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祈り
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「……それにしても、本当に驚いたよ。まさか、惟近にそのような相手が」
「ふふっ、私もたいそう驚きました。それまで光里はそのような色を見せなかったので、些か心配していたのですが……それにしても、そのお相手で惟近さんのような素敵な方で良かったです」
「それはこちらも同じです、姫さま。惟近の想うお相手が、光里さんのような素敵な方で良かった」
穏やかな陽射しの中、無邪気な二人を眺めながら会話を交わす姫さまと私。尤も、今や妻なのだし他に適切な呼び方があるのかもしれないが……それでも、どうにもこの呼び方が最もしっくりきてしまって。
ともあれ、畢竟どういうことなのかと言うと――それは、姫さまから届いたあの文が全ての始まりで。
【――卒然のお手紙、失礼致します。中将さまに、折り入ってお話があります。光里という、昔から私に仕えてくれている少女がいるのですが――実は、彼女が貴方にお仕えなさっている素敵な青年、惟近さんを恋い慕っているようなのです。尤も、どこでお知り合いになったのかは定かでないですが――きっと、然るべきご縁があったのでしょう。そして、私の見る限り、彼もまた光里のことを――
――そこで、ご提案があります。私達が夫婦となることで、お二人が共にいられるようにしませんか? ……尤も、私達自身も常に共にいられるわけではないでしょうから、必然私達に仕える二人も常に共にいられるわけではないでしょうけれど……それでも、文を届ける際にしか会話を交わせなかった今までに比べ、二人で過ごす時間は格段に増えるのは間違いありません。
互いに恋心のない、不自然な婚姻だとは重々承知しております。ですが、中将さまは必ずや承諾してくださると確信すら抱いております。何故なら――惟近さんを見つめる貴方の瞳は、私のそれと同じものだと確信を抱いているからです】
「……それにしても、改めてですが当初は本当に驚きました。私の見落としかもしれないけど、そのような素振りなどまるで見せなかったので」
「ふふっ。それは、きっと気を遣っていたのではないですか? 主である中将さまが、未だ良いご縁に恵まれていないのに従者である自分が先に、と。あるいは、単純に気恥ずかしかったのかもしれませんが」
「ふふっ、そうですね」
そう、ほのぼのと話す私達。衝撃の文を受け取った私は、真相を確認すべく惟近へと文を渡し姫さまの下へ届けにいってもらった。そして、端ないとは承知の上で跡をつけてみると、そこには可憐な少女と仲睦まじく話す惟近の姿。そんな彼の姿に、流石に認めないわけにはいかなかった。――姫さまの言葉が、紛れもなく真実であると。
他ならぬ、大切な従者の幸せ。苦痛など、微塵もあるはずがない――きっと、そう言ってしまえば嘘になる。
だけど、不思議と迷いはなかった。互いの願いがピタリと重なり、逢瀬を重ねた姫さまと私。そして、今や二人は……うん、本当に良かった。これで、私自身も――
「――中将さま、姫さま! 是非、お二人もこちらに来ませんか?」
すると、不意に届いた朗らかな声。見ると、そこには太陽よりも眩い笑顔を見せる青年と少女。その無邪気な笑顔――そして、仲睦まじそうな様子に姫さまと二人顔を合わせ笑い合う。
……ありがとう、惟近。ずっと、私のそばにいてくれて。ずっと、私を支えてくれて。そして、願わくばこれからもそばにいてほしい。そして、願わくば――
「――ふふっ、そうだね。すぐ行こう」
……どうか、これからもずっと、ずっと笑っていてくれないか……惟近。
「ふふっ、私もたいそう驚きました。それまで光里はそのような色を見せなかったので、些か心配していたのですが……それにしても、そのお相手で惟近さんのような素敵な方で良かったです」
「それはこちらも同じです、姫さま。惟近の想うお相手が、光里さんのような素敵な方で良かった」
穏やかな陽射しの中、無邪気な二人を眺めながら会話を交わす姫さまと私。尤も、今や妻なのだし他に適切な呼び方があるのかもしれないが……それでも、どうにもこの呼び方が最もしっくりきてしまって。
ともあれ、畢竟どういうことなのかと言うと――それは、姫さまから届いたあの文が全ての始まりで。
【――卒然のお手紙、失礼致します。中将さまに、折り入ってお話があります。光里という、昔から私に仕えてくれている少女がいるのですが――実は、彼女が貴方にお仕えなさっている素敵な青年、惟近さんを恋い慕っているようなのです。尤も、どこでお知り合いになったのかは定かでないですが――きっと、然るべきご縁があったのでしょう。そして、私の見る限り、彼もまた光里のことを――
――そこで、ご提案があります。私達が夫婦となることで、お二人が共にいられるようにしませんか? ……尤も、私達自身も常に共にいられるわけではないでしょうから、必然私達に仕える二人も常に共にいられるわけではないでしょうけれど……それでも、文を届ける際にしか会話を交わせなかった今までに比べ、二人で過ごす時間は格段に増えるのは間違いありません。
互いに恋心のない、不自然な婚姻だとは重々承知しております。ですが、中将さまは必ずや承諾してくださると確信すら抱いております。何故なら――惟近さんを見つめる貴方の瞳は、私のそれと同じものだと確信を抱いているからです】
「……それにしても、改めてですが当初は本当に驚きました。私の見落としかもしれないけど、そのような素振りなどまるで見せなかったので」
「ふふっ。それは、きっと気を遣っていたのではないですか? 主である中将さまが、未だ良いご縁に恵まれていないのに従者である自分が先に、と。あるいは、単純に気恥ずかしかったのかもしれませんが」
「ふふっ、そうですね」
そう、ほのぼのと話す私達。衝撃の文を受け取った私は、真相を確認すべく惟近へと文を渡し姫さまの下へ届けにいってもらった。そして、端ないとは承知の上で跡をつけてみると、そこには可憐な少女と仲睦まじく話す惟近の姿。そんな彼の姿に、流石に認めないわけにはいかなかった。――姫さまの言葉が、紛れもなく真実であると。
他ならぬ、大切な従者の幸せ。苦痛など、微塵もあるはずがない――きっと、そう言ってしまえば嘘になる。
だけど、不思議と迷いはなかった。互いの願いがピタリと重なり、逢瀬を重ねた姫さまと私。そして、今や二人は……うん、本当に良かった。これで、私自身も――
「――中将さま、姫さま! 是非、お二人もこちらに来ませんか?」
すると、不意に届いた朗らかな声。見ると、そこには太陽よりも眩い笑顔を見せる青年と少女。その無邪気な笑顔――そして、仲睦まじそうな様子に姫さまと二人顔を合わせ笑い合う。
……ありがとう、惟近。ずっと、私のそばにいてくれて。ずっと、私を支えてくれて。そして、願わくばこれからもそばにいてほしい。そして、願わくば――
「――ふふっ、そうだね。すぐ行こう」
……どうか、これからもずっと、ずっと笑っていてくれないか……惟近。
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