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「それって私が買ったのも入ってるの?」

「はい。」

大丈夫か、マジで?

「飴屋やって、どれくらい?」

「3日目です。」

「前は何をやってたの?」

「ガラス細工職人です。」

なるほど。
腕はある訳だ。

「なんで辞めたの?」

「ガラス工房が潰れました。」

「・・・。」

「仕事が無かったので、嫁の実家から屋台が渡されて。」

「なるほど、仕方なく飴を売ってる訳ね。」

「はい。」

「それで食べていけるの?」

「多分、無理かと。」

「はあ、しょうがないわね。この並べてる飴を全て花に変えなさい。」

「ぜ、全部ですか?」

「茎や葉は不要よ。花だけだからね。」

ちゃんと指定しないと、一輪を並べそうだ。

男は、渋々、花を作り出した。
色別に、いろんな花を。

うん、腕はあるな。

周囲に人だかりは出来ている。
そりゃあ、アレか。
周りから見たら屋台に金持ちがいちゃもんをつけてるように見えるのだろう。
まあ、何でもいい。
必要なのは人目だ。
多ければ多い方がいい。

「一つ頂戴。」
私が一つ受け取る。
お金はリリアーヌが渡した。

そうして、私が食べようとする前に、リリアーヌが花を一片取って口にした。

「どうぞ。」

問題はないようだ。
しかし、このシステム、面倒くさいっ。

では、気を取り直して。
パクリ。

「美味しいわっ。まるでお花を食べているみたい。」

大げさに、大きな声で私は言った。
そう、所謂、サクラという奴だ。

さあ、サクラを見る会の皆さん、食いつきなさいっ!

「私も貰おうかしら?」

「僕も。」

食いついた。
値段は100ゴールドにしろと伝えてあったので、100ゴールドで飛ぶように売れていった。

ある程度、見届けて、私たちはその場を後にした。

「お嬢様は素晴らしいです。」

ヒャッハーなボスが、私に言った。
いや、そんな悪役顔で言われても。
まあ、私も悪役顔だけど・・・。

「別に大したことはしてないわ。」

「いえ、あの飴屋も、これで食べていけるでしょう。」

「本人は、ガラス細工職人に戻りたいのかもしれないわ。」

「それでも、当座のお金は必要でしょう。」

「まあ、そうね。」

「実は、私こう見えて、孤児院出身なのです。」

「・・・。」

こう見えてって何?
突っ込むところ?
孤児院出身って言われて、違和感は微塵もないわ。

「お嬢様の事は、神父様やチビ達から聞いております。」

「そ、そう。」

「聞いていた通りの方でした。」

「どういう風に?」

「全く貴族らしくないと。」

「あっ、そう・・・。」

その後、他愛もない話を終え、ヒャッハーなボスとは貴族街の入場門で別れて、私たちは屋敷へと帰った。

「お母様、お土産です。」

そう言って、私は薔薇の飴を手渡した。

「まあ、なんて綺麗なの。エルミナ、さっそく部屋に飾っておいて。」

「お母様、それ飴なので、なるべく早く食べてください。」

「え?」

「失礼します。」

エルミナが、ガラスケースから飴を取り出し、葉っぱの部分を摘まんで、口に入れた。

「飴ですね。」

「これが、飴?」

なんだろう、お母様の目が爛々と輝きだした気が・・・。

「リリアーヌ、この飴を作った職人は判って?」

「恐らく同じ場所に店を出すと思われますので、明日なら連絡もつくかと。」

「そう、では、明日連絡をとって頂戴。」

「畏まりました。」

なんだ、何の話だろ?

私が首を傾げていると、エルミナが説明してくれた。

「今度、当家でお茶会が開催されます。その時の為に飴職人に飴細工を作って貰う、いわば仕事の依頼ですね。」

ほお、いきなり貴族からの仕事か。
うん、ガラス細工職人に戻るのは諦めてくれ・・・。

私は心の中で、そっと合掌をした。

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