上 下
12 / 81

12

しおりを挟む
さて、お馬さんの時間だっ!
待ちに待った、お馬さん~。


「お嬢様、どの馬に乗りますか?」

我が家の兵士は、にこやかに言った。
うん、顔なじみだ。
名前は知らんけど・・・。

「さて、どうしようか?」

一通り見まわしても、皆、同じ顔に見える。
どの馬も大人しいので、どれでもいいのだけど。

ふと、視線を感じて、そちらの方を向くと。
離れの厩舎から、じっと私を見つめるコクオー(仮)がいた。

じーーーっ。

つぶらな瞳でこちらを見つめている。
まるで。

『僕に騎乗して女性騎士になってよ』
と訴えているようだ。

お前はこいつかっ!

 ^  ^
/人◕_◕人\

前はあれだけ威嚇してきたのに、どういう心境の変化だろうか?

私はコクオー(仮)に近づいて話しかけた。

「私に乗って欲しいの?」

人の言葉がわかるとは、思わないが。

コクリ

と頷いた。

え、えええーっ!

ど、どうしたものか・・・。

「お、お嬢様、その黒いのには近づかないように。」

兵士な人が、少し離れた場所で言ってきた。

「これに乗ってみようかと。」

「無理です。」

即答だった。

「だって、乗って欲しそうよ?」

「そもそも、馬具が付けれません。」

「・・・。」

なんてこったい。

「それはそうと、どうして、そんなに離れているの?」

「その馬は、アーマード家から預かっているのですが、人嫌いで、近寄れないんです。」

「どうして、そんな馬を預かったの?」

「離れの厩舎がまるまる空いていたので。」

「問題児って事ね。」

「はい、ですからお嬢様も、それ以上は近づかないでください。」

「わかったわ。」

さて、どうしたものか。

「残念ながら、馬具が付けられないなら、乗れないわ。」

私はコクオー(仮)を諭すように言った。

そうすると何故か、コクオー(仮)は、リリアーヌを見つめた。

見つめ合うコクオー(仮)とリリアーヌ。

まさかね。
目と目で通じ合う、なんて人間同士だけだものね。

「わかりました。」

えっ、まじかリリアーヌ。
あんた人間なの?

「私が、馬具を取り付けましょう。」

「えっ?馬具の取付方法を知ってるの?」

「多少の心得えはあります。」

なんて事だ。
あの、あのリリアーヌが、有能に見える。

気のせいだ、きっと気のせいに違いない。

「リリアーヌ、気を付けろ。そいつは俺達でも手に負えないからな。」

兵士な人がリリアーヌに注意した。


着々と馬具を取り付けるリリアーヌ。
その間、コクオー(仮)は、ずっと大人しくしていた。
その光景に、兵士たちと厩番が驚愕していた。

とても暴れ馬には見えないわね。
何を考えているのかしら?

「では、お嬢様はこちらへ。」

リリアーヌに言われて、コクオー(仮)の傍にたった。
10歳の私は、いくら2歳馬とはいえ、一人で馬に乗ることは出来ない。
リリアーヌに、抱えられ、コクオー(仮)に乗った。

おおーっ、視線が高いっ!

リリアーヌがゆっくりとコクオー(仮)を移動させる。
足場は、草が生えており、寝っ転がったら気持ち良さそうだ。

「お嬢様、ゆっくりです。ゆっくりと手綱をひいてください。足は、膝と膝で挟み込むように。」

少し離れた兵士な人が指示してくるので、それに従う。リリアーヌは、邪魔にならないように少し離れた。

刹那

「ヒヒーーーんっ!」
嘶きとともに前足を高々と上げた。

私は、あっさりと落馬した。

は、はああ??

「お嬢様っ!」

リリアーヌと兵士な人が直ぐに駆けつけてきた。

「ぶヒヒヒヒ。」

コクオー(仮)が、私を小馬鹿にしたように笑った。

こ、このクソ馬がっ!

私は怒りのあまり立ち上がった。

「リリアーヌっ!」

私をコクオー(仮)に乗せるように指示する。

「お嬢様、危険です。」

「このクソ馬に、目にもの見せてやるわっ!」

その後、何度も落馬した。
いつからか、乗馬がロデオになっていた・・・。

「はあ、はあ、はあ・・・。」

10歳の私の体力は直ぐに切れる。

「ぶふふうっ・・・ふうっ・・・。」

クソ馬の方も、ふるい落とすのは体力を使うようだ。

私は、クソ馬の鬣を鷲掴みにした。

「ふっ、今度は、落馬の時にあんたの鬣を毟りとってやるわ。」

「ぶヒヒんっ、ぶひんっ!」

どうやら、嫌がってるようだ。

「だったら大人しくしなさいっ!」

私は、鬣をおもむろに引っ張った。

「ぶひひん・・・。」

どうやら、大人しくなったようだ。
私は、全身の力が抜け、鬣に顔を埋めた。

「そのまま動かないように。少しでも動けば馬肉にします。」

リリアーヌの声が聞こえた。


その後、私は、リリアーヌにお姫様抱っこされた。
覚えているのは、そこまでだった。

しおりを挟む

処理中です...