噂によると、女性がお嫌いとのことですが――それって、私も含まれていますか?

暦海

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心からの笑顔で

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「……あの、先輩。本当に、大丈夫ですか?」
「はい、もちろんです八雲やくもさん。ちゃんと湿布を二枚も貼りましたし。それよりも、八雲さんの方こそ大丈夫ですか?」
「……いや、実際に見たわけではないので断言はしかねますが……どう考えても、湿布だけでどうにかなる怪我ではないですよね?」


 それから、数十分後。
 私の問いに、事も無げに微笑み答える外崎とざき先輩。ですが……いや、流石に湿布だけでどうにかなる怪我じゃないでしょ。……まあ、それでもこの様子だと思ったほどの酷い怪我ものではなさそうでそこはあんし……うん、ほんとに無理してないよね? 


 ともあれ、私達がいるのは柔らかな和が心地好い素敵なお部屋――もう随分とご無沙汰の気がする、外崎先輩のお部屋で。

 ……ただ、それはそれとして――

「はい、私も大丈夫ですよ。先輩が、心を込めて治療してくれましたから。愛の力で完全回復です」
「……へっ? いえ、僕が用いたのは典型的な痣の治療法であり愛の力ではな――」
「いや真面目に答えないで! なんかすっごい恥ずかしいから!」

 先ほどの問いに冗談を交えつつ答えると、きょとんとした表情で何とも真面目ことを言う先輩。……うん、そうだった。わりと天然でしたね、この人。ここ最近は状況が状況だっただけに、すっかり忘れてましたけど。

 ……ところで、冗談とは言いましたが……うん、あながち冗談そうでもないか。流石に、まだ完全とは言えませんが……それでも、先輩の治療なら私はすぐさま回復してしまいそうですし。



「……それにしても、ほんと良かったですよね。あのタイミングに、優しい人が通ってくれて」
「……はい、本当に。後日、改めてお礼に伺おうと思います」  
「では、その時は私も一緒に行って良いですか?」
「はい、もちろんです八雲さん」

 そう、ほのぼのとやり取りを交わす。何の話かと言うと――ここ外崎家まで、私達を車で送ってくれた親切な人に関してで。


 あの後、外崎家こちらへ戻ろうとするも――前述の通り先輩は背中、私は両足に怪我をしていて。尤も、あの激痛は一瞬だけで、その後は歩けないほどじゃなかったんだけど……それでも、流石に山中を降りていくにはやっぱりきつくて。
 
 すると、そんな窮地の最中さなかまさかの救いの手が。山道さんどうに出た辺りで、不意にどうしたのかと尋ねられて。見ると、心配そうな表情かおで車から顔を出す男性。彼――岩崎いわさきさんもまたこの山中に住んでいるそうで、ご自宅に戻る途中だったとのこと。

 それで、事情を――とは言え、流石にそのままお話しするわけにもいかないので断片的に説明したところ、優しく微笑み私達を乗せてくださって……うん、ほんとにありがとうございます。


 …………ですが、


「……ですが、私が感謝しているのは岩崎さんだけではありません。あの時、私を背負ってくださりありがとうございます、外崎先輩」
「……いえ、僕は何も……背負ったと言っても、たった数分だけですし」
「……それでも、ですよ。ご自身も浅くないであろうお怪我をしているのに、それでも私のために……私、すごく嬉しかったんですよ?」
「……八雲さん」

 そう、改めて感謝を告げる。あの後――先輩を抱き締めつつ決意を伝えた後、さてそろそろ帰ろうかとなったわけですが……まあ、二人ともまともに歩ける状態でなく。

 ですが……それでも、彼は私を背負うと申し出てくれました。私の怪我の方が酷いからと、自身の怪我も顧みず私を背負い歩いて――

 ……尤も、彼を想うなら本来お断りすべきところではあったのですが……まあ、実際ほとんど動けなかったですし、それに……うん、きっとまたとない機会ですし。


 ……ところで、それはそれとして――


「……ところで、外崎先輩。おおかた予想はついていますが……あの人の言ってた、あの約束と言うのは……」

 そう、躊躇いがちに尋ねる。……まあ、おおかたの予想はついていますが――

「……はい。会社での父の地位を保証してくださる、という約束ものです。……もちろん、僕が彼女の意に背かなければ、という前提ではありますが」
「……ですよね」

 すると、仄かに微笑み答える先輩。……まあ、そうですよね。そもそも、最初からその件で弱みを握られていたわけですし。

 ……ですが、それなら――

「……あの、本当に今更ではありますが……その、本当に大丈夫なのですか? このままでは、貴方のお父さまが……」

 そう、逡巡しつつ尋ねる。……まあ、本当に今更ではあるのですが……それでも、やはりそこが目下最たる懸念なわけで――

「……そう、ですね。両親には、申し訳ないことをしたと思っています」
「……先輩」
「……ですが、両親には重ねて申し訳ないですが――それでも、後悔はしていません。これが、大好きな二人に辛い思いを強いる決断だとしても……それでも、僕は選んだ。明確に自分自身の意志で、貴女のことを選んだのです――八雲さん」




「…………先輩」

 そう、真っ直ぐに私を見つめ告げる外崎先輩。そんな彼に、私は申し訳なく……それでも、俄に胸が熱くなるのを自覚せずにはいられなくて――


「――ですが、どうかお気になさらないくださいね八雲さん。それに、よくよく考えればそちらに関してはどうにかなります。そもそも、父が昇進を喜んでいたのは自身よりも母や僕のため……ならば、父が自分を責めないよう二人で父を説得すれば良いのですから」
「……外崎、先輩」

 すると、ふっと微笑みそう告げる。私の大好きな、優しく暖かな笑顔で。そんな彼に未だ申し訳なさを覚えつつも、心からの笑顔で頷いた。




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