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第一節:風の帰路
しおりを挟む空の色が、ゆっくりと春へ向かっていた。
山道に咲き始めた小さな花々を、風が撫でていく。その風は、まるで何かを運ぶように、懐かしさと切なさを混ぜて吹き抜けていた。
ユリウスは、歩きながらふと後ろを振り返る。
そこには、仲間たち――レオ、ヘスティ、セレネ、三人の姿があった。レオがいつものように豪快に笑い、ヘスティは静かに微笑み、セレネは荷物を抱えて小さく息をついた。
その光景は、何もかもがこれまでと同じだった。世界を脅かしていた魔王を打ち倒し、四人での旅もついに終わりを迎えようとしていた。
やがて、遠くに小さな集落が見えてくる。山々に囲まれた静かな村――レオの故郷だった。
「すまないが俺は一足先に村に戻るよ」
レオが足を止め、少し照れたように笑った。
「もう少し一緒にいてもいいのに」
ヘスティが寂しげに言うと、レオは肩をすくめて答える。
「村のばあちゃんに顔見せねぇと、また『どこほっつき歩いてた』って怒られるんだよ。ま、魔王を倒してきたって言ったらひっくり返るだろうな」
「……言わない方が良いわ。心臓に悪いし」
セレネが苦笑した。
三人のやり取りに、ユリウスも笑みを浮かべた。それは、かつてと何一つ変わらない、仲間との温かな時間だった。
けれど――その空気の奥に、ヘスティとセレネは、言葉にできない違和感を抱えていた。だけど、ユリウスは、その違和感を感じる事が出来ていなかった。
それが、どれほど幸せなことか、どれほど残酷なことか。
レオも、その違和感を理解していた。
「なあ、ユリウス」
レオがぽつりと声をかける。言葉の調子が、ほんの少しだけ違っていた。
「お前はさ、まだまだ遠くまで行けるよ。……いや、行ってくれ。オレたちの分も、前へ」
「何だよ急に。大げさだな」
ユリウスは照れ笑いを浮かべながら、レオの言葉を軽く流そうとした。だが、その目の奥には、ほんの一瞬だけ戸惑いがよぎる。
レオは何も言わず、右手を差し出した。ユリウスはその手をしっかりと握る。だが――どこか冷たく感じた。指先の温もりが、風にさらわれていくようだった。
「……じゃあな、ユリウス。また後でな」
短く、しかし確かに言い残して、レオは背を向けた。その背中は、ゆっくりと村の坂道を下っていく。そして――やがて、霧のように遠ざかって、見えなくなった。
「……行っちゃったね」
セレネのつぶやきに、ヘスティがそっと頷く。
「彼らしい、あっさりした別れ方だったわ」
「……ああ。まぁ、俺たちも直ぐに追いつくんだけどな」
ユリウスは寂しさを押し込めるように笑った。
しばらくその場で立ち尽くしていたが、風がまた背中を押した。
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