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11-02 不穏な一言
しおりを挟むルザとの交わりでエネルギーを得るようになった彼女は、シュガールとの一戦を経て後、より一層その戦闘能力に磨きがかかったようだった。
対して燃費は以前にも増して悪くなった。小型数機を相手にした戦闘でも、今までは一割未満で済んでいた消耗が倍近くになっているとルザは感じていた。
燃費の悪化は、おそらくエネルギー問題が解決したことが大きいのだろう。常にエネルギーの枯渇と闘っていた彼女は、無意識の内に戦闘での消費を最小限に抑えながら闘っていたのだと言える。
軽やかに空を舞い、杭を投擲しては敵機を撃ち落とす。相変わらず見事な戦闘風景に、その日のルザは穏やかに彼女の姿を見つめていた。モニター越しだと彼女がカメラで追いきれないことが多いため、ルザはもっぱら彼女と一緒にフロントまで出て、扉の前で帰りを待っていた。
「(あのシュガールを軽々と倒したんだ。もう彼女を脅かすものなど無い、きっと……)」
空を駆ける彼女の姿は美しい。けれど、決して手が届かないものを見つめるような、そんな切なさが湧いてくる。
早く、彼女をこの両腕に抱きしめたい。その時が一番安心できる。
じっと彼女を見つめていたルザは頭上にかかった影に気付くのが遅れる。彼めがけて吶喊してくる小型の姿を目視したときには、既に手遅れに思えた。
咄嗟に目をつぶって衝撃を覚悟する。けれど強風と共に敵の断末魔が聞こえてきて、彼は恐る恐る目を開けた。
『戦闘終了』
歪な杭で小型の身体を串刺しにしたトコエは、杭ごとそれを放り捨てた。手や服は敵の体液で汚れているが、しばらくしてそれも光の粒となって消えていく。
「あ、トコエ、その……」
何も言わずに彼女はルザの腕を掴むと鉄扉を開けて屋内に戻る。そこで立ち止まると、きっとルザを睨みつけた。
「……ごめんよ、油断していた」
「もう外には出るな」
「っ、でも、あそこに居ないとトコエが見えなくて、不安で……。次は気をつけるから……!」
ぱっとトコエは彼の手を離す。責めるような視線を向けて、低く言い放つ。
「邪魔だ」
「っ……!」
「あんなところに突っ立って居られると集中できない。迷惑」
言い返すこともできず、ルザは俯いてしまう。いざというときに戦えない自分がでしゃばっても、彼女の言う通り邪魔にしかならないのだ。
戦闘では全くの役立たず。もしも自分も彼女と同じ戦闘型だったなら、あんな経験もせず、彼女を守ることができたのにと、何度目かの自己嫌悪に陥る。
「まぁまぁ、二人とも。喧嘩する前にまずは勝利を喜びましょ」
二人に声をかけてきたのはムノンという小柄な女性兵士だった。
シュガールとの一戦以降、カーリャを始めとする兵士の何人かがしっかりとトコエを支える体制を作るべきだと主張し、要塞内の兵士も真っ当な生活基盤を作ろうとしていた。
ムノンはその中でも率先して料理作りに勤しんでいる人物だ。最近では上手くほかの兵士を使って、全体の料理を手際よく作ってくれている。
「ベルちゃんもお腹空いてイライラしちゃってるのよね。ご飯出来てるからいっしょに食べましょ」
「……」
返事はしないもののトコエは黙って食堂へと向かっていく。その後ろ姿を悲しげに見つめているルザに、ムノンは優しく声をかける。
「きっとベルちゃんにも分かってもらえるわ。貴方がどれだけ心配しているか。……でも、私もフロントに出るのは危ないと思う」
「分かってるけど……」
「それにルザ。貴方に何かあったら、今度こそベルちゃんは壊れてしまうわ」
ムノンの指摘にルザは顔を上げる。それなりに古参の彼女は、トコエの身に何が起こったのか、よく分かっているのだろう。
「どうか自分の心だけじゃなく、あの子の心も守ってあげて」
「……ああ、ごめんね、ムノン」
「謝るならベルちゃんにね」
今度はムノンに感謝を伝え、ルザはトコエの後を追いかけた。
視界の先に居るトコエに、次々に兵士たちが声をかけていく。いつの間にかまともにコミュニケーションを取れるようになった彼女に、いつも世話になっていることなどを伝えるのだ。
「今度みんなで戦闘訓練しようと思ってんだ。ベルに見てもらいたいんだけど、どうだ」
「いいよ。暇だし」
「よし。いつまでもベルにおんぶに抱っこじゃカッコ悪いもんな。期待しててくれよ……!」
最近よくトコエに絡んでくる男の兵士を、少し離れた場所からルザは睨みつける。彼女に馴れ馴れしくしてくる男はどいつも大嫌いだった。
「ねーベルちゃん、一回でいいからさぁ、オレといいことしようぜ~」
頭も下半身も緩そうな男がトコエにそう吹っかける。本来ならば彼女にそういう態度を取れば女性陣が強く注意するものだが、運悪くその場には叱ってくれる人物がいない。
一気に殺意が湧いてルザは足早にトコエの側へと急ぐ。
「……いいよ」
「!」
「えっマジ!?」
「トコエ!」
声を荒げてルザはトコエの腕を掴み、自分の方へと引っ張る。
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