。
流れゆく街灯の明かりがソイツの横顔を照らしていた。妙に整った横顔はマネキンみたいで、そいつの人間らしさを更に失わせていた。
僕はこれからどうなる?テディは?他の皆は?事務所に多大な迷惑掛けてしまうのだろうか。社長さん…。
■■■
記者の家は随分遠いマンションだった。
タワマンみたいなデカさ。豪華さ。
きっとスキャンダルが大きいほど見入りも大きいのだろう。なんて嫌な商売だ。
キッと駐車場に車を停めた男。
「さて。ウチ着きましたよお。…それでね?」
男はミニバンの中をくぐり、運転席から無理やり後部座席に移動してきた。
隣に座って僕を覗き込む男。前髪をいじってくるのを、顔を背けて抵抗した。
「い…いや!!」
何する気!?やっぱヤらせろとか、そんなの冗談じゃないから!!!
「そおんな怖がらないで。いやね、男の子のメイドさん担いでたらさすがに目立ちますでしょ?
それに助けてくれー!なんて声を張り上げられたらたまったもんじゃない。
だからあなたには寝てもらいますね」
え…。
そんな疑問の声を発せられたかも分からない。
ドスッ!って信じられない衝撃を腹に受けて、僕は失神したらしかった。
■■■
「う…」
目覚めると、僕は見知らぬベッドにいた。あれ、なんだっけここ…。
「あ、起きました?先ほどはすいませんねえ」
ビクッとした。そうだ。記者の家だ!
あとずさる僕。手の拘束は解かれていたけど、今度はまた脚にロープが巻きついている…。
僕はこうやって縛られてばかりだ。何なんだよ、一体!
「あ、あなた本当に一体何な…」
改めて部屋の中を見渡して、僕は唖然とした。
部屋中が写真だらけだったんだ。
映画で見たことある俳優さんやタレントさんの写真もあった。
私生活の一部を切り取ったもの、女性と歩いているもの。いかがわしい風俗店に出入りしてるっぽい写真。色々。
ここはスキャンダルの巣窟だった。
それに、それにテディ達アイドルグループbreezeの写真もあって…!
「ここねえ。僕の寝室兼仕事場なんですよ。写真チェックして、気に入ったやつは大きく引き伸ばす。他人のスキャンダル写真見てるとやっぱ興奮するし。
あとは記者と言ってもカメラマンの端くれなので、よく撮れた写真もとりあずポスターにしますね。breezeの子達はさすがに全員美形で絵になりますよねえ。
僕は僕が撮った満足な写真眺めて寝たいんです」
「あ、あれ…あの写真…」
僕が震える手で指差したその写真。
それは不良っていうのか、ヤンキー?っていうのか。いやそんな生ぬるい感じじゃない男の子たちが繁華街でたむろしてる。そんな写真だったんだけど…。
僕はその写真の真ん中に写る、1人の男の子に釘付けになっていた。
陳腐な表現だけど、尖ったナイフというか…いや違う。ギザギザした刃をそのまま手渡しされているような血生臭い雰囲気がする、その男の子。
どう見てもサミーさんだったのだ。
「あ、知ってます?サミーくんて元々随分荒れた子だったんですよ。
それはデビュー前の写真なんですけどね。
当時15歳、未成年喫煙。路上で喧嘩、暴力事件は日常茶飯事。バイクの無免許運転。クスリ…はやってたかは残念ながら分からない」
メンバーがサミーさんを恐れていた理由ってこれだったんだ。元ヤンのサミーさん。多分潜ってきた修羅場の数は1番多く、その拳は誰よりも強いのだろう。
「家庭に問題あるとかで荒れてたみたいですけどね。今の事務所の社長が拾ってから随分マシにはなったみたいですよ」
『藍におせっかいして欲しい、それが嬉しいんだ』ってかつてサミーさんが僕に言ったセリフが脳の中で蘇った。
サミーさんはどんな空虚さを抱えていたのだろう。写真から目が離せない。
「アイドルの過去を掘ると、何か出てくる子は必ずひとりやふたりはいる。
彼らの裏の顔。華やかなテレビ画面からは分からない苦難。人間て奥深いモンですよねえ。
それで僕は、彼らの過去写真をどう料理しようか考える。想像するだけでゾクゾクする。どのタイミングで出す?どんな見出しをつけて?
最高のタイミングで世に出したいじゃないですか。
ね、週刊誌記者って面白い仕事でしょう?」
続く
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