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私は、考えた。
妹の為なら、考え無しに突っ走りたいところだが。
その前に一つ聞いておくか。

「ちなみに誰用なの?」

「お母さまにプレゼントしてあげたいの。」

やはり、そうか。
もし、自分で欲しいなら、作りたいとは言わず、作って欲しいと言うだろう。

「リリアーヌ。」

「はい。」

「もし私が、手伝った場合。どうなるかしら?」

「奥様が烈火の如くお怒りになるかと。」

だよねぇ・・・。
だからと言って、アリスが作れるかといったら無理だろう。

「アリスがデザインして、それをエンリに作って貰ったらどうかしら?」

「えっ、私が作るんですか?」

アリスより先にエンリからの返答があった。

「あんた、職人でしょ?何言ってるの?」

「外注に出すのは、駄目なんでしょうか?」

「なに、ドワーフに頼ろうとしてんの。自分で作りなさいっ!」

「そんなあ・・・。」

「お姉さま、お姉さま。」

「なあに?」

「私、デザインできません・・・。」

「大丈夫よ、私と一緒に頑張りましょう。」

「お姉さまが教えてくれるんですか?」

「ええ。」

「じゃあ、私がんばるっ!」

かわえええ。

「お嬢様。」

「何よ?」

私とアリスの癒しタイムを邪魔するんじゃないよ、リリアーヌ。

「その場合でも、奥様は、いい気がしないのでは?」

「だ、大丈夫よ。私の分が終われば、お母様のを着手するんだから。」

た、多分、大丈夫な、はず・・・。

私たちは、レントン商会を後にして、街の中心部へと向かった。

去り際にシェリルが。

「暫くすればアーマード商会の名が、王都中に鳴り響くでしょう。首を洗って待ってなさい。」

とエンリに捨て台詞を吐いていた。

「そういえば、アーマード商会の土地って何処にあるの?」

私がシェリルに聞いた。

「ここから直ぐなので、行ってみましょう。」

シェリルの案内の元、その場所へ向かう。

途中にある屋台をアリスが興味津々で見渡していた。

「後で何か買いましょう。」

「えっ、いいんですか?」

「全然大丈夫よ。どれがいいか考えておいてね。」

「うーん・・・。」

悩みながらも、あちこちを見ている。

「ここがカフェ予定地になります。」

「おおー、いい所じゃない。何で今まで使ってなかったの?」

「物を販売するにしても、採算が取れるような物がありませんでしたので。」

貴族はお抱えの商会から、物を買うだろうし、平民相手だと高価なものは売れない。
王都饅頭のような家族経営でさえ、厳しいのだ、商会が店を出すとしたら、余程の事がないと二の足を踏むか。

「私のように、こうやって街を歩くなら、カフェは、ありがたいけど・・・。」

「お嬢様のように出歩く貴族は、おりません。」

リリアーヌがキッパリと言った。

ぬぬぬ、正論を・・・。

「今更だけど、採算取れるの?」

「エカテリーナ様のお墨付きがあれば、赤字になる事はありません。」

自信をもって、シェリルが答えた。

「そういうもの?」

私は、リリアーヌに聞いた。

「販売もするとの事なので、派閥を動かせば余裕かと。」

なるほど。

一通り見終わると、再び屋台の方へ向かう。

「アリス、何か決まった?」

「お姉さま、あの行列は何でしょう?」

「あれは、飴屋よ。」

儲かってんなあ・・・。
並んでる人は、むしろ大人が多い。
ケースみたいな物を持ってる人もいる。
お土産にするのだろうか?

そうやって眺めてみていると、一人の女性が、護衛に話しかけていた。

「お嬢様、こちらは、ダンウォーカーの奥方だそうです。」

誰やねんっ!それっ!

「お嬢様、ダンウォーカーは、飴屋の名前です。」

そっとリリアーヌが教えてくれた。

「いつも主人がお世話になっております。専属で雇って頂けるとの事で、ありがとうございます。」

飴屋の奥さんが、そう言って深々と頭をさげた。

「どうぞ、こちらをお納めください。」

そう言って、ケース入りの花細工の飴2つが差し出された。

「いいの?」

「はい、先ほど、お嬢様をお見掛けし、主人が作った物です。」

「あんなに行列が出来てるのに、何か悪いわね。」

「全て、お嬢様のお陰ですので。」

なんか、すっごく感謝された。

飴屋の奥さんは、飴細工2つを私に手渡すと何度も頭をさげて、屋台へと戻っていった。

「現在は、あの奥方も、接客業務の為の教育を受けております。」

シェリルがしれっと、とんでもない事を言いおった。

「あの人もカフェで働くって事?」

「はい。」

まさか、思い付きで言ったカフェが雇用を創生していようとは。

「お姉さま、お姉さま。この綺麗なお花は、お部屋に飾るのですか?」

「これは、飴よ。」

「えっ?これが飴?」

「屋敷に帰ってから食べましょうね。」

「食べちゃうんですか?」

「そうよ。」

「なんだか勿体ないです・・・。」

「叔母様へのお土産にしてもいいかもね。」

「それがいいです。」

アリスはにっこりとほほ笑んだ。

「さて、小腹も空いてきたし何か食べましょう。」

「何がいいかさっぱりわかりません。お姉さまが選んでください。」

「そうねえ・・・。」

たこ焼きは、前に食べたし。

屋台を一通り見渡すと、1店、美味しそうな匂いがする屋台があった。
傍に近づくと、ホルモン焼きの屋台だった。

めっちゃ、いい匂いだ。

正直、前世ではホルモンは好きではなかった。
が、社会人になって、一人焼肉に行きだしてから、好みが変わってしまった。

それは、運命の出会いだったかもしれない。

◇◇◇

「とろけるホルモン?」
「はい、お奨めですよ。」
「ホルモンって、噛み切れないから好きじゃないんだけど?」
「これは、脂肪部分は、蕩けますし、地の部分も噛み切れます。」
「えー、本当に?」
私は半信半疑、店員に言われるままに、とろけるホルモンを注文した。

地の部分を下にして、脂肪部分が膨らむまで焼き、最後に脂肪部分を軽くあぶって。

パクリ。

うっ。



うっまーーーーっ!
何これっ!

脂肪部分は蕩けるし、地の部分は簡単に噛み切れる。

それは、まさに運命の出会いだった。


っていうか、一人焼肉ってなんだ。
えっ?
私って、前世は、ぼっちか?

屋台のホルモンの匂いで、前世の記憶が呼び戻された。


「お嬢さん、よかったらどうだ?」

「ホルモンって噛み切れないから好きじゃないんだけど?」

「まあ子供は嫌うよな。でもうちのは十分煮込んであるから、柔らかくて噛み切れるぞ。」

「煮込んだ物を焼いてるの?」

「ああ、そうだ。一つ食べてみるかい?」

屋台のおっさんが、そう言って、一つ短い串にさして、差し出した。

リリアーヌがそれを受け取り、パクリと食べた。

屋台のおっさんが驚いたように、固まった。
私は、想定内だ。
どうせ、そうするだろうと思ってたし。

「どう?」

「大変おいしゅうございます。」

「噛み切れる?」

「私は噛み切れますが、お嬢様は、どうでしょう?」

「おじさん、もう一つ頂戴。」

「あ、ああ。」

今度もリリアーヌが受け取り、私に渡してくれた。

パクリ

もぐもぐもぐ。
うん、柔らかいし、噛み切れる。

「これ、相当、長時間煮込んでるんじゃないの?」

「ああ、うちは肉屋だからな。大量に長時間、煮込んでるよ。」

「肉屋が何で、屋台してるの?」

「ホルモンが余ってるからな。」

「ああ、なるほどね。リリアーヌ、私とアリス用に一皿と兵士たち用にもね。」

「了解しました。」

ここら辺の屋台の皿は、葉っぱだ。
頑丈で、蓮の葉の様に、水をはじく。
屋台から少し離れた場所に腰をかけ、皿を膝の上に乗せた。

「はい、アリス。食べてみて。」

「はい。」

アリスがホルモンを口に入れてモグモグする。

「お姉さま、美味しいです。」

「ちゃんと噛み切れた?」

「はい。」

私の膝の上に乗せた皿からリリアーヌが、遠慮なくホルモン焼きを奪っていく。

「ちょっと食べすぎよ?私とアリスのが無くなるじゃない。」

「これは、脂身ですから、食べすぎは体に良くないです。」

確かに子供にとっては、体に良くはないような気がするが。
兵士たちは、交代でホルモン焼きを食べていた。
もちろん、立ちながらだけど。
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