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思わぬご来訪?
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――それから、およそ一週間後。
「――あの、すみません。優星の気持ちを忘れさせようとしている、というのは本当ですか?」
「……へっ?」
種々の虫達の鳴き声が心地好く鼓膜を揺らす、ある麗らかなお昼頃。
店内にお迎えするやいなや、じっと私を見つめお尋ねになるお客さま。鮮やかな栗色の髪を纏う、華やかな雰囲気の若い女性で。そして、このお言葉から察するに優星さんのお知り合い……それも、近しい間柄と考えて差し支えないでしょう。きっと、ご友人かなにかで――
「――すみません、挨拶が遅れました。初めまして、私は双葉――優星の婚約者です」
「…………へっ?」
思いも寄らない彼女の――双葉さんのお言葉に、思わずポカンと声が零れる。……えっと、婚約者? ということは、彼女は優星さんと結婚を……ですが、そもそも彼は――
「……まあ、婚約者といっても最近……ほんの一ヶ月に決まったばかりですけどね。ちなみに、正式に籍を入れるのは来年の四月です」
「……そう、なのですね」
すると、補足するようにお話しする双葉さん。……なるほど、一ヶ月前……うん、それなら納得です。優星さんの恋人がお亡くなりになったのは、もう二年も前のこと。それ以降、新たな縁を結ぼうとしない彼のためを思い、彼の親御さんが内密に縁談を進めていた可能性は十分に考えられます。あるいは、元よりこの時期に合わせ婚約のお話を進めていた可能性もあるでしょう。恐らくは大学を卒業し、何かしらの仕事に就いているであろう来年の四月という時期に合わせて。
……まあ、いずれにせよ彼自身の意思でないことは間違いないでしょう。それは、優星さんが双葉さんを気に入らないから、というわけではなく――誠実な彼のお人柄ゆえ、亡き恋人の方への想いが強く残っている今のご状態で他の方との結婚を申し出るとは到底考えられないですし。
「……それで、話を戻しますが――もし、それが本当なら今すぐ止めてくれませんか? 優星自身の希望だということは知ってますし、なので私がこんなことを言うのも筋違いだとは分かっています。それでも……その人にとっての大切な想いを無理やり忘れさせるなんて、絶対にあってはならないことだと思うので」
「…………」
すると、鋭く私を見つめ告げる双葉さん。そんな彼女を見つめながら、ぐっと口を結ぶ私。……ええ、反論の余地もありません。そもそも、優星さん自身のご希望とはいえ、私だってまだ納得は――
「……あれ、双葉?」
すると、ふと鼓膜を揺らす柔らかな声。双葉さんとのやり取り、あるいは思考に集中していたためか鈴の音が聞こえなかったようで。ともあれ、そこにいたのは……たった今、まさしく話題の中心となっていた柔らかな雰囲気の男性で。
「……ゆ、優星。その、これは……」
すると、ややあって少し慌てた様子で言葉を紡ぐ双葉さん。ですが、一度深く呼吸をした後――
「……ねえ、優星。やっぱりダメだよ。もちろん、すごく辛いのは分かるけど……それでも、自然にならともかく、無理やり忘れるなんて……」
「……心配してくれてありがとう、双葉。でも……ごめん。僕は、どうしても忘れたいんだ。あの人のことを」
「……優星」
そう、優星さんを真っ直ぐに見つめお話しになる双葉さん。そして、そんな彼女に優しく微笑みお答えになる優星さん。それから、少しの沈黙の後――
「……今日は、もう帰るね。それから、すみません店員さん。注文すらしないのに、ただ文句だけ言いにきてしまって。……今度は、ちゃんとお客として来ますので」
「あっ、いえそんな! ……ですが、いつでもお待ちしておりますね、双葉さん」
「……なんか、変な子だね、貴女。……でも、ありがとね店員さん」
すると、謝罪と共に踵を返し去っていこうとする双葉さん。そんな彼女に、少し緊張しつつその背中に言葉を掛ける。なにせ、許可もないのに名前で呼んでいるわけなので。尤も、少しでも不快なご様子をお見せになったらすぐさま謝るつもりでしたが……少し可笑しそうに微笑むそのご表情、そして最後のお言葉からもご気分を害していないことは伝わって……ふぅ、よかった。
「――あの、すみません。優星の気持ちを忘れさせようとしている、というのは本当ですか?」
「……へっ?」
種々の虫達の鳴き声が心地好く鼓膜を揺らす、ある麗らかなお昼頃。
店内にお迎えするやいなや、じっと私を見つめお尋ねになるお客さま。鮮やかな栗色の髪を纏う、華やかな雰囲気の若い女性で。そして、このお言葉から察するに優星さんのお知り合い……それも、近しい間柄と考えて差し支えないでしょう。きっと、ご友人かなにかで――
「――すみません、挨拶が遅れました。初めまして、私は双葉――優星の婚約者です」
「…………へっ?」
思いも寄らない彼女の――双葉さんのお言葉に、思わずポカンと声が零れる。……えっと、婚約者? ということは、彼女は優星さんと結婚を……ですが、そもそも彼は――
「……まあ、婚約者といっても最近……ほんの一ヶ月に決まったばかりですけどね。ちなみに、正式に籍を入れるのは来年の四月です」
「……そう、なのですね」
すると、補足するようにお話しする双葉さん。……なるほど、一ヶ月前……うん、それなら納得です。優星さんの恋人がお亡くなりになったのは、もう二年も前のこと。それ以降、新たな縁を結ぼうとしない彼のためを思い、彼の親御さんが内密に縁談を進めていた可能性は十分に考えられます。あるいは、元よりこの時期に合わせ婚約のお話を進めていた可能性もあるでしょう。恐らくは大学を卒業し、何かしらの仕事に就いているであろう来年の四月という時期に合わせて。
……まあ、いずれにせよ彼自身の意思でないことは間違いないでしょう。それは、優星さんが双葉さんを気に入らないから、というわけではなく――誠実な彼のお人柄ゆえ、亡き恋人の方への想いが強く残っている今のご状態で他の方との結婚を申し出るとは到底考えられないですし。
「……それで、話を戻しますが――もし、それが本当なら今すぐ止めてくれませんか? 優星自身の希望だということは知ってますし、なので私がこんなことを言うのも筋違いだとは分かっています。それでも……その人にとっての大切な想いを無理やり忘れさせるなんて、絶対にあってはならないことだと思うので」
「…………」
すると、鋭く私を見つめ告げる双葉さん。そんな彼女を見つめながら、ぐっと口を結ぶ私。……ええ、反論の余地もありません。そもそも、優星さん自身のご希望とはいえ、私だってまだ納得は――
「……あれ、双葉?」
すると、ふと鼓膜を揺らす柔らかな声。双葉さんとのやり取り、あるいは思考に集中していたためか鈴の音が聞こえなかったようで。ともあれ、そこにいたのは……たった今、まさしく話題の中心となっていた柔らかな雰囲気の男性で。
「……ゆ、優星。その、これは……」
すると、ややあって少し慌てた様子で言葉を紡ぐ双葉さん。ですが、一度深く呼吸をした後――
「……ねえ、優星。やっぱりダメだよ。もちろん、すごく辛いのは分かるけど……それでも、自然にならともかく、無理やり忘れるなんて……」
「……心配してくれてありがとう、双葉。でも……ごめん。僕は、どうしても忘れたいんだ。あの人のことを」
「……優星」
そう、優星さんを真っ直ぐに見つめお話しになる双葉さん。そして、そんな彼女に優しく微笑みお答えになる優星さん。それから、少しの沈黙の後――
「……今日は、もう帰るね。それから、すみません店員さん。注文すらしないのに、ただ文句だけ言いにきてしまって。……今度は、ちゃんとお客として来ますので」
「あっ、いえそんな! ……ですが、いつでもお待ちしておりますね、双葉さん」
「……なんか、変な子だね、貴女。……でも、ありがとね店員さん」
すると、謝罪と共に踵を返し去っていこうとする双葉さん。そんな彼女に、少し緊張しつつその背中に言葉を掛ける。なにせ、許可もないのに名前で呼んでいるわけなので。尤も、少しでも不快なご様子をお見せになったらすぐさま謝るつもりでしたが……少し可笑しそうに微笑むそのご表情、そして最後のお言葉からもご気分を害していないことは伝わって……ふぅ、よかった。
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