翡翠の夏

時見 星利

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Prologue

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 そっと触れた翡翠のひんやりとした感覚を、今でも覚えている。

耳を澄ませば、あの夏――「平成最後の夏」の花火が、騒ぐ潮騒と共に、泡沫の夢の中へと消えていく。


◇◆◇◆

どこまでも続く青空、綿菓子のような入道雲、暑さの増す蝉の声、そして目の前に広がる深く青い海。…私は、あの青の深さを知らないけれど。

真っ白な住宅が立ち並ぶこの場所は、通称"黄昏の街"と呼ばれている。正式名称は、「トワイライト・タウン」。

エーゲ海に位置する島・「トワイライト・ランド」の一部に存在し、この辺りではちょっぴり都会の街だ。

同じ島だが違う街に暮らす友人が遊びに来ると、「高層ビルに、カジノがあるなんて、いいなぁ!カッコいい!」と言われることも多い。

そんなことを考えながら、明日から夏休みだというこの開放感に、思いきり伸びをする。

世間では、「平成最後の夏」としてこの季節がもてはやされ、頭がお花畑の連中はこの上なく浮かれている。

今まで、そんな奴らを冷ややかな目で見てきた。しかし、最近になって、私だって一度くらいはそんな俗世の"ノリ"ってやつに染まってみてもいいのではないかと思い始めている。

…それは、キミがあんな顔で笑うから。

――よし、決めた。――

誰も知るはずのない、そんな決意を胸に秘め、自転車を立ち漕ぎして帰路を急いだ。
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