お后さまの召使い

暦海

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不敵な少女?

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 ――さて、前述の通り月夜つくよさま厳選の優雅な衣装を纏い廊下を歩いているのだけど――


(……ねえ、あの人が)
(……ええ、例の……)
(……確かに、頗るお綺麗だけど……いったい、どういうつもりなのかしら。どこの家柄かも知れない新参者を傍に置くなんて……まあ、あの女にはお似合いだけど)


 その最中さなか、そこかしこから届くヒソヒソ声。さっと見渡すと、他のお后さま方々がこちらをチラチラと見つつ声を潜め……いや、まあ聴こえてるし……恐らくは、聴こえるように言っているのだろう。そして、その対象は僕というより――



「……あの、月夜さま。その、申し訳ありません」
「いや、なぜ貴方が謝るのですか。悪いことなど何もしていないのに」
「……それは、そうかもしれませんが……」


 それから、ほどなくして。
 色とりどりの花が咲き誇る雅な庭園にて、たどたどしく謝意を告げる僕。すると、そんな僕に何処か呆れたように微笑み答える月夜さま。……まあ、そうかもしれないのだけど、それでも――

「――まあ、伊織いおりらしい気遣いだとは思いますが……ですが、ご心配には及びません。どころか、先ほどのは随分とマシな方ですよ。以前はもっと直接的な悪口や嫌がらせも日常茶飯事でしたから。なのに、今日この程度で済んだのは貴方がいてくれたから……だから、ありがとうございます。伊織」
「……月夜さま」

 すると、仄かに微笑み告げる月夜さま。……まあ、そう言われてしまえば謝るのも却って申し訳ない気も――


「――あら、ご機嫌よう桐壺きりつぼさん?」


 すると、不意に後方から届いた声。ハッと驚き振り返ると、そこには山吹色の衣装を纏う鮮麗な少女。恐らくは10代半ばから後半くらい――月夜さまより少し歳上うえくらいかなと思うけど、それはともあれ……えっと、この人は――

「――ええ、ご機嫌よう藤壺ふじつぼさま」

 すると、同じく身体ごと振り返り恭しく挨拶を述べる月夜さま。すると、藤壺と呼ばれた少女は何処か不敵な笑みを浮かべ――

 さて、今更ながら月夜さまの通称は桐壺。この名前から、かの大名作『源氏物語』の主要人物たる桐壺更衣が連想されるかもしれないけれど……実は、この桐壺とは平安この時代の後宮にてお后さまに与えられたご住居の名称――そして、名称これがそのままそこに住んでいるお后さまの通称となっていたようで。

 なので、桐壺――正式には淑景舎しげいさというのだけど――桐壺というご住居に住んでいる月夜さまは周囲からはそう呼ばれているわけで。そして、それは目の前の藤壺さまも恐らく同様。その通称から、彼女は藤壺――正式には飛香舎ひぎょうしゃというご住居に住んでいるようで……えっ、そんなの知ってるからいちいち説明すんなって? ……はい、ごめんなさい。



 

 

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