召還師と教師の不祥の弟子たち

落花生

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魔法使いを拾ったので警察に届けようとしたら、呼んでもないのにパトカーがきた

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 友人の話によると――俺は昨日、友人主催の飲み会に参加した。学校関係者ではない気楽な友人同士の付き合いに、俺は飲み過ぎたらしい。しこたま飲んだくせになじみの酒屋で一升瓶を購入し、そのまま友人たちと別れた。別れ際に俺は「大丈夫、近道して帰るから大丈夫」といった俺は、友人に止められるのも無視して山道にわけ入っていったらしい。
 友人たちも普通の状態だったら、殴っても止めてくれただろうが全員が泥酔状態であり最後には「ばいばい」と笑って俺を見送ったと言う。一歩間違ったら遭難事故になっているところであったが、幸いなことに俺は山の奥深くにはいかなかった。
 目が覚めた瞬間に見覚えがある森だと思ったのは――ここが実際に見覚えがある祖父の裏山であったからである。
 俺は頭痛と節々が痛む体を引きずって、サモナーと共に下山した。もっとも下山というほど大した距離ではなく、十五分も斜面を下ると道路が見えた。そこから見えた風景は、異世界と呼ぶのが恥ずかしいぐらいにいつもどおりの風景だった。
 どこまでも続く、田んぼと畑。
 ときより走るのは、農家のトラック。
 辛うじてチェーン店のスーパーはあるが超大手のスーパーからは見放されて、地元資本のスーパーが住民たちの救いの神みたいな顔をしてどっしりと店を構えていた。
 間違いなく、俺が子供時代を過ごし――現在も住んでいる町である。
「そっ、そうだよな。いい歳した大人が、異世界に飛ばされましたなんて夢をもっちゃいけなかったんだよな。あは、はははは」
 俺は、とりあえず笑ってごまかした。
 四方を山で囲まれたわが町は、都会出身者から見れば村に見えるのかもしれない。だが、まだ辛うじて小学校、中学校、高校は要していたし、若者もそれなりにはいた。仕事を求めて毎年多くが都会へと旅立つが、それは致し方あるまい。俺自身も小学校から大学までは、親の都合で都会で過ごしていたし。
「あの……すごく発展している都市ですね。うわ、何でしょうか?あの巨大な生物は……」
 俺の後ろでサモナーが怯えるものの正体は、おんぼろの軽トラックである。
 運転手は三軒隣の佐沼さんで、彼は煙草をふかしながら道路を走って行った。
「都市って……こんなのド田舎をそんな厭味ったらしく褒め――」
 俺は少しばかり考える。
 サモナーが俺に見せた魔法(本人は魔術と言っていたが)は、おそらくは本物だろう。つまり、俺ではなくサモナーのほうが現代にトリップしてしまっていたのだ。
「げっ」
 俺はこれから、サモナーの現代での過ごし方とかを教えないといけないのだろうか。それは、すごく面倒くさそうだ。第一、身分証も戸籍もない人間を現代社会でどうやって暮させればいいのだろうか。
「警察に届けよう」
 俺の決心は、素早かった。
 結局、ここは現代だったのである。ならば、使えるものは出来る限り使わなければもったいない。こういう時にサービスを受けられるのが、現代社会に生まれた者の特権である。
「サモナー。これから、警察に行ってお前を保護してもらう」
「警察ですか?」
 サモナーは、首をかしげていた。
 魔法が出てくるRPGと言えば大抵のものが中世ヨーロッパ風だと思うのだが、そこには警察組織というものはないであろう。城の衛兵ともまた違うし、もちろん傭兵でもない。さらに、サモナーが来た世界が中世のヨーロッパに似ていなかったら俺の気遣いはすべて無駄になる。
「困っている人を助ける役人だ」
 いろいろ考えた結果、シンプルに伝えることにした。
 その言葉で、サモナーには伝わったようだ。
「お役人様がいらっしゃるのですね。やはり……ここは都なんですね」
 そうやら、サモナーがきた世界では役人というのは地方にはいなかったらしい。じゃあどうやって治めていたのかという疑問はあったが、こういう時にいために地方貴族というのはいたのかなとも考える。どちらにせよ、別にここに判明させなくてもいいことだ。
「言い難いんだが、ここは本当にド田舎だ」
 俺は、サモナーのその間違いだけは正さなければならなかった。現代人として、東京から遠く離れたわが故郷を都だと信じさせるわけにはいかなかったのである。
「それにしても……」
 異世界からやってきたわりには、サモナーは落ち着いている。普通の人間が異世界に飛ばされたら、もっと色々な反応をするものではないだろうか。俺みたいに喜ぶのは少数派だと思うが、少なくとも「これが現実か」どうかぐらいは確かめるような気がする。
 それに彼の話を信じるならば、彼は騎士に襲われているはずだ。信じられないことに俺が追っ払ったというが、普通ならばその場から離れたりするものだろう。なのに、サモナーは俺の近くにいた。
 善良とか優しいとかだけじゃ、説明がつかない。
「カズキ様!」
 大声でサモナーが俺を呼んだので、俺は驚いてしまった。
 なにせ、人生で一度だって下の名前に様をつけて呼んでもらったことなどない。ちなみに、名字に様付はよくある。現代人のあるあるだと思うのだが。
「様をつけるな、様を。どうしたんだ?」
「あちらから、奇妙な生物がこちらに向かってきます」
 俺たち以外の人がいない道をちんたらと走ってきたのは、パトカーであった。もっともサイレンは鳴らしておらず、急いでいるふうでもない。挙句の果てに、運転している人間は窓を開けて挨拶をしてくる始末である。
「若先生、お久しぶり」
「……若先生もやめて」
 俺は、パトカーにのる駐在にため息をついた。
 警察官の多田さんは、俺が子供のころから町の駐在として働いている。そのため顔見知りなのだが、俺が教師になったことや祖父が議員だったことを引っ張り出して「若先生」などと呼ぶので困っている。
「ちょうど、若先生の家に行こうと思ってたところだったんだよ。入れ違いにならなくて良かったけど……そんな恰好でなにをやってたんだ?」
 森で一晩過ごした俺の恰好は薄汚れているし、サモナーに至っては薄汚れたコスプレにしか見えないだろう。駐在の多田さんが、俺を不審がるのも当然の姿である。
 下手なことは答えられないぞ、と俺は生唾を飲みこんだ。
 サモナーは見た目だけならば美少女で、こんなのと一晩森で過ごしたと知れたら不味いことになる。主に教師生命的な意味合いで。異世界に行けるのならば遠慮なく職業は捨てたいが、現実社会で生き抜くためには職業は大事にしたいところである。
「山菜を取りに行ったんです」
 サモナーが、余計な口を開く。
「そんな恰好で?」
 ぼろぼろのローブ姿のサモナーに、多田さんは怪しむ。俺だって、他人がそう言ったら怪しいと思うだろう。山歩きでサモナーのような裾が長い服を着ていたら、枝に引っ掛かって一歩も進めなくなってしまう。俺は、断腸の思いでサモナーの肩に手を置く。
「知り合いの弟です。都会に住んでて、汚れてもいい服で来いって言ったらこのとおりで……」
「ああ、都会の人ね。なら、山は慣れてないだろうから大変だったね」
 多田さんは、サモナーを山に慣れていない都会っ子だと信じてくれた。
 だが、俺の知り合いの弟だとも説明してしまったので――多田さんにサモナーを押し付けると言う計画は瓦解してしまった。……今度の日曜日に都会のお巡りさんを頼ることにしよう。
「ところで、俺に用事ってなんですか?回覧板を回し忘れて、苦情が来たとかですか?」
 田舎の人間が警察を頼ることはあまりない。
 農家は稀に作物が大量に盗まれたりするときに頼ると言うが、それだって稀であろう。猪や熊が出たときは役所に電話するし、登山道が崩れていても役所に電話する。そのほかの困りごとは、大抵は自分たちで解決することが多い。
「いいや、若先生のところの生徒が交番に飛び込んできてね。騎士に襲われたってわけが分からないことを言うもんだから、若先生なら分かるかと思って」
 後ろに乗っているよ、と多田さんは言った。
 黒い学ランは、確かに俺が教師として働いている学校の制服であった。
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