僕の職業が分からなくなりました

雪那 六花

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 魔王は悪ってのが、僕、藤枝 弦ふじえだ げんが読んだ事のある本の大半の内容で――そんな先入観を持ったまま異世界にトリップしてしまった所為か、勇者として召喚された時、僕は魔王討伐に意気込んた。勿論かなり驚きはしたけど、家庭環境に恵まれなかった所為で元の世界にさほど未練はないし、必要とされるなら頑張ろうと思ったんだ。
 でも、そんな決意を維持出来たのは魔王城の前に立つまでだった。
 いざ行かん! と、意気込んで一歩前に出た瞬間、漆黒の髪をした超絶美形な男が眼前にって立っていたのだから。

「待っていたぞ……! 我の愛し子!」

「え……? え……!?」

 そんな言葉と共に抱きしめられた僕は、間抜けな声を上げるしか出来なかった。しかも、何とかその腕の中から身体を捻る様にして振り返れば、僕と共にこの魔王討伐の旅をしてくれた三人の姿はなかった。恐らくこの抱きついて来ている人物が、何処かに飛ばしてしまったんだとは思うんだけど――何で僕だけ捕まってるの!! 誰か僕にこの状況を説明してくれる人はいませんか……?



「――悪いけど、僕には信用しかねる内容でしかない……」

 確かに説明を求めたけど、受け入れられるかどうかは別問題な訳で――僕の答えはそれだった。だって色々と理解の範疇を超えていた。
 抱き締められた身体からひしひしと感じる魔力からも、黒を身に纏っている所からも、余程高位の魔族だと言う事は理解していたけど、まさかこの目の前の人外美形が魔王本人だったなんて。
 その上、僕を召喚したのは僕に最低限ここで生きて行くのに必要な教養と、供を三人つけて送り出してくれた聖羅国ではなく、魔王自身だと言うし。

「ならばどうすれば信用してくれるのだ? 我はゲンに信用されないのは辛い」

「あの、そもそも何で僕の名前を知ってる訳……?」

 僕はまだ名乗ってもないのに。

「我は、ゲンの事をずっと見ていたのだ。元の世界で生き難そうにしていた事を。それ故に両親の愛を十分に受ける事が出来ていない事を」

「――信用出来るかどうかは、もっと話を聞いてからでもいい? まずは、僕は貴方の名前を聞きたいな」

 向こうでの僕の状況まで知っていると匂わせながら、真摯に訴えてくる魔王に話を聞いてみる価値はある気がして、そう言ったんだけど――それだけで魔王は花が綻ぶと言う表現がぴったりな程、素敵な笑みを浮かべて頷いた。

「勿論だとも。我の名はイシュルヴァ。イシュルヴァ・レノバルク・ラドル――」

 この後にも長々と名前が続いていたけど、僕の耳はそれ以降を聞き取る事を拒否した。

「えっと、呼び方はイシュルヴァ……いや、イシュって呼んでいい?」

 ふとした瞬間に噛みそうで、そんな愛称を提案してみたんだけど――

「ああ、是非ともそう呼んでくれ。その愛称はゲンがつけてくれたのだから、今後もその愛称はゲンにしか呼ばせない……!」

 そんな大げさな!

「あのさ、イシュ、とりあえず、この体勢をどうにかしません……?」

 凄く今更な気がしなくもないが、魔王城の門前で半分抱きつかれた様な状態のまま、これ以上話する様な内容でもないし、仕切り直しを提案した。話が長くなりそうだから。
 ここまで甘んじてこの体勢受けたんだし、言っても許されるよね?



 魔王城の中は清潔感があって、豪勢でありながら過度じゃない。まずそこからして想像とは違った。もっと毒々しい内装を想像していたのに――とは言っても、イシュにこの恐らく応接室であろう部屋に、直接飛ばされたから他の所は知らないんだけど。
 だが、他の魔族の姿は見た。スーザンと言うこれまた超絶美形さんで、薄紫の髪に両サイドに巻き角と言う出で立ちの魔族が待ち構えて居たから。とは言ってもティーセットとお菓子を置いて退室してしまったし、殆ど会話は交わしてない。何故か、イシュがとっても牽制してたし。

「イシュ、僕の事を最初から話してくれない……?」

 逆に僕をイシュが騙してる可能性もない訳じゃないんだから、さっきみたいな断片的な説明じゃなくて、順を追って説明してくれる様に頼む。

「そうさな――」

 イシュは僕を知る事になったきっかけから話し始めた。それは夢だったらしい。イシュが眠るといつも聞こえてくる声があった。とても強い魔力を持った声は、いつも嘆いてた。何度も聞くうちに魔力の波長を覚えたイシュは、国内外を探した。だが、一向に見つからず、ついぞ神に打診し、遠見の水晶を手に入れて異世界にも手を伸ばした。
 そして、やっと見つけたのが僕だったらしい。初めて声を聞いたのが十五年前、僕を見つけたのが七年前。そこからは暇があれば僕の姿を見ていたんだとか。あれ? なんかちょっと怖い。
 僕は両親と兄の四人家族で暮らしていた。四つ上の兄は、優秀でいつも比べられてた。生まれつき身体が強い方じゃなかったし、学校も休みがちで、勉強も中々ついていけなかったから、小さい頃から勝てるものなんて何もなかったけどね。
 だから、両親の関心は兄に向いてて、学校を休んでばっかの僕に仲のいい友達なんて、出来る訳ないしで――いつも僕は独りぼっちだった。育児放棄まではされていなかったけど、確実に愛情不足だったから、口には出さなかったけど、いつも心の中で寂しいと嘆いてた。それがイシュに聞こえたのかもしれない。

「魔素のない地で魔力を持っておるのは毒でしかない。さぞかし辛かったろうな、ゲン。こちらへ喚ぶのが遅くなってすまぬ」

「それは別にイシュが謝る事じゃないよ……?」

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