椿異聞

堂島うり子

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「律佳ちゃん。ちょっといいかな」

 その日も特に何をする訳でもなく庭でぼんやりしていると声をかけられて振り返る。
優しい王子様。ずっと姉の王子様だったけど今は誰の王子でもない、可哀想な人。

「はい」
「一条家が招待客に庭を開放して定期的に行う茶会……、いや、パーティがあるんだ。
それを来週末に開催する事になったんだけど。君にも出て欲しい」
「私は参加しないほうがいいのでは。悪い噂が広まっているようですし」
「そう。それでね、隠しているつもりでもどうにも情報の伝達が早い世界なものだから。
この際ちゃんと君の紹介をしなければいけないということになった」
「紹介」
「僕としてはまだ早いと言ったんだけど。この手の話は勝手に尾びれが付いてしまうからと
家の人達は心配していて。たしかにそれはあるかなって思うから」

 今のところは別に大げさな噂じゃない。本当に柊家の姉は不義理で妹は恥知らず。
醜聞として記事に書かれたら大スキャンダルになる所だったけれど一条家の力で出来るだけ
事件は小さく処理された。とはいえやはり多少の情報は漏れてしまうものだ。

「私なんて紹介しなくても」

 もしかして皆の前で晒し者にするとか?一条家が私をどうしたいのか分からずに不安で問いかけた。

「心配しないでいい。君にはこのまま家に居てもらう。そのための根回しだよ」
「智早様」

 何か計画を秘めていそうな顔をするけれど元婚約者の妹を家に住まわせる意味は?
腹いせに暴行したりいたぶる事もせず下女として働かせる訳でもなく、もっと別の?なに?
 そう多くはないけれど姉と一緒に智早と話をしたことはあった。凄く綺麗で優しい印象の人。

 そんな雲の上の人がどうして?不安そうな顔をした私を見て察したのか。

「美鶴の妹である君に固執するなんて頭がおかしいと思われても仕方ない、自覚はある。
でも今のこの生活のお陰で僕は苦しみから回復しつつある。君も少しは落ち着けていると思うし。
この関係をこれからも大事にしたい。それだけなんだ……今は」
「私は何も言える立場ではないです」

 どうしよう怖くてこれ以上この会話を続けていられない。何がどう怖いのかはわからないけれど。
 よく見ていた優しい笑みが初めて怖いと思ったのもどうしてだろう。

 智早からの視線の意味なんて深く考えないほうがいい。きっと。

「ということで急遽君のための着物を新調してこいとお達しが出てしまって。それも一条家に見合う
ものしか許さないとかで既に着物の仕立てをする予約を入れてしまったんだ」
「え。そ、そんな」
「お祖母様が言うには伝説の職人さんに依頼したかったらしいんだけど隠居されてしまっていて。
代わりに紹介された弟子になったそうで。その人も相当有能らしい」
「私はどうしたら」
「生地は既に指定したそうだから。君はサイズを図りに行ってほしいそうだよ」
「ではそこへ伺えば良いんですね。今から伺えば良いでしょうか」
「そう、なんだけど。職人の名前に聞き覚えがあったから調べたんだ。そうしたら腕はともかく
人柄についてあまりいい噂は聞かない。僕も一緒に行けたら良いんだけど」
「ご高名な先生ならきっと気難しい人なんでしょうね」
「誰か一緒について行ってもらおう」

 少し笑って見せてお手伝いさんを一人借りて一緒に車に乗り込む。街中にあるのかと思ったら
そこそこの山道で若干心細くなったけれど。ここまで来て戻れない。

 パーティなんて久しぶり。だけど、一条家のともなると私の知るようなレベルとは違うだろう。
高い着物で着飾って突っ立っていればいいのだろうか。一条家の人はそれが見たいのだろうか。

 智早は大勢の前で私をなんて紹介するんだろう。

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