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「で、アウエリアは、アーマード領の財務表を見て、メーベル男爵領がおかしいと思ったんだね?」
「メーベル男爵領で何らかの対策をしていたり、たまたま他の領とは違って、不作がなかった可能性もあります。」
「それで過去の数字が知りたかった訳だ。」
「はい。」
「お嬢様、こちらが、メーベル男爵領の過去10年の財務状況になります。」
「じゅっ、十年?」
私はさっと目を通す。
さっと目を通すだけで、簡単に判った。
何せ10年間、数字が一つも変わっていない。
「意外と判らないものなのですね・・・。」
「王宮で数字を見るとしても、アーマード領全体の数字だ。いちいち男爵領の数字を個別に見たりはしないからね。」
「これは脱税になるのですか?」
「そうだね。10年前に国全体で、大きな不作があってね。当時は減税措置が、取られてね。」
「なるほど、当時と収穫量が変わらなければ、税金も上がらないと?」
「そうなるね。ただメーベル男爵は、悪辣な人ではない。」
「ふむふむ。」
「後の事は、私たちに任せて貰えるかな?」
「はい。私は、単に気になっただけなので。」
うん、後の事は、大人に任せよう。
この後、叔父様は、めちゃくちゃ怒られたらしいが、アリスに渡される勉強用という名のチェック体制が変わる事は無かった。
「アリス、そんなので練習しなくてもいいのよ?」
そんなのとは、もちろん、叔父様から渡された予算や財務状況のチェック用だ。
「大丈夫です。それにお父さまの手伝いも出来て、一石二鳥です。」
そう言って頑張るポーズをするアリス。
かわええ。
こんな可愛い子に、仕事を押し付けるとは、許せん。
私からも一言言ってやろう!
そう意気込んで叔父様の元へ突撃。
「6歳の子供に、仕事を押し付けるなんて正気ですか?」
「し、仕方ないんだ・・・。うちに計算が出来る人員は少ないし、宰相府が忙しい兄上を頼る訳にもいかない・・・。」
逆に泣きつかれてしまった。
面倒なので、その場を後にした。
「お嬢様、少し宜しいでしょうか?」
部屋に戻る途中に、執事長のモーゼスが話しかけてきた。
「何?」
「アリスお嬢様の算盤教室に、当家の者を何人か付け加える事は出来ないでしょうか?」
「計算要員が必要なのね?」
「はい。」
「でも、算盤を扱えるようになったら、お父様に人員を持っていかれるんじゃない?」
「屋敷内に関する人事は、奥様とお嬢様の管轄です。」
「ああ、私が駄目って言ったら大丈夫?」
「はい。」
「じゃあ、ちょっと声を掛けてみるわ。やる気がなければ、簡単には覚えれないでしょうし。」
「助かります。」
という事で、私は下働きのアンを呼び出した。
「算盤ですか?」
「ええ、計算が得意で、算盤を習ってみたい人が居たら、連れてきてくれる?」
「はい。ちなみに私が参加しても・・・。」
「ええ、いいわよ。」
「ありがとうございます。」
そう言って、深々と礼をして、アンは仕事に戻っていった。
そして翌日。
アリスは、私の部屋で算盤の練習という名を借りた仕事をこなしていた。
3人のメンバーが私の前に。
何故にお針子隊の面々が?
アン、ブレンダ、そしてもう一人。
勝手に名前つけちゃったけど、私の服をお直してアリス用にした面々だ。
「えっと、ごめんなさい。あなたの名前は、なんだっけ?」
「あっ、はい。レミと言います。」
アンにレミ・・・。
世界の名作劇場かっ!
覚えやすいから、いいんだけど。
「3人とも、計算は大丈夫?」
「私とレミは、ピザート家で育ちましたので、大丈夫です。」
ピザート家自体が一つの街みたいなもんだしね。
簡単な計算は子供たちに教えていると。
「私はパン屋で働いていましたので。」
そう言えば、そうだった。
パン屋で働いていたら、簡単な計算くらいはできるよね。
という事で、私、自らが3人を教える。
「アリスお嬢様が教えるんでは?」
リリアーヌが聞いてきた。
「アリスは、お仕事が忙しいのよ。」
「伯爵様の・・・。」
リリアーヌも言葉に詰まる。
ありえんだろ?6歳の子供に何やらせているんだ。
3人に、10列の子供用算盤を渡す。
こっちは丸珠なので、数を揃えるのが簡単だ。
大量生産とまでは、いかないけど。
算盤の扱い方を一通り教え終わると。
「これ、凄いです。パン屋にあったら、パンの値段とか簡単に計算できます。」
ブレンダが、一番、算盤に驚いていた。
「これ3人に上げるから、時間がある時に練習してね。」
「「「ありがとうございます。」」」
「王宮預かりの品になっていますので、他へは持ち出さない様に。」
リリアーヌが3人に注意を促した。
週に一度、王宮へ向かう。
これは、お父様からの依頼で、そうなっている。
アリスと共に向かいたいところではあるが、王妃様から一人で来て欲しいと言われたので、一人で向かった。
今日は、ダリアも居ない。
リリアーヌは、居るけども。
リリアーヌとは、待機所の近くで別れ、私はクロエに案内されて、王妃様の部屋へと向かった。
「クロエは、アーマードロイヤルを淹れる事が出来るのよね?」
私は気になっていた事をクロエに聞いてみた。
「はい。」
「モヤっとしたものが見えるの?」
「それは溶解現象の事でしょうか?」
「ようかい?」
「エルフの目をお持ちの方のみ、見る事が出来ます。」
「エルフの目・・・。」
「稀にエルフの目を持っている人も居りますが。」
「へえ。クロエはどうやって判断してるの?」
「香りと勘ですかね。」
「勘?」
「はい、私は勘所が他人より優れているようなので。」
「そうなんだ。」
「どうして、アーマードロイヤルの事を?」
「今、練習中なんで。」
「えっ?お嬢様がですか?」
「そうよ。」
「・・・。」
なんかクロエにビックリされた。
王妃様の部屋に入ると、王妃様が笑顔で私を出迎えてくれた。
「お嬢様、アーマードロイヤルを淹れてみますか?」
クロエがとんでもない事を提案してきた。
「「えっ?」」
王妃様と驚きの声が重なった。
「アーマードロイヤルって国賓に出すものでしょ?」
私がクロエに聞いた。
「はい、ですが、新茶が入りましたので、古茶が下げ渡されましたので。」
「へえ、古茶が。」
「はい、練習用に下げ渡されます。」
「なるほど。」
「アウエリアは、紅茶を淹れるの?」
「はい。」
「まあ、そうなのね。コンスタンスも私の為に淹れてくれたりしていたのよ。」
「ほう、私の生母も。」
「ええ。」
ということで、私は、アーマードロイヤルを淹れる事に。
まずは、茶葉を少量の水に漬ける。
水に色が着いたところで、普段の入れ方に。
じー・・・。
モヤを見つめる私。
そして・・・。
モヤが、もや~っとしたところで、注ぎを開始する。
私と王妃様、クロエ、他側仕え二人。
計5人分だ。
「アウエリアが淹れてくれた紅茶。楽しみだわ。」
テーブルには私と王妃様だけ。
他三人は立飲だ。
香りは、うん、こんな感じか。
さて、味は?
私は、ゆっくりと味わう。
「とても美味しいわ。」
王妃様は満足げだ。
しかし・・・。
「90点。」
自己採点としては、甘目かもしれない。
満点ではない。
こんなもんじゃない。
アーマードロイヤルは。
「まあ、アウエリアったら、自分に厳しいのね。クロエはどうかしら?」
「満点です。」
「ほら、アウエリア。クロエが満点って言っているわ。」
「それは・・・気を使ってくれたのかなあと。」
うちの側仕えなら遠慮はないのだけども。
「いえ、お嬢様。今回、使用したのは古茶ですよ?新茶と比べてはいけません。」
「はっ。」
確かにそうだ。
「これがアーマードロイヤルです。忘れない様に味わってください。」
クロエが、二人の側仕えに、そう告げた。
「それにしても、アウエリアは、アーマードロイヤルの新茶を飲んだの?」
「はい。」
「まあ、羨ましわ。」
「次の時に、持ってきましょうか?」
「「えっ?」」
王妃様とクロエが驚いた。
「アウエリアは、新茶を持っているの?」
「はい、王宮に納めて残った物を全て頂きました。」
「アーマード伯も、アウエリアには甘いのかしら?」
「そ、そうですね。ははは・・・」
笑うしかない。
強く強請ったなんて、言えない。
「メーベル男爵領で何らかの対策をしていたり、たまたま他の領とは違って、不作がなかった可能性もあります。」
「それで過去の数字が知りたかった訳だ。」
「はい。」
「お嬢様、こちらが、メーベル男爵領の過去10年の財務状況になります。」
「じゅっ、十年?」
私はさっと目を通す。
さっと目を通すだけで、簡単に判った。
何せ10年間、数字が一つも変わっていない。
「意外と判らないものなのですね・・・。」
「王宮で数字を見るとしても、アーマード領全体の数字だ。いちいち男爵領の数字を個別に見たりはしないからね。」
「これは脱税になるのですか?」
「そうだね。10年前に国全体で、大きな不作があってね。当時は減税措置が、取られてね。」
「なるほど、当時と収穫量が変わらなければ、税金も上がらないと?」
「そうなるね。ただメーベル男爵は、悪辣な人ではない。」
「ふむふむ。」
「後の事は、私たちに任せて貰えるかな?」
「はい。私は、単に気になっただけなので。」
うん、後の事は、大人に任せよう。
この後、叔父様は、めちゃくちゃ怒られたらしいが、アリスに渡される勉強用という名のチェック体制が変わる事は無かった。
「アリス、そんなので練習しなくてもいいのよ?」
そんなのとは、もちろん、叔父様から渡された予算や財務状況のチェック用だ。
「大丈夫です。それにお父さまの手伝いも出来て、一石二鳥です。」
そう言って頑張るポーズをするアリス。
かわええ。
こんな可愛い子に、仕事を押し付けるとは、許せん。
私からも一言言ってやろう!
そう意気込んで叔父様の元へ突撃。
「6歳の子供に、仕事を押し付けるなんて正気ですか?」
「し、仕方ないんだ・・・。うちに計算が出来る人員は少ないし、宰相府が忙しい兄上を頼る訳にもいかない・・・。」
逆に泣きつかれてしまった。
面倒なので、その場を後にした。
「お嬢様、少し宜しいでしょうか?」
部屋に戻る途中に、執事長のモーゼスが話しかけてきた。
「何?」
「アリスお嬢様の算盤教室に、当家の者を何人か付け加える事は出来ないでしょうか?」
「計算要員が必要なのね?」
「はい。」
「でも、算盤を扱えるようになったら、お父様に人員を持っていかれるんじゃない?」
「屋敷内に関する人事は、奥様とお嬢様の管轄です。」
「ああ、私が駄目って言ったら大丈夫?」
「はい。」
「じゃあ、ちょっと声を掛けてみるわ。やる気がなければ、簡単には覚えれないでしょうし。」
「助かります。」
という事で、私は下働きのアンを呼び出した。
「算盤ですか?」
「ええ、計算が得意で、算盤を習ってみたい人が居たら、連れてきてくれる?」
「はい。ちなみに私が参加しても・・・。」
「ええ、いいわよ。」
「ありがとうございます。」
そう言って、深々と礼をして、アンは仕事に戻っていった。
そして翌日。
アリスは、私の部屋で算盤の練習という名を借りた仕事をこなしていた。
3人のメンバーが私の前に。
何故にお針子隊の面々が?
アン、ブレンダ、そしてもう一人。
勝手に名前つけちゃったけど、私の服をお直してアリス用にした面々だ。
「えっと、ごめんなさい。あなたの名前は、なんだっけ?」
「あっ、はい。レミと言います。」
アンにレミ・・・。
世界の名作劇場かっ!
覚えやすいから、いいんだけど。
「3人とも、計算は大丈夫?」
「私とレミは、ピザート家で育ちましたので、大丈夫です。」
ピザート家自体が一つの街みたいなもんだしね。
簡単な計算は子供たちに教えていると。
「私はパン屋で働いていましたので。」
そう言えば、そうだった。
パン屋で働いていたら、簡単な計算くらいはできるよね。
という事で、私、自らが3人を教える。
「アリスお嬢様が教えるんでは?」
リリアーヌが聞いてきた。
「アリスは、お仕事が忙しいのよ。」
「伯爵様の・・・。」
リリアーヌも言葉に詰まる。
ありえんだろ?6歳の子供に何やらせているんだ。
3人に、10列の子供用算盤を渡す。
こっちは丸珠なので、数を揃えるのが簡単だ。
大量生産とまでは、いかないけど。
算盤の扱い方を一通り教え終わると。
「これ、凄いです。パン屋にあったら、パンの値段とか簡単に計算できます。」
ブレンダが、一番、算盤に驚いていた。
「これ3人に上げるから、時間がある時に練習してね。」
「「「ありがとうございます。」」」
「王宮預かりの品になっていますので、他へは持ち出さない様に。」
リリアーヌが3人に注意を促した。
週に一度、王宮へ向かう。
これは、お父様からの依頼で、そうなっている。
アリスと共に向かいたいところではあるが、王妃様から一人で来て欲しいと言われたので、一人で向かった。
今日は、ダリアも居ない。
リリアーヌは、居るけども。
リリアーヌとは、待機所の近くで別れ、私はクロエに案内されて、王妃様の部屋へと向かった。
「クロエは、アーマードロイヤルを淹れる事が出来るのよね?」
私は気になっていた事をクロエに聞いてみた。
「はい。」
「モヤっとしたものが見えるの?」
「それは溶解現象の事でしょうか?」
「ようかい?」
「エルフの目をお持ちの方のみ、見る事が出来ます。」
「エルフの目・・・。」
「稀にエルフの目を持っている人も居りますが。」
「へえ。クロエはどうやって判断してるの?」
「香りと勘ですかね。」
「勘?」
「はい、私は勘所が他人より優れているようなので。」
「そうなんだ。」
「どうして、アーマードロイヤルの事を?」
「今、練習中なんで。」
「えっ?お嬢様がですか?」
「そうよ。」
「・・・。」
なんかクロエにビックリされた。
王妃様の部屋に入ると、王妃様が笑顔で私を出迎えてくれた。
「お嬢様、アーマードロイヤルを淹れてみますか?」
クロエがとんでもない事を提案してきた。
「「えっ?」」
王妃様と驚きの声が重なった。
「アーマードロイヤルって国賓に出すものでしょ?」
私がクロエに聞いた。
「はい、ですが、新茶が入りましたので、古茶が下げ渡されましたので。」
「へえ、古茶が。」
「はい、練習用に下げ渡されます。」
「なるほど。」
「アウエリアは、紅茶を淹れるの?」
「はい。」
「まあ、そうなのね。コンスタンスも私の為に淹れてくれたりしていたのよ。」
「ほう、私の生母も。」
「ええ。」
ということで、私は、アーマードロイヤルを淹れる事に。
まずは、茶葉を少量の水に漬ける。
水に色が着いたところで、普段の入れ方に。
じー・・・。
モヤを見つめる私。
そして・・・。
モヤが、もや~っとしたところで、注ぎを開始する。
私と王妃様、クロエ、他側仕え二人。
計5人分だ。
「アウエリアが淹れてくれた紅茶。楽しみだわ。」
テーブルには私と王妃様だけ。
他三人は立飲だ。
香りは、うん、こんな感じか。
さて、味は?
私は、ゆっくりと味わう。
「とても美味しいわ。」
王妃様は満足げだ。
しかし・・・。
「90点。」
自己採点としては、甘目かもしれない。
満点ではない。
こんなもんじゃない。
アーマードロイヤルは。
「まあ、アウエリアったら、自分に厳しいのね。クロエはどうかしら?」
「満点です。」
「ほら、アウエリア。クロエが満点って言っているわ。」
「それは・・・気を使ってくれたのかなあと。」
うちの側仕えなら遠慮はないのだけども。
「いえ、お嬢様。今回、使用したのは古茶ですよ?新茶と比べてはいけません。」
「はっ。」
確かにそうだ。
「これがアーマードロイヤルです。忘れない様に味わってください。」
クロエが、二人の側仕えに、そう告げた。
「それにしても、アウエリアは、アーマードロイヤルの新茶を飲んだの?」
「はい。」
「まあ、羨ましわ。」
「次の時に、持ってきましょうか?」
「「えっ?」」
王妃様とクロエが驚いた。
「アウエリアは、新茶を持っているの?」
「はい、王宮に納めて残った物を全て頂きました。」
「アーマード伯も、アウエリアには甘いのかしら?」
「そ、そうですね。ははは・・・」
笑うしかない。
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