4 / 14
窓際のクレマチス
……うん、分かってるよ。
しおりを挟む
「……約束、とは何のことでしょう? お嬢様」
「あら、まだとぼけるつもり?」
「……いえ、そういうわけでは……」
……うん、分かってるよ。お嬢様の言いたいことは。分かってるけど、それでも……
『――ごめんなさい、藍良さん。貴方の気持ちには応えられないわ。だって、私が好きなのは貴方なのだから』
かつて、あどけない笑顔で告げられたお嬢様の言葉。どうか、兄さんだけを見てほしい――そう懇願した僕に対する、お嬢様の言葉。
「――あの日、まだ子どもである私とそういうことはできないと貴方は言った。だったら、私が大人になったら応じて下さるということよね? 婚姻という社会的儀礼を経て、今や立派な大人となった私であれば、応じて下さるということよね?」
「……それは」
そう、柔らかな微笑みで尋ねるお嬢様。だけど、煌々と輝くその瞳は決して僕を逃がさない。
……実際、具体的な約束など何一つしていない。だけど、年齢を理由に先延ばしにするくらいしかできなかった。それは、そもそも僕の立場が圧倒的に下であること以上に――
「……その、例えばですが……僕が芳しい返答をしなかった場合、どうなるのでしょう?」
「……そうね、それは残念だけど、致し方のないことね。押し付けるわけにはいかないもの」
「……でしたら、その――」
「――でも、他ならぬ貴方から拒絶されたとなれば私も平静ではいられないでしょう。明日の夕方頃、職務からお帰りになるであろう柑慈さんに対し、平生どおり振る舞えるとは正直思えません。そうなれば、優しい彼はそんな私を心配して話を聞こうと――」
「――いえいえ、拒絶なんてするわけないではありませんかお嬢様! ……その、ちょっと尋ねてみたかっただけでして……」
「あら、それなら良いのだけど。それにしても、流石に意地悪が過ぎるわよ藍良さん」
「……はは、申し訳ありません」
莞爾とした微笑みを浮かべ滔々と話すお嬢様に対し、たどたどしく謝意を伝える僕。……そう、それだけは絶対に駄目だ。兄さんを傷付けることだけは、絶対に――
「あら、まだとぼけるつもり?」
「……いえ、そういうわけでは……」
……うん、分かってるよ。お嬢様の言いたいことは。分かってるけど、それでも……
『――ごめんなさい、藍良さん。貴方の気持ちには応えられないわ。だって、私が好きなのは貴方なのだから』
かつて、あどけない笑顔で告げられたお嬢様の言葉。どうか、兄さんだけを見てほしい――そう懇願した僕に対する、お嬢様の言葉。
「――あの日、まだ子どもである私とそういうことはできないと貴方は言った。だったら、私が大人になったら応じて下さるということよね? 婚姻という社会的儀礼を経て、今や立派な大人となった私であれば、応じて下さるということよね?」
「……それは」
そう、柔らかな微笑みで尋ねるお嬢様。だけど、煌々と輝くその瞳は決して僕を逃がさない。
……実際、具体的な約束など何一つしていない。だけど、年齢を理由に先延ばしにするくらいしかできなかった。それは、そもそも僕の立場が圧倒的に下であること以上に――
「……その、例えばですが……僕が芳しい返答をしなかった場合、どうなるのでしょう?」
「……そうね、それは残念だけど、致し方のないことね。押し付けるわけにはいかないもの」
「……でしたら、その――」
「――でも、他ならぬ貴方から拒絶されたとなれば私も平静ではいられないでしょう。明日の夕方頃、職務からお帰りになるであろう柑慈さんに対し、平生どおり振る舞えるとは正直思えません。そうなれば、優しい彼はそんな私を心配して話を聞こうと――」
「――いえいえ、拒絶なんてするわけないではありませんかお嬢様! ……その、ちょっと尋ねてみたかっただけでして……」
「あら、それなら良いのだけど。それにしても、流石に意地悪が過ぎるわよ藍良さん」
「……はは、申し訳ありません」
莞爾とした微笑みを浮かべ滔々と話すお嬢様に対し、たどたどしく謝意を伝える僕。……そう、それだけは絶対に駄目だ。兄さんを傷付けることだけは、絶対に――
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる