のろまの矜持 恋人に蔑ろにされすぎて逃げた男の子のお話

月夜の晩に

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【のろまの矜持#12】ナツミを追って

「……っふざけんなや!」
振り下ろされたものをすんでのところで頭上で止め、本気で横殴りのパンチをした。
負ける訳にいかなかった。
吹っ飛んだそれは、小さい木のイスだったと殴った感触で知った。園芸用かなんか知らんが。そんなんどうでも良い。
目の前に迫る大柄な男に遠慮なく蹴りを入れた。確かに相手の骨に響く感触はあったが相手も相当喧嘩慣れしていた。
怯まず加賀美の胸ぐらを掴んできて腹に一撃入れた。
「……ッ!」
まただ。内臓がせり上がる苦しさに悶え、声にならない嗚咽が漏れた。一瞬意識が遠のきかけた頭を振って正気を取り戻す。
猶予はない。一歩踏み込んで正面からの渾身の右ストレート!それをバシい!と掴んでこられて、加賀美とソイツは至近距離で睨み合う。握りしめられた拳が痛くて仕方がない。
「殺す気かワレ!!!」
加賀美はキレすぎて声が割れた。
「これくらいやらなきゃ面白くないだろ。それに人ん家に勝手に上がり込んでるワビ入れなきゃ、そうだろ?」
ふう、ふと荒い息で面白そうに片頬を歪めて笑ったその男。
さっきコンクリートに沈めたはずの詩音だった。
「嫌な笑い方すんじゃねえよ!」
「あんたの真似だ」
「うるせえ!」
加賀美は吠えた。コイツとは相性が1ミリも合わない。握られた拳がゾワゾワする。
「離せよ!その嫌みったらしい顔、ぶん殴ってやるから!」
「離すってこのこと?」
詩音が加賀美の拳を握る力をますます込めてきて、加賀美は呻いた。
「……ぅ、が……!」
とんでもない握力だ。ミシミシと骨が鳴る気がする。コイツどうなってんだよ!
「このままバキバキにしてやろうか」
「てんめえ調子に乗るなよ……!」
挑発されると血が沸騰してどうしようもなかった。頭突きお見舞いしてやろうと相手の胸ぐらを掴もうとした時。
「ナツミは兄貴が攫ったよ」
「!!」
耳打ちされて油断した。加賀美の視界は反転した。足を取られて床に転ばされたのだ。頭をしたたかに打った。
ぐわんぐわん視界が揺れて立ち上がれない!
加賀美を見下ろす詩音は容赦なく加賀美の胸をドン!と踏んだ。
ぐぇ、と蛙みたいな呻き声が出る。圧迫感で息が出来ない。
「今度は俺の勝ちだね」
「!」
冷たい瞳の詩音が加賀美を見下ろしている。嫌味に長めの髪がパラ、と一房落ちた。
「床に沈んだ者が負けだ……そうだろ?」
満足そうににっこり笑われて殺してやりたくなった。
畜生、畜生。畜生!負け知らずのこの俺が。
「ナツミなんてワード出すからやこの卑怯者!」
「本当のこと教えてやっただけだろ。なあ、お前どうして今更ナツミが欲しいわけ?いらないんだろう?」
「お前に関係ないだろ……うぐ……!」
さらに重しをかけるように踏み込んでこられて加賀美は喘いだ。
このままだと肋骨折れるんちゃうか……。
「言えよ」
それはゾッとするような声で、コイツの本性はこれなんだと加賀美は理解した。
「お前らに関係あれへん……俺にナツミが必要なだけや」
立ちあがろうとした。
「だから何で」
だけど詩音は今度は容赦なく首元グッと踏んできて、コイツ正気かと加賀美は思った。うそやろ…。
ゲッホゲホと加賀美は咳き込んだ。両手で掴んでも詩音の脚をどかせない。マジで何なんだよコイツ!
「死にたくないなら言えよ」
加賀美はどうにもたまらず頷いた。やっと力を緩めた詩音。
「!げえっほげほ!」
酸素にありついて加賀美は咳き込んだ。喉の奥から血の味がする。
恨めしげに詩音を睨みつけて加賀美は言った。
「……ああいうやつは滅多にいない」
詩音は片眉を上げた。その先を促されている。
「あいつはドジでノロマでその分かわいいやつなんだよ。ナツミだけが俺に幸福感をくれる。
俺は……俺は……あいつが側にいないと俺は生きてる気がしないんだよ!」
 
自分でも思った以上に声を張り上げていた。
何か言われるかもしれないと思ったが、詩音は何も言わなかった。
すっと目を細めてにやと一瞬笑って、それだけだった。加賀美は却って居心地が悪くなる。
「チッ……だから……この脚、どけ……ろ!んでナツミの場所吐けや!」
「それはお前の出方次第だ」
詩音のやつは首を捻りながらぺろ、と自身の唇を舐めた。目が全く笑っていない。
その様を見て加賀美の頭の中で真っ赤なアラートが鳴った。詩音、こいつほんまに猛獣みたいなやつや。
いやそもそもコイツらは双子だ。
コイツの兄貴だか弟だか知らんが、もう1人の金髪混じりのすかした男もどうせ一皮剥いたら同じ様なもんだろう。
加賀美の直感がそうだと言っている。
ナツミ……俺の手の届かないところへ行くな。
◼️◼️◼️
※ナツミ視点です。
「ふう……詩音くん遅いですね」
「う~ん、何してんのかなあアイツ……」
僕は莉音くんと一緒に入ったファミレスで、とりあえず冷たい飲み物を飲んでいた。喉がカラカラだった。今の時間帯ひと気はほとんどない。
気づけばかなり汗をかいていた。
したたり落ちる汗を莉音くんがハンカチで拭いてくれた。
「僕、すごい心配になってきたんですけど」
「今向かってる~ってLINEは来てるから大丈夫だよ。我が家の用心棒だし。アイツはっ倒すってなかなかないからね」
ニコと笑う莉音くん。人のよさそうな笑顔にホッとしていた。
「なんかせっかくウチに住むって話だったのにドタバタしちゃってごめんね。ナツミちゃんの歓迎会をしたかったのに」
残念そうに言われてちょっとじんとした。そんな……良いのに……。
大事に扱われる感覚なんか慣れてないから、逐一感激してしまう。
僕はここにいても良いの?
自分を大切にできる場所に、そこに居場所があるならばそんなに嬉しいことはなくて……。
「でさ、ナツミちゃん」
「!」
テーブルの上に置いた僕の手に、莉音くんの手が包む様に重なった。
ドキッとした。
僕より大きな手だ。
かつて僕の手を荒く力強く握ったひとの、少し浅黒い肌と違う。
水仕事で少し荒れた指先、白い肌。優しく僕を包む感じは、ぶっきらぼうさを感じさせなかった。
一瞬ぼうっとしていた。
「……ナツミちゃん」
「えっは、はい……!」
莉音くんは声を潜めるようにして、顔をそっと近づけてきた。あまりに美しく整った顔には改めて驚かされる。
「提案なんだけどさ。
ここだけの話、もっとちゃんとふたりっきりになれるところ行ってみない?」
 
 
 
続く

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