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「若干、硬めですね。これを嫌がってるのかも。」

「そんなに硬いかしら?」

馬用なら、こんなもんじゃないかなと思ったのだが。

「山羊毛を使った柔らかな物もありますので、それを持ってきましょう。しかしブラシを嫌がるのなら、馬具も嫌がりませんか?」

「さあ?一度しか着けた事がないのだけど。」

「どなたが?」

「リリアーヌよ。」

「嫌がりませんでしたか?」

「私が着ける時は、大人しくしておりました。」

「そうですか。ブラシを嫌がるなら、ゼッケンも変えた方がいいかもしれませんね。」

ゼッケン?競馬で言う番号の事よね?

「ゼッケンって何?」

「ああ、ごめんなさい。ゼッケンというのは鞍の下に敷く物です。」

なんと・・・。番号の事かと思ってた。

「鞍はどうですか?お嬢様には大きすぎませんか?」

「確かに、安定はしなかったわ。」

まあ、振り落とされまくったのは鞍のせいではないが。

「では、馬具一式お持ちします。気に入っていただければご購入ください。」

中々、商魂たくましいね。


翌日、馬具屋の姉ちゃんが、当家を訪れた。
はええよっ!

クロヒメの厩舎の前には、私とリリアーヌ、そして馬具屋の姉ちゃん、その他大勢。
その他大勢というのは、厩番の人と兵士な人達である。

その他大勢は遠巻きに私たちを見てる感じだ。

「ほら、クロヒメ見て、このブラシは柔らかいのよ。」

そう言って、馬具屋の姉ちゃんは、ブラシを掌に充てて、柔らかさをアピールした。

「ぶるん?」

本当に?と言ってるのだと思う。知らんけど。

馬具屋の姉ちゃんは、頬の傍にブラシを持って行った。そして当てることなく、その場で待機した。

クロヒメは恐る恐る頬を寄せる。
自分から、動いてブラシをゴシゴシと頬に当てた。

「ね、柔らかいでしょ。」

「ぶるんっ。」

問題ないようだ。

「じゃあ、ブラッシングするね。」

そう言って馬具屋の姉ちゃんは、ブラッシングを始めた。

クロヒメは気持ち良さそうだった。
私も途中から代わってもらい、ブラッシングした。

ブラッシングの後は馬具の取り付けだ。
ゼッケンはかなりいい素材を使ってるらしい。鞍も女性用で、今までの鞍と比べても小さい。
子供用は需要がないので、無いみたいだ。

「リリアーヌさん、手伝ってもらってもいいですか?」

「畏まりました。ただお嬢様が、乗るのは、まだ控えて貰ってもいいですか?」

「了解しました。」

なんだ、乗れないのか。

着々と装着が行われる。
クロヒメは大人しい。

「クロヒメ、私が乗ってもいい?」

馬具屋の姉ちゃんが、クロヒメに聞いた。
特に何も反応はない。

馬具屋の姉ちゃんは、華麗にクロヒメに乗ると颯爽と駆け出して行った。
何と言っても、姿勢がいい。ピンと真っ直ぐ背筋が伸びてる。

テレビで見たことあるな。

私が感心してるように、その他大勢も感心していた。
素人の私が見ても凄いと思えるって事は、経験者にとっては余計、そう思えるのかも。

戻ってきた馬具屋の姉ちゃんが言った。

「とても賢い馬ですね。それに人嫌いではないようです。」

「そうなの?」

「恐らく男嫌いなのでしょう。今までガサツに扱われた事が原因だと思います。」

馬具屋の姉ちゃんは、クロヒメから降りて、頬をさすりながら言った。

「なるほど。厩番に女性はいるの?」

私はリリアーヌに聞いた。

「いえ、厩番は全員男性です。付け加えるなら、当家の兵士も全員男性です。」

「困ったわね。」

「これまでも何とかなっていますし、直ぐに困ることにはならないかと。」

「まあ、そうなのだけど。」

厩番の件は、お父様に相談するか。

結局、ブラシと馬具一式、全てを買い上げることにした。
我が家の兵士たちも浮足だっており、何やら馬具を購入する流れの様だ。
まったく、男って奴は・・・。

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