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いざ旅立ちの時

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姉妹のように仲良くなったアナスタシアとレダ。アナスタシアは、レダをもう一人の妹のように思っていた。
こんな幸せな時間がいつまでも続くはずはないとレダは、判っていてもいつまでも続いて欲しいと願っていた。
しかし、終わりの時は突然やってきた。

いつものように、4人で酒場にて夕食を取っていると、酒場へ見たこともない客が現れた。
装備からして、かなりやり手の冒険者たちであることが一目でわかった。
「今晩は、俺は冒険者カイン。」
4人いた冒険者の中の一人が、アナスタシア達のいたテーブルにきて挨拶をした。
「カインって・・・B級の・・・。」
イアンが言った。
「B級・・・。」
レオースがゴクリと唾を飲みこむ。
初めて級持ちの冒険者を見たレオースは、これが冒険者のオーラなんだと実感した。
「あなたがブラッディフッドの弟子のアナスタシアさん?」
カインが4人の中で、一番派手で娼婦風な女性に話しかけた。そういう情報を仕入れていたからだ。
「そうよ。」
「「「「えっ!」」」」
レダ、レオース、イアン更に酒場の親父、あわせて4人が驚いた。
「あれ?言ってなかったかしら?」
アナスタシアは首を傾げた。
「聞いてないわ。」
「ただもんじゃないと思ってが、ブラッディフッドの弟子とわなあ・・・。」
酒場の親父が言った。
「それで私に何の用かしら?」
「俺たちに力を貸してくれないか?」
「私の力を?」
「是非に、俺たちは、級持ちと言ったってB級どまり。アナスタシアさんの力を是非借りたいんだ。」
決して上から目線ではなく、懇願するように頼むカイン。
「どうしてもというなら、考えなくもないわ。」
普通、常識的に考えたらありえない光景だった。アナスタシアは冒険者の実績と言えば皆無ではないが、級持ちからすれば皆無と変わらない。
ロビンたちと冒険をしているが、依頼も低ランクのもの。この町ではネズミの駆除しかしていない。
そんな相手に、級持ち、しかもB級がこんなに謙って頼むなんてありえない事だった。
国無き地では、王族だとか貴族という肩書は通用しない。ブラッディフッドの弟子であっても、変わらない。この世界で通用するのは、己の実績のみだった。
「俺たちの力だけでは難しい依頼なんだ。どうしてもお願いしたい。」
そう言ってカインは頭を下げた。
「いいわ。力を貸してあげる。」
「ありがとう。君たちもすまないね、仲間をスカウトするような非礼をして。」
「いえ、いいんです。」
レオースが言った。
「なんかB級なのにいい人そうね。」
他の人に聞こえないように、レダがイアンに言った。
「俺が知ってる級持ちの冒険者とは、全然違うよ。」

「それで急で申し訳ないんだが、明朝出発しても構わないか?」
「ええ、構わないわ。」
「では、明朝、町の入り口で待ってるよ。」
そう言って、酒場から出ようとした。
「おい、あんたら、何か頼んでいかないのか?」
「今日は仲間との別れになるだろうから、俺らは遠慮します。」
そう言い残して、カインたちは酒場を後にした。
「ちょ、めっちゃいい奴らじゃねえか。」
酒場の親父が感心して言った。
「ごめんなさいね、皆。」
「いいのよ、アナ。」
「うん、僕らの事は気にしないでいいよ。」
「B級にスカウトされるなんて、凄すぎだ。」
「皆と一緒に居たいって気持ちは、私もあったわ。でも、これ以上居たら、私、2号店の店長にされそうなのよ・・・。」
最近、手伝っているランチのお店で、レダと二人で2号店をやってみないかと、日々薦められていた。
「ちょっ、やめてっ!ようやく、俺んとこが復活したのに、止めを刺す気かっ!」
「落ち着いて、おじさん。2号店は隣町だから。」
レダが説明した。
「なんだ、隣町か。」
ホッと安心する酒場の親父。
「ねえ、レダ。お店には伝えておいてくれる。」
「ええ、大丈夫よ。」
4人で過ごす最後になるかもしれない夕食を楽しんだ。
その夜のパジャマトークは、朝まで続いたことは言うまでもない。

明朝の見送りには、レダ達3人と酒場の親父が居た。
「おじさん、朝早いのに、大丈夫なの?」
アナスタシアが聞いた。
「馬鹿野郎、料理の先生の旅立ちだ、見送らないでどうする。」
「そ、そう・・・。」
アナスタシアは、レダの方を向き。
そして首に腕を回し、抱き合った。
「レオースと上手くいくように祈ってるわ。」
耳元で小さな声で言った。
「アナの物語が、いつの日か読めるように楽しみにしてるね。」
仲のいい姉妹のような二人。
その二人の別れに、レオースとイアン、ついでに酒場の親父も胸熱になった。
「私、妹が居ないから、ずっとアナの事、妹のように思っていたわ。」
涙ながらにレダが言う。
笑って見送ろうと決めていたのに、涙が止まらなかった。
「ちょ、ちょっとまって、私がお姉さんじゃないの?」
「アナが妹よ。」
「いやいや、私の事、お姉さんって言ってたわよね?」
「忘れたわ、そんな事。」
涙一杯の笑顔でレダは言った。
「素直じゃないんだから・・・。」
そう呟いた後、アナスタシアはレオースに声を掛けた。
「レオース、あなたは色々と頑張りなさい。色々とね。」
最後に強く、駄目押しで言った。
「わかりました。」
多分判ってねえなコイツというのが、アナスタシアの正直な感想だった。
そして、イアンの方を向き。
「イアン、立派なドワーフになりなさい。」
そう言い残し、カインたちの元へ向かった。
「え?俺、人間だし、それだけ?ちょっと・・・。」
アナスタシアは振り返ることがなかった。
「ちょ、待てよ!俺は、俺に何か一言は?」
酒場の親父が叫んだが、声は届かなかったようだ。

「随分とあっさりした別れだったようだけど、よかったのか?」
カインが聞いてきた。
「ええ。冒険者に別れはつきものでしょ?」
「そうだな。」
こうして、アナスタシアの新たなる冒険の幕が今、上がろうとしていた。

「レオース、私、あなたに言いたい事があるの。」
アナスタシア達が見えなくなった後、レダが言った。
ちょ、告白か、待て待て・・・とイアンと酒場の親父が慌てた。
「私、田舎へ帰るわ。」
「「は?」」
イアンと酒場の親父が素っ頓狂な声をあげた。
「そうか。」
「止めないのね?」
止めろ、レオース!!心で叫ぶイアンと酒場の親父。
「止めないよ。」
この馬鹿、鈍感男がっ!!心の中で激怒するイアンと酒場の親父。
「だって、魔術師の修行の為に帰るんだろ?止める事なんて出来ないよ。」
「何でもお見通しなんだ。」
こいつ、鈍感じゃねえっ・・・byイアン&酒場の親父。
「アナを見ていて思ったの。私、このままじゃあ駄目だなって。」
「それは僕もだよ。」
「レオースはずっと頑張り続けてるでしょ?私みたいに途中で諦めてないじゃない。」
「でもレダは凄いよ。僕なんかよりもずっと強い。」
「アナが居たからよ。レオースはどうするの?」
「暫くはこの町に居るよ。荷運びだって十分体を鍛えるのに役立ってるからね。」
「そう。イアンは?」
「えっ?」
傍観者の立場だったのに、突然話題を振られて戸惑うイアン。
「俺は・・・。」
「イアン、レダと一緒に村へ帰ってくれないか?」
「まあ、そりゃあいいけど。」
「イアンの師匠って今、何処へ居るの?」
「さあ?」
「レダの師匠なら知ってるんじゃないかな?一緒の冒険者バーティーだったんだし。」
「そういやそうか・・・、じゃあ俺も修行してこようかな。」
「僕は知ってるから、イアンが優しいのを。」
「何だよ、いきなり・・・。」
「僕に遠慮して修行を途中で辞めたんだろ?」
「そ、それは・・・。」
「そうだったの?私と一緒かと思ってた。」
「失礼な。俺はレダ程、出来は悪くなかったんだからな。」
「へー、どういうこと?」
「いえ・・・なんでも無いです。」
怒りの形相のレダに怖くなって、イアンは委縮した。
「しかたねえな、お前ら、今晩は奢ってやるから、ちゃんと来いよ。」
「おじさん、いきなり何?」
「若者たちの旅立ちだからな。」
「大丈夫ですか?昨日も奢ってくれましたよね?」
「おいおいレオース、お前らに心配されるほど、うちの酒場は落ちぶれちゃあ居ないんだよ。」
「こないだまで、潰れるってヤケ酒してたのにね。」
「くっ・・・。」
レダに突っ込まれて、酒場の親父は言葉を失った。
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