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第一章 聖王都追放
大聖堂長
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「エ……エレノア様。……どういう事か、説明して貰いますぞ。どうして、極光の書を継承できなかったのですか!? それにカレン様が聖女になってしまうとは……」
聖女継承の儀の総責任者であるチャールズ司教が、大聖堂の休憩室で喉を潤していたエレノアの元に、ひどく慌てた様子で押し掛けてきた。
チャールズはエリン大聖堂長を務め、聖王国史学、光魔法学、聖女神学に造詣が深い、聖女神教における第一人者であり、司教としては申し分のない学識の持ち主である。
同時に彼は俗物だった。聖女継承の儀に失敗したエレノアが失脚しそうな事で、思い描いていた未来が不鮮明になり、慌てているのだろう。
「どういう事もなにも……極光の書は私を明確に拒絶しました。私には聖女の資格がなかったのでしょう」
「……そ、そんなはずがない。貴女の魔力は、カレン様などとは比べ物にならないのですぞ!」
「……では、魔力が高すぎて、極光の書に嫌われたのかも。あと、私のきつい性格が、極光の書の好みに合わなかった可能性は」
「馬鹿な……そのような話は聞いたことがない! ……いいですか、エレノア様。私は最高魔力と呼ばれた貴女に命運を賭けていたのです。……これから先、私は一体どうすれば良いのですか!?」
不貞腐れた様子で思い付きを口にするエレノアに対し、腹立たしい気持ちがあったのか、チャールズが聖職者にあるまじき言葉を吐いた。
命運を賭けている。エレノアは顔をしかめた。この俗物に命運を賭けていたなどと言われても、どう反応して良いかわからなかったし、そこまで興味がないというのがエレノアの本音である。
悲惨な境遇から拾い上げてくれた聖王アレクシスには大恩がある。それが聖王国の利益に基づく打算的なものだとしても、恩人にはなんら変わりはなく、聖女となる為に今日まで厳しい研鑽を積んできたのも、第一義はアレクシスおよび聖王国に対する恩返しの為というのが大きい。
そして、今日まで育ててくれた聖王国の為に一生を尽くす覚悟もあった。だが、一個人の為の道具にまでなったつもりはない。
豚のように肥えたチャールズ司教の老顔に、ティーカップを投げつけたい衝動を抑えつつ、エレノアは大きく深呼吸をして感情の整理を行った。
(……説明しろと言われても、この憶測を口にしていいのかどうか)
実の処、極光の書に拒絶された理由は、エレノアの中で一つの憶測が出来上がっている。そして、その憶測が正しいとしても、掘り返した処で最早どうにもならない事に同時に気付いていた。悔しさはあるが、この事は忘れて前向きに考えなくてはいけない。
そして正直な処、まだエレノアとしても感情の整理が追い付いていない。目の前の男のように権力に執着してはいないが、ぽっかりと穴が開いたような空虚な気持ちが渦巻いているのは確かである。それなのに責任の所在がどうのという話を、このチャールズという男の保身の為に、延々とされては精神的に参ってしまいそうだった。
エレノアは今一度、チャールズの顔を見た。このままだと、彼は今までの権勢を誇る事は出来なくなるだろう。この聖女継承の儀の不始末はともかくとして、エレノアが失脚しそうな事で、大聖堂の長の立場も危ういかもしれない。
それを踏まえながら、エレノアは一応の義理を果たす為、チャールズと聖王国にとって最善と思われる提案をする事にした。
「チャールズ司教。……聖王様から授かった役目を果たせず申し訳ありません。これからは聖女カレンを、聖王国一丸となって支える事。……今の私に言えるのは、それくらいです」
「い……今更、カレン様に取り入れと!?」
取り入るという俗な物言いに、エレノアは不快感を覚えたが、表情には出さずに続けた。
「カレンはエリングラード魔法院で私の唯一とも言えるライバルでした。だからこそ、極光の書に認められたのでしょうし、聖女の務めを果たすだけの能力は備わっていると思います」
「……私はそうは思いません。エレノア様は歴代聖女がいかなる魔力を持っていたかご存じですか? どう考えても貴女こそが相応しく、カレン様では到底務まらんのですよ。ああ……どうしてこうなってしまったのか」
カレンは少なくとも目の前に居るチャールズよりは高い魔力を持っていた。唯一のライバルを悪く言われる事に、妙な腹立たしさを覚えたが、彼の言うことにも一理あった。
落胆するチャールズの言う通り、カレンの魔力はエレノアおよび先代聖女アリアと比べ、大きく劣ると言わざるを得なかった。こればかりは先天的に備わった素質が大きく、いかに努力家の彼女でも伸び代は限られている。
これは誰の主観ではなく客観的な事実であり、エレノアやカレン、アリアの実力を分析できる者ならば、誰もがそう考えている事だった。聖王国には魔力解析の眼という魔法道具が存在し、潜在能力はわかりやすい形で可視化出来るのである。
そもそも、最初からカレンに聖女としての見通しがあれば、エレノアをわざわざ聖王国外から探し出し、拾い上げる必要すらなかったのだから。
だが、それでも極光の書はカレンを新たな契約者として認めたのである。救国の聖女として魔力に不安や不足があったとしても、聖結界を修復する光魔法、聖域化を発動出来るのは、極光の書と契約を果たした彼女だけ。
聖王国が今までの聖王国である為にはカレンの働きにかかっていると言っていい。
(さて──そろそろ来るかしら。来ないで欲しいけど)
ティーカップを置いたエレノアが、休憩室の入り口に視線を送ると、ちょうど目論見通りの人物が姿を現した。
性格的に言いたいことを言いに来るだろうと予想していたが、本当に丁度のタイミグで現れたのは想定外で、エレノアは思わず顔をしかめた。
「やあ、負け犬諸君! ……ご機嫌いかがかな?」
姿を見せたのは聖女継承の儀を遅参した、第一王子リチャードだった。新聖女となったカレンの姿はなく、一人である。
負け犬発言。しょっぱなから飛ばしてきている。あきらかに煽るような、彼らしい不遜な態度で。
聖女継承の儀の総責任者であるチャールズ司教が、大聖堂の休憩室で喉を潤していたエレノアの元に、ひどく慌てた様子で押し掛けてきた。
チャールズはエリン大聖堂長を務め、聖王国史学、光魔法学、聖女神学に造詣が深い、聖女神教における第一人者であり、司教としては申し分のない学識の持ち主である。
同時に彼は俗物だった。聖女継承の儀に失敗したエレノアが失脚しそうな事で、思い描いていた未来が不鮮明になり、慌てているのだろう。
「どういう事もなにも……極光の書は私を明確に拒絶しました。私には聖女の資格がなかったのでしょう」
「……そ、そんなはずがない。貴女の魔力は、カレン様などとは比べ物にならないのですぞ!」
「……では、魔力が高すぎて、極光の書に嫌われたのかも。あと、私のきつい性格が、極光の書の好みに合わなかった可能性は」
「馬鹿な……そのような話は聞いたことがない! ……いいですか、エレノア様。私は最高魔力と呼ばれた貴女に命運を賭けていたのです。……これから先、私は一体どうすれば良いのですか!?」
不貞腐れた様子で思い付きを口にするエレノアに対し、腹立たしい気持ちがあったのか、チャールズが聖職者にあるまじき言葉を吐いた。
命運を賭けている。エレノアは顔をしかめた。この俗物に命運を賭けていたなどと言われても、どう反応して良いかわからなかったし、そこまで興味がないというのがエレノアの本音である。
悲惨な境遇から拾い上げてくれた聖王アレクシスには大恩がある。それが聖王国の利益に基づく打算的なものだとしても、恩人にはなんら変わりはなく、聖女となる為に今日まで厳しい研鑽を積んできたのも、第一義はアレクシスおよび聖王国に対する恩返しの為というのが大きい。
そして、今日まで育ててくれた聖王国の為に一生を尽くす覚悟もあった。だが、一個人の為の道具にまでなったつもりはない。
豚のように肥えたチャールズ司教の老顔に、ティーカップを投げつけたい衝動を抑えつつ、エレノアは大きく深呼吸をして感情の整理を行った。
(……説明しろと言われても、この憶測を口にしていいのかどうか)
実の処、極光の書に拒絶された理由は、エレノアの中で一つの憶測が出来上がっている。そして、その憶測が正しいとしても、掘り返した処で最早どうにもならない事に同時に気付いていた。悔しさはあるが、この事は忘れて前向きに考えなくてはいけない。
そして正直な処、まだエレノアとしても感情の整理が追い付いていない。目の前の男のように権力に執着してはいないが、ぽっかりと穴が開いたような空虚な気持ちが渦巻いているのは確かである。それなのに責任の所在がどうのという話を、このチャールズという男の保身の為に、延々とされては精神的に参ってしまいそうだった。
エレノアは今一度、チャールズの顔を見た。このままだと、彼は今までの権勢を誇る事は出来なくなるだろう。この聖女継承の儀の不始末はともかくとして、エレノアが失脚しそうな事で、大聖堂の長の立場も危ういかもしれない。
それを踏まえながら、エレノアは一応の義理を果たす為、チャールズと聖王国にとって最善と思われる提案をする事にした。
「チャールズ司教。……聖王様から授かった役目を果たせず申し訳ありません。これからは聖女カレンを、聖王国一丸となって支える事。……今の私に言えるのは、それくらいです」
「い……今更、カレン様に取り入れと!?」
取り入るという俗な物言いに、エレノアは不快感を覚えたが、表情には出さずに続けた。
「カレンはエリングラード魔法院で私の唯一とも言えるライバルでした。だからこそ、極光の書に認められたのでしょうし、聖女の務めを果たすだけの能力は備わっていると思います」
「……私はそうは思いません。エレノア様は歴代聖女がいかなる魔力を持っていたかご存じですか? どう考えても貴女こそが相応しく、カレン様では到底務まらんのですよ。ああ……どうしてこうなってしまったのか」
カレンは少なくとも目の前に居るチャールズよりは高い魔力を持っていた。唯一のライバルを悪く言われる事に、妙な腹立たしさを覚えたが、彼の言うことにも一理あった。
落胆するチャールズの言う通り、カレンの魔力はエレノアおよび先代聖女アリアと比べ、大きく劣ると言わざるを得なかった。こればかりは先天的に備わった素質が大きく、いかに努力家の彼女でも伸び代は限られている。
これは誰の主観ではなく客観的な事実であり、エレノアやカレン、アリアの実力を分析できる者ならば、誰もがそう考えている事だった。聖王国には魔力解析の眼という魔法道具が存在し、潜在能力はわかりやすい形で可視化出来るのである。
そもそも、最初からカレンに聖女としての見通しがあれば、エレノアをわざわざ聖王国外から探し出し、拾い上げる必要すらなかったのだから。
だが、それでも極光の書はカレンを新たな契約者として認めたのである。救国の聖女として魔力に不安や不足があったとしても、聖結界を修復する光魔法、聖域化を発動出来るのは、極光の書と契約を果たした彼女だけ。
聖王国が今までの聖王国である為にはカレンの働きにかかっていると言っていい。
(さて──そろそろ来るかしら。来ないで欲しいけど)
ティーカップを置いたエレノアが、休憩室の入り口に視線を送ると、ちょうど目論見通りの人物が姿を現した。
性格的に言いたいことを言いに来るだろうと予想していたが、本当に丁度のタイミグで現れたのは想定外で、エレノアは思わず顔をしかめた。
「やあ、負け犬諸君! ……ご機嫌いかがかな?」
姿を見せたのは聖女継承の儀を遅参した、第一王子リチャードだった。新聖女となったカレンの姿はなく、一人である。
負け犬発言。しょっぱなから飛ばしてきている。あきらかに煽るような、彼らしい不遜な態度で。
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