僕の職業が分からなくなりました

雪那 六花

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 イシュの言う通り、僕はあの地で暮らすには、向かない体質過ぎた。その証拠に、こっちに喚ばれてからは、あの辛かった日々が嘘の様に身体が軽い。聖羅国に着いた当初は、もやしみたいだった見た目も、半年をかけて教養を身に付ける合間にやっていた訓練で筋肉も付き、健康的になったと思う。
 ちなみに魔力の使い方に関しては、オタクの国日本生まれの僕は、想像力には事書かなかったし、魔力も豊潤にあった為に労せず使えたから、最初の魔術の訓練のみで終わってしまった。苦労して魔術を習得すると言うファンタジーの醍醐味を潰された気分だったのは内緒だ。
 そんな魔力チート具合だったからこそ、僕は僕自身を勇者だと思った訳なんだけど――かなり雲行きがあやしい。

「ゲンは何と優しいのだ……! それにしても忌々しい。人族共め」

 前半は笑顔で、後半は眉間に皺を寄せ、剣呑な雰囲気で言葉を発するイシュは随分と器用だな――なんて呑気な事を思いながら、イシュが続きを語ってくれるのを待った。だって、まだ一番肝心な部分を聞いてない。

「我が手順を踏んで、ようやくゲンを喚び寄せ、この城に召喚しようとした瞬間、人族からの横槍を受けたのだ」

 こちらの神と交渉し、向こうを管理してる神に話をつけ、僕が憂いを帯びぬ様、それから、どちらの世界にも混乱が起きぬ様にとイシュは行動したらしい。具体的に言うと、僕は向こうの世界では死んだ事になってて、こちらの世界には弾かれない様に神からのお墨付きを貰ったって事らしいんだけど。それって、神様の加護があったりなんかするって事かな? 何それ、やっぱり僕はチートなの?
 そうして、準備万端にイシュが僕をこちらに喚んでいる最中、聖羅国が世界の扉を開ける事に成功してしまい、僕はその扉に吸い込まれてしまった――と。

「それは、何と言うか……横槍って言うより、横取りかも……?」

 だって、聖羅国は実際には異世界召喚なんて出来てなくて、扉を開けただけなんて。聖羅国の人間の誰もがその事実におそらく気付いてないだろうと言うのが、また厄介な所らしい。それって、僕がもし帰らなかったら同じ魔法陣でまた召喚を試みるかもって事? それは問題ないんだろうか?
 そんな事を考えてしまった所為で、すっかり僕の頭からは、イシュがなんて言って抱きついてきたのか――いや、抱きついてきた事すら、すっかり抜け落ちていた。これをこの時、ちゃんと覚えていたなら、僕は少し違う未来を歩んでいたかもしれない。



「――ん……?」

 寝返りを打った拍子に何かに当たった気がして目を開くと、僕の顔を覗き込む様に見ている人物がいる。もしかしなくても、僕はさっきまで懐かしい夢を見ていたらしい。イシュとの出会いを。

「あ、イシュ……おはよう」

 やはり、覗き込んでいたのは、夢に出て来ていたイシュだった。
 勇者としてここまで魔王を討伐に来たはずなのに、その日からその魔王の庇護の元、魔王の自室で生活してる。異世界に来た時も思った事だけど、本当に人生って何があるかわからない。

「ああ。おはよう、弦。今日も可愛いぞ。我が仕事に行きたくなくなるくらいに」

「何言ってるの!? 行かなきゃ駄目に決まってるでしょ!」

 ウトウトと二度寝を考えていた僕だけど、イシュの後半の言葉に文字通り飛び起きた。前半の甘い台詞には、恥ずかしがったら、負けなんだ。スルーするのが一番被害が少ない。二年の歳月の間に学んだ。

「…………やはり、駄目か。仕方ない、我は仕事に行くが、良い子で待っているのだぞ?」

 僕の方を見て、イシュはしばらく無言の訴えをして居たけど、僕が折れないと踏んだのか、渋々ベッドから降りた――と同時に振り向いてきて、僕の唇を奪うイシュ。当然の様に舌まで絡ませてくるイシュに僕は翻弄されて、されるがままになるしかない。

「――んン!? ふ、ぅ……ぁ……」

 散々貪って満足したのか、ようやく離れたイシュの顔を僕は直視する事は出来なかった。むしろ全力で見られない様に隠した。だって僕の顔は今真っ赤だろうし、目も潤んでるはずだ。そんな顔をイシュに見せるとか恥ずかしすぎる。



「――やっぱり僕は、そろそろイシュに応えた方が良いのかな……?」

 イシュが部屋を出てからしばらくして入って来たスーザンに僕は問い掛けた。僕がこの城に来た日からスーザンは僕の世話係に任命されてて、今もこうして僕にお茶を入れてくれてる。
 それだけではなくて、僕が聖羅国で学んだ事の補正や、魔族寄りの知識なんかも教えてくれる教育係でもあるんだけど。と言うか、多分そっちがメインなはず。

「ゲン様が、王に応える気がお有りならば、そうされた方がよろしいかと」

  スーザンの返答は全くもって答えになっていない。僕は決めきれないから聞いてるのに。
 でも、それは当たり前かもしれない。僕さえいなければスーザンは魔王の側近として、今もイシュの隣で仕事をこなしてるはずなんだ。

「そもそも私には、ゲン様がどうして尻込みしているのか分かりかねます」

「――え? スーザン反対してないの?」

 僕、邪魔者でしかないと思ってたのに。

「王の態度を鑑みれば、反対するだけ無駄で御座いましょう。魔族には、魔力に呼ばれて相手に酔う。と言う言葉が御座います。ゲン様のお国の言葉で言うと運命の相手に当たりますかね」

 スーザンから色々と学ぶ時は、礼とばかりに僕は向こうの知識を聞かれるままに伝えていたから、スーザンはかなりの日本通になってる。そんなスーザンがそう言うんだから、そうなんだろうけど――僕がイシュの運命の相手……? 本当に……?
 それなりに好かれてる自覚はあった。でも、まさかそこまで思われてるとは考えてなかった。僕の幼少期をひたすら眺められてたと言われた時は、ストーカー!? と引いちゃったりもしたけど、今はどちらかと言うと、ペットを愛でる感覚なんじゃないかと思ってた。
 スーザンが教えてくれた知識には、魔物と魔族は別物だとか、魔王が世襲制じゃ無い事とか、そんな魔族にとっての常識のすぎるものの他に、魔族は同性恋愛も多いと言うものもあった。
 だから、男なのに? なんて言うつもりはないけど、こんな平々凡々な顔をした僕を選ばなくても、魔族は美形を選り取り見取りだよ?

「――どうやら、我が王はスキンシップも中途半端なら、コミュニケーションは空回り。相当拗らせておられる様ですね。王には伝えておきますので、今夜にでも改めて話し合いをなされてはいかがでしょう、ゲン様。それまでにゲン様も自分の気持ちを改めて見つめ直すのがよろしいかと」

 僕の顔をしばらく眺めた後、溜息を吐きながら、そう言ったスーザンは、部屋を出て行ってしまった。



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