上 下
77 / 81

77

しおりを挟む
「まさか、あなたが関わっているんではないでしょうね?」

お母様がお父様を責める。

「馬鹿を言うな。王命は、王が下すもの。他の意見なんて挿むわけもない。」

「なら、あの女が・・・。おかしいわね。あの女が、アウエリアを遠ざけるわけもないし。」

「義姉さん、いい加減に王妃様をあの女呼ばわりするのは辞めてちょうだい。」

王命には逆らえるわけがなく、私のアーマード領行きは、正式に決定した。




翌朝、お父様とコットンの3人で談話室にて話をする。

「王命の事でしょうか?」

「いや、別件だ。ただまあ王命は悪くない。」

お父様が、そういう事を言う。

「悪くない?」

「アウエリアが王命で名指しされたんだ、これでアウエリアに関わる貴族は居なくなる。」

「なら、アーマード領へ行かなくても?」

「アウエリア、王命だよ?そういう訳にはいかない。」

「ですよね~。で、別件とは?」

「ブレンダの事なんだが。」

「ああ、なるほど。構いませんよ?条件付きですけど。」

「条件とは?」

「ブレンダを宰相府にという事なんでしょう?」

「あ、ああ。」

「ならば代わりの厩番を見つけてください。」

「代わりの・・・。」

「旦那様。それこそ雲を掴むような話です。」

コットンがそう言った。

「それほどかな?」

「クロヒメは、女性しか近寄れません。女性の厩番となると、今まで聞いたことがありません。」

「そ、そうか・・・。」

「ブレンダを引き抜くよりも人を育てたらどうですか?ジョンなら、教える事が出来るでしょう。」

私が提案した。

「宰相府には、今から教育させる時間がない。」

「うちの兵士や使用人から希望者を募ったらどうです?」

「希望者を?」

「本人のやる気がなければ、直ぐに覚える事は無理かと。」

「希望者か・・・。算術が得意な者が果たしているだろうか?」

「ジョンのように洗礼を受けている人も多いかと。」

「洗礼?」

お父様に、ジョンが王都で受けた洗礼の話をした。

「そんな事がまかり通っているのか・・・。」

「旦那様、客側が同意して支払った時点で合法です。」

「しかし・・・。アウエリアならどうする?」

「私が、そういう目に合ったらという事ですか?」

「ああ。」

「私なら800ゴールドまで値切ります。」

「値切る?」

「当然です。90ゴールドをせしめようとした相手に10ゴールドの値引きで許すわけがありません。」

「・・・。」

「さすが、お嬢様。」

「私が聞いただけでも、王都では普通にある話らしいので、兵士や使用人でも、算術が得意な人間は多いと思います。」

「わかった。とりあえずピザート家の関係者から当たってみよう。」

「ピザート家の人間なら、身元調査もいりませんし。」

「そうだな。」

宰相府の人手不足は深刻らしい。
だからと言ってブレンダを引き抜かれたら、たまったもんじゃない。
なんとか引き抜きを阻止する事が出来た。




話し合いが終わり歩いていると、シェリルが近寄ってきた。
まるで当家の使用人の様に。

【しようにん】と【しょうにん】。
【よ】が大きいか小さいかだけなんだなあ。
と無駄な事を考えてしまった・・・。

「お嬢様、例のモノが出来ました。」

例のモノって何だ?
私、まだ何か頼んでたっけ?

とりあえず、ようやく出来たのねっていう体で受け取る。

カードが束になった物が3セットあった。

ああ、アレかっ!
という事で、ブツを持ってアリスを探す。
探すと言っても、アリス教室開催中なので、居場所は判っていた。
何故かシェリルも付いてきた。
このカードが何か知りたいんだろう。


「アリス、ビル、こっちに来てちょうだい。」

二人を広いテーブルの方に呼ぶ。
アリス教室に参加中のモーゼスとジョンまで付いてきた。

で、お母様と叔母様まで寄ってきた。

人多いな・・・。

「お姉さま、お姉さま、このカードは何?」

カードの束ねたものを抜き取り、カード一式をアリスに渡す。

カードの表には、2×2と書かれており、裏には答えの4が描かれている。
そう、九九のカードだ。
全64枚。
1の段は、作ってない。

「姉さん、もしかして掛け算のカード?」

「ええ、そうよ。はい、ビルのもあるわ。」

そうして、ビルに2セット目を渡す。

「最初は順番に並べて、覚えて言ってね。」

私が二人に説明した。

「本当に、子供向けの物だったとは・・・。」

シェリルがガッカリとした。

「子供用っていうけど、掛け算できるの?」

「当然じゃないですか、私は商人ですよ。」

「なら、勝負しましょうか?」

「はっ?お嬢様、私は、手加減と言う言葉を知りませんよ?」

自覚していたのか・・・。

「じゃあ、ビル。適当に5枚選んで、読みながら、カードを出してくれる。」

「うん、わかったよ。3×8。」

「24。」

瞬時に答える私。

「これで、このカードは、私の物ね。」

「なるほど、それでカードを多くとった方が勝ちと。」

「ええ。どうする?この1枚戻そうか?」

「いえ、子供であるお嬢様へのハンデですから。」

余裕綽々のシェリル。





私の圧勝だ。
当然だ。
日本人であれば、九九なんて朝飯前。
前世の世界であっても、一桁の掛け算は日本が速い。
二桁になるとインドになってしまうけど。

「インチキです。不正です。きっとカードに何か仕込んでいるに違いない。」

往生際が悪いシェリル。

「そもそも、カード作ったのは、あんたでしょ?別にカードが無くてもいいんだけど?」

「では、カード無しで。あと読み手を変えてください。ビル様はお嬢様の弟、何か合図を送っているに違いありません。」

してねえよっ、というか、そっちの方が凄くね?

「じゃあ、モーゼスに?」

「駄目です。モーゼスさんは、ピザート家の人間です。」

「じゃあ、すみません。叔母様、お願いできますか?」

「適当に選んで、読めばいいだけよね?」

「はい。」

「ユリアナ様は、アーマード家の人間。私もアーマード商会の人間です。宜しくお願いしますよ?」

何をお願いするんだ・・・。

で。





私が圧勝した。

「ぐぬぬぬ・・・。」

商人のプライドがズタズタらしいが。知らんがな。

「アウエリアは、計算はしていないわね。」

お母様が言った。

「はい、1桁の掛け算は暗記しています。」

「なっ、インチキじゃないですかっ!」

シェリルが叫ぶ。
てか、九九暗記していたらインチキって何だそれ。

「すごい、すごい。お姉さま、すごいです。」

はい、おねすご頂きました。

「アリスも、覚えるといいわ。最初は足し算の応用で覚えていけばいいから。」

「足し算?」

「先頭の数字が2を並べてみて。」

アリスが2の段を並べる。

「2×2っていうのはね、2つの塊が2つあるって事なの。」

私はポッケに入ってる丸石を4つ出した。
色々な色の丸石が10個くらい入ってる。
何か遊べないかと、レントン商会で貰った物だ。

「じゃあ、お姉さま。2×3って、2を3つ足せばいいの?」

天才やっ!
アリスは天才に違いないっ!

「ええ、そうよ。」

私はアリスの頭を優しく撫でた。

「えへへへ。じゃあ、上から順番に2を足していけば。6、8、10・・・・。」

答えを言いながらカードをめくる。
最後の18まで、きっちり正解した。

「どうしよう、義姉さん。うちの娘が天才だわっ!」

叔母様が、親バカ発言をお母様に告げた。

いや、親バカではない。
アリスは天才だ。
私は心から同意した。

「なるほど、そうやって覚えていけばいいのか。」

そう言って、今度はビルが3の段を試す。

ここにも天才が居た。
さすが、我が義弟。

「お嬢様、私(わたくし)にも、そのカードを頂いても宜しいでしょうか?」

「あのっ、お嬢様、お、俺にも」

モーゼスとジョンから声があがる。

ふむ・・・。あと一つしかないんだが。

「シェリル、追加で2セットお願い。」

「了解しました。」

「シェリルさん、ピザート家から更に追加で2セットお願いできますか?」

「了解しました。」

まあ、カードだから、難しい物じゃあない。

「とりあえず、これはモーゼスに渡しておくわ。」

「ありがとうございます。」

私は残りの1セットをモーゼスに渡した。
モーゼスが家で頼んだという事は、使用人用だろうなあ。
しおりを挟む

処理中です...