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決 意

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「ちょっといいか」ヒロはカルディア達の部屋をノックした。床で寝ているルイが音に反応するかのように凛々しく顔をあげた。

「大丈夫よ、私はまだ眠ってはいないわ」カルディアがゆっくりとドアを開けた。アウラ達はすでに眠っている様子であった。ヒロはこの部屋で話をしようかと思ったがせっかく寝付いたアウラ達を起こすのも可愛そうかと思った。

「ちょっと、俺の部屋に来ないか……」

「えっ、えっ、それは、えっ!?」カルディアは顔を真っ赤にして戸惑っている様子であった。

「そんなに時間は取らせなない。すぐに済ませるから」

「そ、そんな、すぐにって……、それは、い、嫌かな……」カルディアは更に真っ赤になって頭を左右に振る。

「何を言っているんだ。俺は部屋で待っているから……」ヒロは扉を閉じると自分の部屋へと戻っていった。ルイはなぜか呆れたような顔をしてから、大きな欠伸あくびをすると再び眠りについたようだ。

 カルディアはヒロの部屋の前に立ち、衣服を整えてから手串で軽く髪の乱れを直した。そして高鳴る胸の鼓動をヒロに気づかれないように大きく深呼吸をした。

 コン!コン!

「お待たせ……」カルディアの声は微妙に震えている。動揺していることは誤魔化しているつもりであった。

「どうぞ」中からヒロの声が聞こえる。その声を確認してから彼女はドアを開けてから部屋の中に入った。
 目の前には、ベッドに腰かけるヒロの姿があった。こうして二人きりになるなど、里を出てから初めてのことであった。
「話って……、なにかしら?」カルディアは胸の鼓動を悟られないように、ヒロから少し離れた位置に座った。

「カルディア……」言いながら逆にヒロがその距離をつめてくる。

「あっ、駄目、駄目よ……」カルディアは爆発するのではないかと思うほど全jシンが熱くなっている。元々、白く綺麗な肌なので血流の流れが激しさを増し真っ赤になったその顔はすぐに解ってしまう。

「……」ヒロは黙ってカルディアの手を握りしめた。

「あっ……」カルディアはゆっくりと目を閉じる。

「お前、俺に何か隠しているだろう」ヒロの声は真剣であった。そしてカルディアの目の前にあるヒロの瞳もその気持ちを表している。

「えっ、あっ、何……、隠している事って……、まさか……」カルディアは思い当たる事があるようでうつむいた。

「なぜ、隠していたんだ……」ヒロもカルディアの手を離して下を向く。

「ごめんなさい、そんなに……、でもアウラちゃん達があんなに食べるから」

「えっ!?」

「だって!お腹が空いてたんですもの!まさかあなたの肉を食べたからって、そんなに怒るなんて、大人気ないわ!!」カルディアは逆上したように立ち上がった。

「えっ、あっ、何を言っているんだ?」ヒロは自分の求めていた答えと見当違いの返答が返ってきたので驚いた。

「えっ、違うの?!それじゃあ里にいた時にあなたの刀を隠した事!?」

「あれは、お前がやったのか!」そういえば大切な刀をどこかになくしたと、爺にこっぴどく怒られた事を思い出した。

「もう!何年も前の事を、本当にしつこいわね!!」

「違う!違う!違う!それじゃない!!」ヒロは否定する。「さっきアルゴスが俺の前に現れたんだ」

「えっ!?」カルディアはやっと状況が飲み込めたようであった。

「どうして俺に嘘をついたんだ。どうして追いかけて来たんだ!!」ヒロはカルディアの両肩を強く握りしめた。

「そ、それは……」

「大人しく里で、子を産んで暮らせば……、幸せに……」

「な、なに、それ!?私にあのアルゴスの物になれって言うの!?ヒロはそれで平気なの!!」カルディアの目が涙で一杯になっている。

「そ、それは……、でも、お前も刺殺対象になってしまっているんだぞ!!」

「そんなの構わない!私はずっとヒロだけ……、ずっとヒロだけを見てきたんだから!!」カルディアはその場に崩れ落ちた。

「カルディア……」ヒロにかける言葉がなかった。

「それに……、私、話を聞いてしまったの。オリオン王子をヒロが暗殺できる筈がないって……、どうせ殺される。ヒロが殺された後は、アルゴスが王子を抹殺でれば……、いい厄介払いが出来るって……、その代わりにアルゴスには、私を嫁にやるって約束していたの……」カルディアは力の抜けた声で告げる。

「くっ、そういう事か……、でもこのままじゃ、お前が……」どう転んでもカルディアが刺殺対象であることは変わらない。 

「いいのよ、私は……、ヒロやアウラちゃん達と会えたから……」カルディアは少し落ち着いた様子であった。

「……」ヒロは沈黙でカルディアを見つめている。

「俺がオリオン様、いや、オリオンの首を取る。そしてそれを里に持って帰ってカルディアへの刺殺命令を解除してもらう。」ヒロは決意した顔を見せる。

「えっ!?」カルディアはヒロの言葉が理解出来なかった。

「きっとそうすれば……きっと……」

「駄目よ!ヒロも言っていたじゃない!オリオン様はきっとこの世界に大切な人なのよ!!私の為にオリオン様の命なんて……、比べ物にならないわ!!」

「うるさい!俺にとっては……!俺にとっては!カルディアの命のほうが重いんだよ!!」ヒロのその言葉にカルディアは絶句する。

「どうしたダニか……?」突然ドアを開けてイオが入ってくる。半分目を閉じて完全には起きていないようであった。

「ごめんなさい。うるさかったかしら……。部屋にいきましょう」カルディアはイオの手を繋ぐと部屋を出ていった。 

 ヒロはそのままベッドに仰向けに倒れると腕で両目を覆おおい部屋の光を遮断した。

「俺はどうすれば……」その問いに答える者は誰も居なかった。

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