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第二話~初仕事はあの子だった件~

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 転生神の補佐兼旦那に任命された俺は今、スパゲッティーを茹でていた。

 市販で売られているスパゲッティーは便利なもので、時間通りに茹でるだけでしっかりとアルデンテになっている。

 茹で上がったスパゲッティーを水切りして、ベーコンを白ワインで炒めたフライパンに投入。軽く熱した後、火を消して、卵、卵黄、生クリーム、粉チーズを混ぜて作ったソースを絡め、再び火をつけて1分ほど炒めた。出来上がったものをお皿に移し、ブラックペッパーを少々、ついでに温玉をのせて、完成だ。

 漂ってくる香りが食欲をそそる。我ながらいい感じにできたと思う。
 ついでに作ったスープと一緒にお盆にのっけて、俺はサクレの元に行った。

「ほれ、飯作ったぞ」

「ふわぁ、おいしそうっ。ありがとね、ダーリン」

 そこでふと思った。
 俺、一体何をしているんだろう。

「ねへ、たーふぃん。ほうはふぁふふぃふぉどにふぁふとおふぉふふぉ」

「食うか喋るか、どっちかにしろよ」

 俺がそう言うと、10秒ほど俺のことを見つめた後、カルボナーラを食べ始めた。
 全く、なんなんだよ、この駄女神は。
 気が付けば、溜息をついていた。
 そんな俺の服を引っ張る何者かがいた。ここ、あの世だから俺と駄女神しかいない気がするんだが……。
 ゆっくりと、引っ張られている服に視線を向けると……。

「大変そうだね、お兄ちゃん」

 くまさんパンツの女の子が立っていた。
 え、この子死んだの。まさか、俺が助けるのを失敗したから……。
 なんだか罪悪感が湧いて来た。
 そんな俺に対して、サクレは言った。

「ねえ、ダーリン。今日は初仕事になると思うよ。頑張ってね」

「もうちょっと早く言えよっ!」

 ふざけんなと思いました。
 俺は目線を少女と同じ位置に合わせた。

「ねえ君、お名前は」

「えっと……あれ、私の名前、なんだっけ?
 くまさん? パンツ」

「いや、それだけはない。おい、これってどういうことだよ」

 記憶に支障がでてるって、何かトラブルでも起きているんじゃないだろうか。そう思って問いかけたのに、あの駄女神は60インチの大型テレビとこたつ、ミカンまで用意していた。

「さぁ、座って座って。記憶が変になるのはよくあることだから。とりあえず定番の回想シーンに入りましょう」

「なんか適当過ぎねぇか、おい!」

「あはははははは」

「お前、笑ってんじゃねぇよ、これがお前の仕事だろうっ!」

 そんなやり取りをしていると、少女はクスクスと笑った。そして、「早く座りましょう」といって、こたつに入った。
 あれ、今のって俺が悪いの、ねぇ!

「さぁ、回想シーンを流すわよ。見てなさい」

 サクレはどこからともなくリモコンを取り出した。
 ボタンを押すと、60インチの大型テレビの電源が入り、ムービーが始まる。


 最初に映されたのは、少女がいじめられているシーンだった。

「あなた、人を殺したのになんで平然と生きていられるのよ、この犯罪者っ!」

「ほら、ちゃんと遺書を用意しておいてやったんだから、死ねば?」

「あ、あう、うう」

 学校にある個人用の椅子に立たされて、首つり用のロープを握りしめた少女の姿。
 おいおいおいおい、なんてヘビィーなことになっているの! これってどういうことっ!
 というか、なんで少女が人を殺したことに…………俺か。

 少女が本当に首を吊りそうになったところで、先生が止めた。しかも、周りの生徒たちは、おとがめなしで少女が怒られている、なんて理不尽な。

「あれは楽しかったですね」

「ほんと、楽しそうだね」

「「あははははははは」」

「いや、その発言おかしくねぇ、絶対におかしいよねっ」

 よく見ると、ムービーに映っている少女も満更でもない様子。え、ナニコレ、いじめられて喜んでいる?
 俺の常識が崩れ去っていく気がする。

 ムービーに映っている少女はうっすらと笑っていた。とてもうれしそうだ。
 本当に、何か間違っているよこれ。

 先生のお説教から解放された少女はそのまま帰宅、自宅のマンションまでたどり着く。そこで見つけてしまったのだ。自宅のマンション近くにある駐輪場、その屋根の上に輝く10円を。

「あ、あれがあれば うまか棒を買えるっ!」

 手をわなわな震わす少女。キリッと、何か決意を固めたような表情をする。
 そして、駐輪場の屋根の上に登り始めた。
 少女はおどおどしながら、10円の元に進んでいき、そっと、10円を拾った。

「やった、やったよ、お母さん」

 君は本当にそれでいいのか。10円だぞ、どんだけ貧しいんだよ。
 そんなツッコミを心の中で入れていると、ムービーに出ている、駐輪場の屋根の上にいた少女が体勢を崩した。
 そしてそのまま……。
 回想ムービーはここで終わっている。

「ごめんなさいお兄ちゃん。私、へまして死んじゃったんです。せっかく助けてもらったのに……」

「いや、えっと、なんていうか……」

 今の回想を見てしまうと、コメントに困ってしまうのだが。

「でも、お兄ちゃんとあえてうれしいーーーー」

「あ、え、ええええええええええええええええええええ」

 少女は突然、神々しい光に包まれて、天に召された。いや、ここが天だから、転生したってことか?

「へへ、あまりにも長いからやっちゃった」

「やっちゃったじゃねぇよ。これから、転生神としていろいろと仕事をやらなきゃいけないんじゃねぇのかよ!」

「あーー引っ張らないで、痛い、痛いから。わーーん、ごめんなさい」

 あの少女、ちゃんと幸せになれるといいんだけど。

「なんか虐められるの好きそうだから、かなり過酷な世界に転生させてあげたんだ。喜んでくれるかな?」

「ざけんなっ!」

 この後、いろんな神様に頭を下げに行って、何とかあの少女を幸せな普通の世界に導くことが出来た。
 この駄女神、早く何とかしないと、俺が苦労しそうな予感がする。
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