くてくて~ロクデナシと賭博の女神~

日向 葵

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7つのくてくてと放浪の賢者

奴らの居場所を突き止めろ_1

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 アティーラとセーラの二人と合流したヴィスは、荒れた状態で隠れ家に戻ってきた。

「くそ、くそくそくそっ! 俺のくてくて盗みやがって。しかもこれ以上情報がないって、振出しに戻っただけじゃねぇか、くそやろう」

「人のもの盗むなんて……とんだ悪党です。成敗してやらないと……」

 ヴィスはとにかく荒れていた。ヴィスのイライラが高まるほど、それに比例してセーラの怒りが高まっていく。怒りに満ちた感情がその場の雰囲気を支配していた。
 正直、くてくてが盗まれたことで一緒になって怒りたいアティーラであったのだが、場の雰囲気に飲み込まれて縮こまっていた。

「あ、あの、そろそろね。くてくてをどうやって取り返すのか考えようよ」

「「あ?」」

「ひぇ、ごめんなさい、なんでもないです」

「借金は口を開けるな」

「足引っ張るしか能のない奴は息するな」

「それって私に死ねってこと? ねえ、死ねってことなのね」

「「あ?」」

「ひぇ。ごめんなさい、なんでもないです……」

 同じやり取りを繰り返し、さらに怒りのボルテージを上げていく。アティーラはこの場にいるのがつらくなって、逃げ出そうとしたが、そうするたびに、ヴィスとセーラからドスの効いた声をかけられた。アティーラに逃げ道はない。

「にしてもどうしたものか。手がかりが無くなってしまった以上、対応のしようがない。あてもなく探しても時間が無駄だしな」

「今わかっていることを整理しましょう。そうすれば何か手がかりが見つかるかもしれません」

「ねえ、私にやることはないの? お金ないのよ。仕事頂戴」

「「あ?」」

「ひぇ、ごめんなさい」

 一文無しで次の返済が結構ピンチなアティーラであったが、今の状況でどうすることもできないので、何も考えないことにしたようだ。窓から外を眺めている。

「まずはセーラの言う通りにしてみよう。って言っても、あいつらが放浪の叡智という怪しげな集団で、No2がメ・イドというふざけた名前の奴だってことぐらいしかわかっていないじゃないか。あとは…………」

「私は現場に到着するのが遅れたのでわからないのですが、メ・イドってやつはどうやって逃げたんですか。あの感じだと師匠からモノを盗んで逃げられるようには思えないんですけど」

 ヴィスは死んだ魚の目で青い空を眺めるアティーラにモノを投げつけて考える。別に痛いものが飛んできているわけではないので、アティーラも気にしないことにしているみたいだ。反応がない。それが面白くなかったヴィスは、モノを投げるのをやめて真面目に考えだす。

「そういえば、最後の方にじじいが現れたんだよな。そしてメ・イドが、そのじじいのことを賢者様って言っていた気がする」

「賢者、ですか。どこかで何か聞いたことあるような気がします」

「本当か、セーラ!」

「し、師匠……急に腕を掴まれると恥ずかしくて照れちゃいます。それに、どこで聞いたかは覚えていませんが、昔、各地を放浪して魔法で地域貢献する人物がいて、救われた人々がその方を賢者と呼んでいたって噂を聞いたことあります。活動範囲が私の国じゃなかったので噂程度しか知りませんが」

「うーん、俺は全く知らないな。もしかしたらその賢者様が活動してた時、俺がまだ生まれていなかったか、もしくは別の大陸にいたかもしれん」

「さすが師匠です。世界を旅して鍛え上げたんですね」

 目を輝かせてセーラは喜ぶが、ヴィスはさらに頭を抱えることとなる。
 放浪する賢者の話など、今まで一度も聞いたことがなかった。もし聞いていたとしたらすぐに気づくはずだ。思い当たることが一つもない。更に手詰まり感が増したところで、死んだ魚の目をしたアティーラがぼそりと呟く。

「賢者なら、魔法使いの人たちに聞けばいいのに……」

 その言葉を聞いて、ヴィスとセーラがハッとした表情を浮かべる。そして二人で顔を合わせた。

「「そうだ、魔導ギルドに行こう!」」

 魔導ギルドとは、女神様からもらった恩恵について調査研究し、社会的に使用するためのルールを制作している公的機関だった。
 ギルドと言っているのは、特に理由はなく、その方がかっこよかったからと、当時魔導ギルドを作った人達が言っていたそうだ。

 魔法的技術は女神の恩恵だ。その恩恵を独占することなど許されないことだが、魔法という人の理から外れた技術を取り扱っていくためには、専門知識を持つ人たちが魔法について深く深く調査をし、一般的に使用するためのルールを設定する必要が出てくる。これを作っているって、もう組合でも何でもない。
 ギルドという言葉がカッコいいからと言っているのはあながち間違いでもないらしい。

 そんな、名前だけの魔導ギルドであるが、その道に詳しい専門家はたくさんいる。その賢者様について知っている人もいるだろうとヴィスたちが思うのも仕方のないことだった。

「よし、今から魔導ギルドに行くぞ。もしかしたら何かわかるかもしれないしな」

「貴重な手がかりです。早速行きましょう」

 セーラとヴィスが動く気でいるのに、アティーラはいまだにぼーっとしていた。心を無心にして、トラブルに巻き込まれないよう、彼女も必死なのだ。
 そんな彼女の必死な行動もヴィスとセーラが許しはしない。

「セーラ、板と縄を持ってこい。アティーラを括りつけて連れてくぞ」

「分かりました師匠!」

「え、ちょ、何? え、え、え! ちょっと待って、括りつけないでよー」

 暴れるアティーラを余裕で押さえつけたセーラは、楽しそうにアティーラを括りつけていく。もう完全に慣れた手つきだった。
 抵抗できないことを悟ったアティーラは乾いた笑みを浮かべながら板に括りつけられていく。

「いやセーラ、ちょっとまて」

「どうしたんですか、師匠」

 ヴィスが突然待ったをかけた。そして、板に括りつけられているアティーラを開放してあげる。アティーラは、なんで自分が板から外されているのか分からず、困惑していた。

「え、どうして、なんで急にそんな扱い?」

「だってお前、美人できれいだろう?」

 急に口説きに来るヴィス。きっと本人はそんなことみじんも思っていないだろうが、言われた側であるアティーラは、顔を真っ赤にしてドキドキしていた。この女神、酒とギャンブルにドはまりしているクズっぽく見えるが、意外と初心らしい。
 だけどヴィスは全然それっぽい雰囲気を出してはいなかった。むしろゲスな男のオーラが漂っている。顎に手をやって悪い笑みを浮かべているあたりがろくでもないことを考えているのだろうと思わせる。
 そして案の定、ろくでもないことを言った。

「魔導ギルドにいる連中は研究ばっかで女に免疫がねぇ連中ばかりだ。前に小さな女の子が魔導ギルドの前をちょっと通っただけで前かがみになっているところを見たことがある」

「あの師匠? そいつら本当に大丈夫なんですか? どうしても危ない何かにしか見えないんですがっ! ですがっ!」

「大事なことだから二回言ったのか。お前もわかるようになってきたじゃないか」

「へへ、これもすべて師匠のおかげです!」

 この二人はいったい何の修行をしているのだろうか。近くにいるアティーラですら首を傾げているので誰にもわかるなんてことはないだろう。でもアティーラはそれ以外のことも何か感じ取っているようで、体を腕で覆い身震いしている。

「んで、ヴィスは私に何をさせようっていうのよ」

「そんなの決まっているだろうっ! お色気だ! その無駄に整った肉体とまあ美人だろうと思えるその顔使って必要な情報を取りに行くぞ!」

「いやよ……と言いたいけど、今はそんな状況じゃないのね。くてくてないと私の借金返せない…………」

 どれだけ借金をしたらこんなみじめになるのだろうか。借金をする理由も色々あるだろうが、アティーラの場合はギャンブルだ。ダメ人間の筆頭ともいえる借金の理由だろう。ぶっちゃけパチンコするために借金に借金を重ねる奴と同じだ。

「という訳で、魔導ギルドを襲撃、もといい突撃するぞっ!」

「はい師匠っ!」

「いや待って、それでいいの皇女様!?」

 おろおろするだけのアティーラを置いて、ヴィスとセーラは暴走していくのだった。
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