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……そもそも、私は――
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「――ありがとうございます、先輩。生涯、心に残るであろう一時でした」
「ふふっ、大袈裟ですよ八雲さん。ですが、こちらこそありがとうございます。八雲さんと花火を見ることが出来て、僕の方こそ生涯忘れられない一時に……そう思うと、大袈裟でもないかもしれませんね」
それから、数十分経て。
先輩の部屋に戻った後、ほのぼのとそんなやり取りを交わす私達。クスッと可笑しそうに微笑む先輩が、可愛くてたまらない。ほんと、油断するとうっかり押し倒してしま――
「……ところで、八雲さん。こちらもつかぬことをお伺いしますが……その、いかがなさいました?」
そんなはしたない思考の最中、少し躊躇いがちに尋ねる先輩。きっと、ずっと気になってはいたのでしょう。数十分前から、どこかソワソワしている私の様子を。
ですが……いや、平静でいろというのも中々に無理な話でしょう? だって……だって、二人っきりですよ二人っきり! こんな時間に、男と女が二人っきり! これは……うん、お泊まりですよね? ええ、お泊まりでしょう! だってほら、歩けないですし、私!
「…………あっ」
すると、ハッとした表情で声を出す先輩。恐らくは私の様子――このソワソワした様子の理由に思い当たったのでしょう。それから、徐に口を開いて――
「……あの、どうかご心配なさらないでください八雲さん。もちろん、元よりタクシーでご自宅までお送りする所存で――」
「いえそれはなりません! 私、タクシーに乗ると蕁麻疹が出てしまう体質なので!」
「ええっ!?」
「宜しければどうぞ、八雲さん」
「……ありがとうございます、先輩」
それから、ほどなくして。
そう、穏やかな微笑で告げる先輩。その手には、柾目の美しい桧木のマグカップ。中身は、芳醇な香り漂うココア。……うん、暖かくて美味しい。
その後、暫く他愛もない話を交わす私達。こんな他愛もない時間が、この上もなく心地好い。これからも、こんな陽だまりのような日々がずっと、ずっと――
「……ところで、随分と今更はありますが……本当にありがとうございます、八雲さん」
「…………へっ?」
卒然、思いも寄らない言葉が届く。いえ、この言葉自体は幾度となく頂いているのですが……ですが、いったいどうしてこのタイミングで――
「……貴女は、きっと苦しかったはず。女性に対し、底知れぬ嫌悪や恐怖を抱く僕のような男と共に時間を過ごすことは、本当に苦しかったはずなのです。僕が貴女の立場であれば、苦痛のあまり自ら関係を絶っていたかと思います」
「……先輩」
「……それでも、貴女は離れなかった。更には、一緒に苦しみ寄り添うとまで言ってくださった。そんな強く優しい貴女に、僕がどれほど救われたか……だから、今更ながら、本当にありがとうございます……八雲さん」
そう、真摯な瞳で告げる外崎先輩。そんな彼を見つめながら、心の中にじんわり熱が広がっていくのを感じます。そして、そんな暖かな心地の中、ゆっくりと口を開き言葉を紡ぎます。
「……ありがとうございます、先輩。ですが、気にする必要はありませんよ。だって……そもそも、私はそんな貴方に強く惹かれたのですから」
「…………へっ?」
「ふふっ、大袈裟ですよ八雲さん。ですが、こちらこそありがとうございます。八雲さんと花火を見ることが出来て、僕の方こそ生涯忘れられない一時に……そう思うと、大袈裟でもないかもしれませんね」
それから、数十分経て。
先輩の部屋に戻った後、ほのぼのとそんなやり取りを交わす私達。クスッと可笑しそうに微笑む先輩が、可愛くてたまらない。ほんと、油断するとうっかり押し倒してしま――
「……ところで、八雲さん。こちらもつかぬことをお伺いしますが……その、いかがなさいました?」
そんなはしたない思考の最中、少し躊躇いがちに尋ねる先輩。きっと、ずっと気になってはいたのでしょう。数十分前から、どこかソワソワしている私の様子を。
ですが……いや、平静でいろというのも中々に無理な話でしょう? だって……だって、二人っきりですよ二人っきり! こんな時間に、男と女が二人っきり! これは……うん、お泊まりですよね? ええ、お泊まりでしょう! だってほら、歩けないですし、私!
「…………あっ」
すると、ハッとした表情で声を出す先輩。恐らくは私の様子――このソワソワした様子の理由に思い当たったのでしょう。それから、徐に口を開いて――
「……あの、どうかご心配なさらないでください八雲さん。もちろん、元よりタクシーでご自宅までお送りする所存で――」
「いえそれはなりません! 私、タクシーに乗ると蕁麻疹が出てしまう体質なので!」
「ええっ!?」
「宜しければどうぞ、八雲さん」
「……ありがとうございます、先輩」
それから、ほどなくして。
そう、穏やかな微笑で告げる先輩。その手には、柾目の美しい桧木のマグカップ。中身は、芳醇な香り漂うココア。……うん、暖かくて美味しい。
その後、暫く他愛もない話を交わす私達。こんな他愛もない時間が、この上もなく心地好い。これからも、こんな陽だまりのような日々がずっと、ずっと――
「……ところで、随分と今更はありますが……本当にありがとうございます、八雲さん」
「…………へっ?」
卒然、思いも寄らない言葉が届く。いえ、この言葉自体は幾度となく頂いているのですが……ですが、いったいどうしてこのタイミングで――
「……貴女は、きっと苦しかったはず。女性に対し、底知れぬ嫌悪や恐怖を抱く僕のような男と共に時間を過ごすことは、本当に苦しかったはずなのです。僕が貴女の立場であれば、苦痛のあまり自ら関係を絶っていたかと思います」
「……先輩」
「……それでも、貴女は離れなかった。更には、一緒に苦しみ寄り添うとまで言ってくださった。そんな強く優しい貴女に、僕がどれほど救われたか……だから、今更ながら、本当にありがとうございます……八雲さん」
そう、真摯な瞳で告げる外崎先輩。そんな彼を見つめながら、心の中にじんわり熱が広がっていくのを感じます。そして、そんな暖かな心地の中、ゆっくりと口を開き言葉を紡ぎます。
「……ありがとうございます、先輩。ですが、気にする必要はありませんよ。だって……そもそも、私はそんな貴方に強く惹かれたのですから」
「…………へっ?」
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