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【のろまの矜持#10】vs莉音
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莉音はピタ、と止まった。
「あ、あれって……詩音くんじゃないですか……?」
「……」
「り、莉音、くん……?」
「……。強盗かも」
「え!?」
「だって詩音なら鍵差し込んでガチャって自分で開けるでしょ。そうしないんだからあれは詩音じゃない。詩音から連絡もない。
あいつ窓でもぶち破って入ってくるかも。ここは危険だ。今のうちに逃げよう」
そう言ってナツミを立ち上がらせた。
「リビングの窓開けて外出よう……シッ静かに着いてきて。大丈夫だよ、俺がついてるからね」
抜け目なくナツミの肩を抱いた。
「外出て、木だの物置だのの物陰に隠れて移動しよう。ここ木が鬱蒼としてるしね。大丈夫見えないよ。ちょこっと抜ければファミレスがある。そこでまずは詩音と合流しよう」
「は、はい……!」
「俺にしがみついてれば良いよ。そうすれば怖くないから」
ナツミは莉音を一層頼もしく感じ、頷いた。この人は自分に安心をくれるかもしれないと感じ始めていた。
懐かれている雰囲気に気をよくした莉音。
「悪いやつから、俺が君を守ってみせるよ」
にこりと笑ってリビングの窓を開けた。
だけど物音の本当の正体について、このとき莉音は確信していた。
詩音だったら普通に鍵を開け、そして莉音がわざと締めた扉のチェーンでガガッと音が鳴るはずなのだ。
それにこんな田舎に強盗もくそもない。
あれは加賀美だ。
ならば試してやろう。どこまで追って来れるか。
お前に取り返せるか?ナツミを。
根が挑発屋なのは双子共通だった。
それに上手く騙してしまえば自分はナツミのヒーローだ。他の男らを出し抜くどころじゃない加点。
そんな算段があった。
『莉音vs加賀美』
「こっち来て……」
小声で囁く。莉音はナツミを家の反対側からそっと連れ出した。運よく月が隠れて外は真っ暗だった。
「り、莉音くん……」
強盗だと嘘を言われて心底ビビり震えているナツミ。ギュッと莉音にしがみついた。
安心してと言わんばかりにナツミを抱きしめた。ナツミは拒絶しなかった。
その時玄関扉の方から男の大声が聞こえた。
『おい!良い加減開けろよ!』
「!」
驚きナツミが振り返る。
さっとナツミの耳を塞いだ莉音。加賀美と気づいただろうか?こっち来いと言わんばかりに視線で促し、そっと、そうっと慎重にナツミを連れ動き出す……。
一気に移動したかったが、男がこっち側に来る靴音の気配があり、まずいと思った。
取り急ぎ物置の裏に回り込んで腰を屈めた。
ドク、ドクンと心臓が鳴る。
ナツミに自分で耳塞いでおけと塞がせる。
チラ……と物置の窓から様子を見る。
物置の反対側を今まさに歩いているのは、闇夜でも分かる憔悴した高身長の男。やはり加賀美だった。
頬に殴られたような跡が見受けられた。それは一瞬だったが。
加賀美はこの辺の様子を伺っている様だ……。
「どこだよ、クソ!」
ドカン!と物置が大きく揺れた。
ビクン!!と飛び跳ねたナツミを、莉音は抱きしめたが、正直莉音は揺れを楽しんでいた。
そうだ、そう興奮してくれなきゃ!盛り上がらないだろ!?
そんな舌なめずりするような気持ちで。
加賀美は悪態をついては時折喚いた。
莉音はいっそこのまま飛び出してやりたいような気持ちを必死に抑え、加賀美がどうするのかめちゃくちゃワクワクしていた。
「!……ここ……」
やがてリビングの窓が開いていることに気づいた加賀美。迷わず家の中に入って行く物音が聞こえた。
「今だ。行こう」
ナツミを立ち上がらせた。
莉音は心の中でベロを出す。
加賀美くん、良い線行ってたけど大分残念だね。空振りお疲れ様でした。
まあ、ナツミちゃんの私物が置いてあるバッグとか見つけて動転してよ。ナツミは俺が抱いておくから。
含み笑いを抑えつけ、莉音はナツミを連れて今度こそその場から消えた。
「……はあ、は、もう走れない……」
足がもつれるようにして転んだナツミ。
「頑張ってよナツミくん。ファミレスもうちょっとだよ。ね、道も明るくなってきたしさ」
「うう……」
ナツミの手を握った。
「……まあ、もうここまで来ればとりあえず大丈夫だと思うけどね。よく頑張ったねナツミちゃん」
「!……莉音くん……おかげで助かりました……」
ぎゅうと抱きついてきたナツミ。にっこりした莉音。ナツミのヒーローになる足掛かりは十分だ。
「君を守れて良かった。大事な存在だからね。さっきも言ったろう?」
「!……嬉しいです……」
このタイミングでこの台詞。さぞかし沁みるだろうと計算を弾く。
ナツミの手が莉音の背中のシャツをぎゅ、と握った。
「……怖かった…。でも、なんか僕、その、上手く言えないんですけど」
「うん……言って?」
息を吸ってなんとかナツミは言った。
「あの時、一瞬加賀美さんの声が聞こえた気がしたんです。
ナツミって僕を呼ぶ声が。聞いたことのない必死な声な気がして……僕を愛していた訳もない加賀美さんが。僕をそんな声で呼ぶ訳ないのに……僕は混乱しているんでしょうか」
「……」
人の気持ちは昨日の今日のでいきなり変わらない。振ったとはいえ、ナツミの心の一部はまだ加賀美を求めたままなのだろう。それを切り離していくのが俺の仕事だと莉音は思った。
「やだなあ俺らが君を攫ったみたいじゃん。俺は男の姿をハッキリ見たけど全然、加賀美サンじゃなかったよ。空耳だよ。
可哀想に、きっと恐怖で混乱してしまったんだね。今晩は一緒に寝ようね……」
確かに莉音は嘘をついた。でも嘘は本当にすれば良い。ナツミがこの件をきっかけに自分を頼り、その信頼に応えれば自分は本当にナツミのヒーローになれる。
嘘は本当にしてしまえば、なかったことになる。
莉音はそう考えていた。
◼️◼️◼️
一方詩音。
「……う、いってえ……」
ふと目を覚ます。
気絶していたらしい。信じられないこの俺が。
そう思って口の中の血溜まりをぶっと吐いた。
口の中がめちゃくちゃ痛え。切ったか。
まあそれはどうでも良い。
気づけば詩音は、駐車スペースのコンクリートにそっと背をもたれるようにして座り込んでいたのだ。
俺を気絶させてご丁寧に座らせたやつは誰だ?
加賀美しかいない。
喉に血溜まりでも詰まらせたら危ないからねってか?くそ!
下手な親切心はかえって馬鹿にされている気がする。詩音にとって初めての完全敗北だった。
思い出す加賀美との喧嘩。澄ました顔してめちゃくちゃ強い拳のあの男。
「畜生!!」
ブチギレ声が駐車場に響いた。
腕時計を確認する。40分程時間が経っている。
今どうなっている?ナツミは?莉音は?
加賀美は?
こうしちゃいられない。
詩音は立ち上がった。番犬の仕事はまだ終わっていない。
続く
「あ、あれって……詩音くんじゃないですか……?」
「……」
「り、莉音、くん……?」
「……。強盗かも」
「え!?」
「だって詩音なら鍵差し込んでガチャって自分で開けるでしょ。そうしないんだからあれは詩音じゃない。詩音から連絡もない。
あいつ窓でもぶち破って入ってくるかも。ここは危険だ。今のうちに逃げよう」
そう言ってナツミを立ち上がらせた。
「リビングの窓開けて外出よう……シッ静かに着いてきて。大丈夫だよ、俺がついてるからね」
抜け目なくナツミの肩を抱いた。
「外出て、木だの物置だのの物陰に隠れて移動しよう。ここ木が鬱蒼としてるしね。大丈夫見えないよ。ちょこっと抜ければファミレスがある。そこでまずは詩音と合流しよう」
「は、はい……!」
「俺にしがみついてれば良いよ。そうすれば怖くないから」
ナツミは莉音を一層頼もしく感じ、頷いた。この人は自分に安心をくれるかもしれないと感じ始めていた。
懐かれている雰囲気に気をよくした莉音。
「悪いやつから、俺が君を守ってみせるよ」
にこりと笑ってリビングの窓を開けた。
だけど物音の本当の正体について、このとき莉音は確信していた。
詩音だったら普通に鍵を開け、そして莉音がわざと締めた扉のチェーンでガガッと音が鳴るはずなのだ。
それにこんな田舎に強盗もくそもない。
あれは加賀美だ。
ならば試してやろう。どこまで追って来れるか。
お前に取り返せるか?ナツミを。
根が挑発屋なのは双子共通だった。
それに上手く騙してしまえば自分はナツミのヒーローだ。他の男らを出し抜くどころじゃない加点。
そんな算段があった。
『莉音vs加賀美』
「こっち来て……」
小声で囁く。莉音はナツミを家の反対側からそっと連れ出した。運よく月が隠れて外は真っ暗だった。
「り、莉音くん……」
強盗だと嘘を言われて心底ビビり震えているナツミ。ギュッと莉音にしがみついた。
安心してと言わんばかりにナツミを抱きしめた。ナツミは拒絶しなかった。
その時玄関扉の方から男の大声が聞こえた。
『おい!良い加減開けろよ!』
「!」
驚きナツミが振り返る。
さっとナツミの耳を塞いだ莉音。加賀美と気づいただろうか?こっち来いと言わんばかりに視線で促し、そっと、そうっと慎重にナツミを連れ動き出す……。
一気に移動したかったが、男がこっち側に来る靴音の気配があり、まずいと思った。
取り急ぎ物置の裏に回り込んで腰を屈めた。
ドク、ドクンと心臓が鳴る。
ナツミに自分で耳塞いでおけと塞がせる。
チラ……と物置の窓から様子を見る。
物置の反対側を今まさに歩いているのは、闇夜でも分かる憔悴した高身長の男。やはり加賀美だった。
頬に殴られたような跡が見受けられた。それは一瞬だったが。
加賀美はこの辺の様子を伺っている様だ……。
「どこだよ、クソ!」
ドカン!と物置が大きく揺れた。
ビクン!!と飛び跳ねたナツミを、莉音は抱きしめたが、正直莉音は揺れを楽しんでいた。
そうだ、そう興奮してくれなきゃ!盛り上がらないだろ!?
そんな舌なめずりするような気持ちで。
加賀美は悪態をついては時折喚いた。
莉音はいっそこのまま飛び出してやりたいような気持ちを必死に抑え、加賀美がどうするのかめちゃくちゃワクワクしていた。
「!……ここ……」
やがてリビングの窓が開いていることに気づいた加賀美。迷わず家の中に入って行く物音が聞こえた。
「今だ。行こう」
ナツミを立ち上がらせた。
莉音は心の中でベロを出す。
加賀美くん、良い線行ってたけど大分残念だね。空振りお疲れ様でした。
まあ、ナツミちゃんの私物が置いてあるバッグとか見つけて動転してよ。ナツミは俺が抱いておくから。
含み笑いを抑えつけ、莉音はナツミを連れて今度こそその場から消えた。
「……はあ、は、もう走れない……」
足がもつれるようにして転んだナツミ。
「頑張ってよナツミくん。ファミレスもうちょっとだよ。ね、道も明るくなってきたしさ」
「うう……」
ナツミの手を握った。
「……まあ、もうここまで来ればとりあえず大丈夫だと思うけどね。よく頑張ったねナツミちゃん」
「!……莉音くん……おかげで助かりました……」
ぎゅうと抱きついてきたナツミ。にっこりした莉音。ナツミのヒーローになる足掛かりは十分だ。
「君を守れて良かった。大事な存在だからね。さっきも言ったろう?」
「!……嬉しいです……」
このタイミングでこの台詞。さぞかし沁みるだろうと計算を弾く。
ナツミの手が莉音の背中のシャツをぎゅ、と握った。
「……怖かった…。でも、なんか僕、その、上手く言えないんですけど」
「うん……言って?」
息を吸ってなんとかナツミは言った。
「あの時、一瞬加賀美さんの声が聞こえた気がしたんです。
ナツミって僕を呼ぶ声が。聞いたことのない必死な声な気がして……僕を愛していた訳もない加賀美さんが。僕をそんな声で呼ぶ訳ないのに……僕は混乱しているんでしょうか」
「……」
人の気持ちは昨日の今日のでいきなり変わらない。振ったとはいえ、ナツミの心の一部はまだ加賀美を求めたままなのだろう。それを切り離していくのが俺の仕事だと莉音は思った。
「やだなあ俺らが君を攫ったみたいじゃん。俺は男の姿をハッキリ見たけど全然、加賀美サンじゃなかったよ。空耳だよ。
可哀想に、きっと恐怖で混乱してしまったんだね。今晩は一緒に寝ようね……」
確かに莉音は嘘をついた。でも嘘は本当にすれば良い。ナツミがこの件をきっかけに自分を頼り、その信頼に応えれば自分は本当にナツミのヒーローになれる。
嘘は本当にしてしまえば、なかったことになる。
莉音はそう考えていた。
◼️◼️◼️
一方詩音。
「……う、いってえ……」
ふと目を覚ます。
気絶していたらしい。信じられないこの俺が。
そう思って口の中の血溜まりをぶっと吐いた。
口の中がめちゃくちゃ痛え。切ったか。
まあそれはどうでも良い。
気づけば詩音は、駐車スペースのコンクリートにそっと背をもたれるようにして座り込んでいたのだ。
俺を気絶させてご丁寧に座らせたやつは誰だ?
加賀美しかいない。
喉に血溜まりでも詰まらせたら危ないからねってか?くそ!
下手な親切心はかえって馬鹿にされている気がする。詩音にとって初めての完全敗北だった。
思い出す加賀美との喧嘩。澄ました顔してめちゃくちゃ強い拳のあの男。
「畜生!!」
ブチギレ声が駐車場に響いた。
腕時計を確認する。40分程時間が経っている。
今どうなっている?ナツミは?莉音は?
加賀美は?
こうしちゃいられない。
詩音は立ち上がった。番犬の仕事はまだ終わっていない。
続く
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