召還師と教師の不祥の弟子たち

落花生

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教え子とは一族のあれやこれがあるのだが、本人たちは気にしてない

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 サシャがサモナーの弟子になることによって、俺と元教え子のミチル君が戦う不安は消えた。サシャの魔力問題も、サモナーの魔術によって改善されるだろう。
 そして、今一番の問題はミチル君の宿泊場所である。俺の家に部屋はありあまっているが、元教え子を自分のところに泊められるわけがない。女の子だし。
「サモナー、怪我は大丈夫か?」
「軽傷だったので……いただいた薬も飲みましたし」
 手当を自分でしたサモナーには、痛み止めと抗生物質を飲ませている。化学薬品なんてなかったころの人間に現代の薬を飲ませて大丈夫だろうか、という心配はあったが飲んで一時間経過してもサモナーはけろりとしていた。少なくとも、いきなりショック死ということはしなさそうである。
「なら、ミチル君をもう一度親戚のところまで送り届けてくれ。男と一緒なら、いくらあの人でもミチル君を家に入れてくれるだろうし。俺は家で留守番してる」
 俺の言葉に、サモナーはダメだと言った。
「カズキ様が、襲われる可能性が高まります。私とは離れないでください」
「いや。あの家の近くを通って、俺の姿を見られた方がよっぽど話がこじれる。だから、頼む!」
 だが、サモナーは頑として折れなかった。
 こいつ、変なところで強情だ。
 仕方がないので、俺は樋上さんの家の近くにいくが隠れているという折衷案を飲むことになった。
「その様子だと、おばさんの様子は相変わらずみたいね」
 ミチル君の言葉通りだ。
「あの人は……たぶん、変わらないよ」
 俺は、ため息交じりにそう言った。
 サモナーは、俺とミチル君が話す「おばさん」の正体を少し気にかけていた。だが、俺もミチル君も話す気はなかった。樋上さんというのが、ミチル君のおばさんの正体だ。
 そして、俺の同級生の母親だった人である。
 アズサちゃんというのが、その同級生の名前である。占いとかおまじないとかが大好きな女の子で、溌剌とした印象の子だった。その子がタロットカードで俺の不幸を予想し、俺の父親がその日に死んだ。俺の父親は消防士だったから、死ぬというのもありうる職業だった。不幸は偶然だったのに、アズサちゃんは気に病んだ。
 そして――彼女は失踪してしまった。
 まだ、小学校三年生だった。
 そして、アズサちゃんの母親の樋上さんが「娘が失踪したのは、おまえのせいだ!」と我が家に乗り込んできたのである。
 多田さんに取り押さえられた樋上さんは病院を受診して、精神を病んでいると診断された。そもそも樋上さんは、アズサちゃんが失踪する前からかなり不安定な状態で旦那さんもそれが原因で出て行ったという噂だった。
アズサちゃんが学校に持ってきていたピンク色の雑誌の付録たちも、親が買ってきてくれたものではなくて親族の人が小まめに彼女たち親子の様子を見に来ていて――そのお土産だったようだ。
樋口一族は、かなり樋口さんに対して敏感になっているらしくて、樋口さんが我が家に突然やってきた事件後には樋上一族が何故かウチに総出で謝罪に来た。
 そんな互いに印象的過ぎる一族だから、ミチル君は俺が教育実習に来たときに親に確認をとった。それがきっかけで、俺たちは互いが互いに因縁の一族だと知ったのである。まぁ、だいぶ昔の話だったから……俺とミチル君の間に何かが生まれたわけでもないのだが。ちなみに、ミチル君は樋口さんにとっては姪っ子に当たるらしい。
「樋上のおばさーん。電話で話した、ミチルです」
 樋上家の敷地から俺は見えないように隠れた。
 ミチル君は、樋上さんの家のドアを叩く。
 樋上さんは引きこもりだ。もう何年も前から家にこもっていて、細々とした買い物や掃除はヘルパーさんに頼んでいるという噂であった。俺の祖父の家と比べても同じぐらいの立派な家に、今は引きこもりの女一人しか住んでいないというのも寂しい話である。同じように男一人で、あの家に住んでいる俺が言えた義理ではないかもしれないが。
「おばさーん、入れてください。本当に、今日泊まるところがなくて」
 ミチル君は、必死で家のインターホンを押していた。
 だが、樋上さんは出てこない。
「ミチル、ワタシが忍び込んでなかから開けようか?」
 サシャがそんな提案をするが、ミチル君は首を振った。
「そんなことは、しないで……」
 ミチル君は、俺の方に戻ってくる。
 予想はしていたとはいえ、親類にここまで無視されるのはもの悲しい。樋上さんは今も親族の援助を受けて暮らしているというから、せめてミチル君の顔ぐらい見てもいいのかもしれないが――精神の病気の彼女にそこまでの期待をするのは許されないのかもしれない。
 帰り道の途中、俺とミチル君の重々しい空気にサモナーは耐え切れなくなった。
「ここで、師弟の契約をしたいと思います」
 突然、そんなことを言った。
 サシャも予想外だったらしく、幼い目を見開いている。
「こういうのは、早い方がいいんです。今の体は魔力で作られていますし、ちょっといじれば刺青の一つぐらいは入れられそうです。サシャも異存はないですよね」
「……はい、師匠」
 サシャの一言に、サモナーは青い顔をした。
「しっ、師匠はやめてください。いい思い出がないんです」
「では、サモナーさん。あなたを師と認め、教えを乞います。あなたがワタシに求めることは?」
 サモナーは、焼印が押されている手の甲をかざした。
 サシャも入れ墨が入れられている手の甲をかざす。
「私を殺さないでください」
「……そんな求めでいいの?」
「はい、教えた者に裏切られるのはもうこりごりです」
 サシャが頷くと、お互いの入れ墨と焼印が淡く輝く。サシャもサモナーも顔をしかめているから、痛みがあるのだろう。しばらくすると、彼らの手の甲には模様が増えていた。サモナーは「やっぱりできた」と呟く。
「今のは、なに?」
 ミチル君の質問に答えたのは、サモナーだ。
「自分たちの体に、私たちは師弟であると刻んだのです。魔術的な効力はありませんが、私たちの世界では自分たちの出身国や身分などを入れ墨や焼印で示します。これは、一種のケジメみたいなものですね」
「それで、騎士の時も紋章を気にしてたんだな」
 サモナーは、俺の言葉に頷いた。
「はい。騎士ほどの名誉職ならば、見えるように外の鎧にも掘るのが普通ですから」
「騎士って、あなたたち以外にもゴーストがいたのね……なら、なおさら私と先生が離れるのはまずいよね」
 ミチル君がしてやったりと言う顔をしていた。
 元教え子を道中に放り出すわけにもいかず、俺はため息をついた。
「分かった。部屋の一つを貸すけど、このことは絶対に口外するなよ。あと、俺は明日は学校に行かなきゃいけないから、ずっと一緒というのは無理だからな」
 俺の言葉に、サモナーが驚愕していた。
 いや、なぜお前が驚く。
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