4 / 9
04 王子からの頼み
しおりを挟む
「先生!」
イメリをその呼び名で呼ぶのは一人だけだ。振り返って足早に駆けてくるその人物を視界に入れれば、彼はクールな雰囲気に似合わぬ人懐っこい笑みを浮かべた。
「これは殿下、王城におられるなんて珍しいですね」
「敬語はやめてください。どうぞ、以前のように」
「そうは言いましても、わたしはもう君の先生では……まぁ、いいか」
声をかけてきた相手は、この国の正統な後継者、王子ディレンだった。
クラクスが側に居ようものなら、失礼ですよとしつこく注意を受けるところだが、幸い彼は側にいない。ハメを外すようにイメリは砕けた口調で話す。
「王子様のお仕事は大変だろう? 勉強のためとはいえ、いろんな領地を転々とするなんて」
「確かに苦労も多いですが、それが役目ですから」
「いやぁ、君は本当に私の教え子とは思えないくらい優秀だなぁ……」
イメリがディレンに教えたのは剣である。といっても、彼女の剣術はその無骨さと無作法さから邪剣と呼ばれ、世話係などからかなり顰蹙を買ったのだ。
「もちろん、先生に教わったことも忘れてませんよ。有事の際には手段を選ぶな、ですよね」
「そうそう。見た目の綺麗さなんて気にしちゃだめだよ。どんな方法を使おうと勝たなきゃ意味がないんだから……って、昔話をするためにわたしを呼び止めたの?」
ついつい思い出話に興じてしまいそうになったが、イメリは何か用があったのではないかとディレンに尋ねる。
「あ、いえ、先ほど謁見の間の前を通りかかったら、ちょうど父上と先生が話していたので」
それで追いかけてきたのだという彼に、イメリは笑みを引き攣らせた。あの場面を見たということはつまり、彼女が縁談で相手に大怪我を負わせたことも聞いていたのか。
「先生が結婚相手を探しているとは知らなかったので、つい好奇心が働いてしまいました。てっきり結婚には興味がないのかと」
「あぁ、はは、ははは……まぁ、興味ないけど……いい相手がいたら別にしてもいいかなぁって」
それにディレンは僅かに目を伏せる。続け様に質問を口にする彼は、イメリからすると珍しかった。
「いい相手、というのはやはり、自分よりも強い方、なんですか?」
「いやいや、わたしより強い男探したら選択肢がなくなっちゃうじゃないか。わたしよりか弱い旦那様だろうと、全力でお守り申し上げる所存だよ」
「……なるほど」
ディレンがこんな野次馬のようなことをするなんて珍しい、そう思いながらも納得してしまう部分はある。何せ彼に剣の稽古をつけていた頃のイメリは、恋愛事や異性には一切関心がなかったからだ。ついでに姫君に一目惚れされた頃でもある。
それにディレンはとある理由からまだ婚約すらもしていない。今後を考える上で何か参考にでもするのだろう。
「きっといい相手が見つかりますよ」
「だといいけど」
投げやりにイメリが言うと、ディレンはどこか含みのある笑みを浮かべる。
「ところで先生、実は折り入って頼みたいことがあるんですが、宜しければ僕の執務室に来ていただけませんか」
「頼みたいこと?」
「あと、教えてほしいこともあるのです」
果たしてディレンに教えられることなど剣以外にあっただろうか。そう思ったイメリは首を傾げた。
「それってわたしに教えられることなの?」
「もちろんです」
「ふーん。じゃあ、久しぶりに可愛がってあげるよ、ディレン」
背伸びしながら両手を伸ばし、彼の綺麗な金の髪をわしゃわしゃと撫で回す。懐かしい触れ合いにディレンが幸せそうに笑っているのを見て癒されていると、誰かが彼女の手を掴んだ。
イメリをその呼び名で呼ぶのは一人だけだ。振り返って足早に駆けてくるその人物を視界に入れれば、彼はクールな雰囲気に似合わぬ人懐っこい笑みを浮かべた。
「これは殿下、王城におられるなんて珍しいですね」
「敬語はやめてください。どうぞ、以前のように」
「そうは言いましても、わたしはもう君の先生では……まぁ、いいか」
声をかけてきた相手は、この国の正統な後継者、王子ディレンだった。
クラクスが側に居ようものなら、失礼ですよとしつこく注意を受けるところだが、幸い彼は側にいない。ハメを外すようにイメリは砕けた口調で話す。
「王子様のお仕事は大変だろう? 勉強のためとはいえ、いろんな領地を転々とするなんて」
「確かに苦労も多いですが、それが役目ですから」
「いやぁ、君は本当に私の教え子とは思えないくらい優秀だなぁ……」
イメリがディレンに教えたのは剣である。といっても、彼女の剣術はその無骨さと無作法さから邪剣と呼ばれ、世話係などからかなり顰蹙を買ったのだ。
「もちろん、先生に教わったことも忘れてませんよ。有事の際には手段を選ぶな、ですよね」
「そうそう。見た目の綺麗さなんて気にしちゃだめだよ。どんな方法を使おうと勝たなきゃ意味がないんだから……って、昔話をするためにわたしを呼び止めたの?」
ついつい思い出話に興じてしまいそうになったが、イメリは何か用があったのではないかとディレンに尋ねる。
「あ、いえ、先ほど謁見の間の前を通りかかったら、ちょうど父上と先生が話していたので」
それで追いかけてきたのだという彼に、イメリは笑みを引き攣らせた。あの場面を見たということはつまり、彼女が縁談で相手に大怪我を負わせたことも聞いていたのか。
「先生が結婚相手を探しているとは知らなかったので、つい好奇心が働いてしまいました。てっきり結婚には興味がないのかと」
「あぁ、はは、ははは……まぁ、興味ないけど……いい相手がいたら別にしてもいいかなぁって」
それにディレンは僅かに目を伏せる。続け様に質問を口にする彼は、イメリからすると珍しかった。
「いい相手、というのはやはり、自分よりも強い方、なんですか?」
「いやいや、わたしより強い男探したら選択肢がなくなっちゃうじゃないか。わたしよりか弱い旦那様だろうと、全力でお守り申し上げる所存だよ」
「……なるほど」
ディレンがこんな野次馬のようなことをするなんて珍しい、そう思いながらも納得してしまう部分はある。何せ彼に剣の稽古をつけていた頃のイメリは、恋愛事や異性には一切関心がなかったからだ。ついでに姫君に一目惚れされた頃でもある。
それにディレンはとある理由からまだ婚約すらもしていない。今後を考える上で何か参考にでもするのだろう。
「きっといい相手が見つかりますよ」
「だといいけど」
投げやりにイメリが言うと、ディレンはどこか含みのある笑みを浮かべる。
「ところで先生、実は折り入って頼みたいことがあるんですが、宜しければ僕の執務室に来ていただけませんか」
「頼みたいこと?」
「あと、教えてほしいこともあるのです」
果たしてディレンに教えられることなど剣以外にあっただろうか。そう思ったイメリは首を傾げた。
「それってわたしに教えられることなの?」
「もちろんです」
「ふーん。じゃあ、久しぶりに可愛がってあげるよ、ディレン」
背伸びしながら両手を伸ばし、彼の綺麗な金の髪をわしゃわしゃと撫で回す。懐かしい触れ合いにディレンが幸せそうに笑っているのを見て癒されていると、誰かが彼女の手を掴んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる