振り返るといつもの君がいたような気がした。僕が助けた少女は有名なシンガーソングライターだった。『君の歌と僕の夢……。』

上条 樹

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君と男前の社長

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「桃子!!桃子はここにいるのか!!」玄関からなにやらオッサンの叫ぶ声が聞こえる。その声に驚き俺はベッドから飛び起きた。

「しゃ、社長!?」桃子が部屋から慌てて飛び出した。彼女の言う社長とは小野寺社長の事ではないようである。何事が起ったのか理解出来ないでいたが、俺も追いかけるように部屋のドアを開け階段を下りる。玄関には上等なダブルのスーツを着た中年の男が怒り心頭で立っている。

「お前、昨日はどえらい事をしてくれたな!この小娘が、恩を仇で返しおって!!お前のせいで制作会社の社長はお怒りだ!」男は大きく手を振り上げると桃子にビンタを食らわせようとした。俺は咄嗟《とっさ》に桃子の盾になり覆いかぶさる。

「な、なんだ貴様は!!」その言葉は俺に向けられたものではなかった。振り下ろそうとされた男の手は、小野寺社長によって掴まれていた。

「すいません、私は弱小プロの小野寺プロダクションの小野寺綾と申します」その顔は勇ましい女戦士のような感じであった。一瞬惚れてしまいそうなほどカッコいい。

「お前があの小野寺プロの女社長か!・・・・・・お前がうちの桃子をたぶらかしたのか!?」男は小野寺社長を振り払うと怒鳴りつける。

「お言葉ですが、たぶらかしたとはどういう事でしょうか?」彼女は腕組をして男の顔をまっすぐに見る。その気迫に少し男は怯《ひる》んでいるようである。「自分の所の大切なタレントになんてことをさせているのですか。この子達の夢を食い物にしておいて、何を言っているのですか!あなたは!」弾劾するように男を指さした。

「うう・・・・・・」男は言い返せないようだ。

「どうしたの?何かあったんですか」騒ぎを聞きつけて昌子と美桜も降りてきた。多勢に無勢で男は怯んでいる。

「な、なんだ!人の事務所のタレントの事で口を出すとは、ルール違反ではないか!!」まるで負け犬の遠吠えかのようにがなり立てる。

「うるせえ!!業界のルールなんて糞くらえなんだよ!女を食い物にして金儲けをするお前が気に食わねえって言ってんだよ!」小野寺社長は男の上等そうなスーツの襟を強く握り持ち上げる。完全に男は彼女の迫力に飲まれている。

「しゃ、社長・・・・・・落ち着いて!!」俺は彼女がこの男の顔面を殴ってしまうのではないかと思い静止した。さすがにこの場面で暴力をふるってしまっては、こちら側が不利になってしまう事は明らかであった。そんな事は学生の俺でも安易に理解できる。

「解っているよ」小野寺社長はゆっくりと手を離した。その途端男は魂が抜けたように玄関先に腰を落としてしまった。

「社長・・・・・・、今までお世話になりました・・・・・・・、私、ダークファンタジーを・・・・・・退社します」桃子は少し涙目ではあったが、決意をした顔で言い放った。所属していた事務所との決別を決意したようであった。

「金・・・・・・ちゃん・・・・・・」俺は彼女のその言葉に驚いた。彼女が事務所を退社するということは、芸能界を辞めるということではないのであろうか。

「な、なんだと!?それは今まで面倒を見てきた俺を裏切るということか!・・・・・・・そうか!うちを辞めてこの女の事務所に入るつもりか!!」男は苦虫をかみつぶすような顔を見せた。

「な、なにを!?」桃子は男の言葉に驚く。彼女にそんな発想は毛頭なかった様子で目を見開いて驚いた顔を見せた。そんな打算で言った言葉ではなかったのだ。

「そうだ、桃山桃子君はうちで引き取る!!」小野寺社長は大きな胸を覆うように腕組をした。

「な、な、なんだと!さては、お前たちグルだな!!・・・・・・よし解った・・・・・・、もういい!しかし、事務所を移籍するならそれなりの損害賠償・・・・・・いや、移籍料を払ってもらうからな!今まで俺がその女に投投資した金と、これから稼ぐ筈だった金だ!お前にはこの世界のルールを思い知らせてやる!!覚えておけよ!!!」急に男はいきり立つと玄関を飛び出していった。

「おおお!」俺と昌子、そして美桜は小野寺社長のその言葉に感嘆の声と拍手を送った。それはまさに英雄を称《たた》えるような拍手であった。

「いやいや・・・・・・・」小野寺社長はちょっとだけ目の横辺りをピクピクとさせている。

「あ、あの・・・・・・、ありがとうございます!・・・・・・でも、移籍料ってかなりの額を言ってくるのではないですか・・・・・・?」桃子は激しく恐縮した顔を見せた。

「それぐらい、社長がズバッと払ってくれるよ」俺は先ほどの小野寺社長の言葉を聞いて、この人なら桃子の事を助けてくれると安心していた。しかし、こんなに格好のいい女性を俺は今まで見たことはなかった。正直言うと俺は憧れのような感覚を彼女に抱《いだ》いた。

「ど、どうしよう・・・・・・」小野寺社長の顔が真っ青になっている。どこか遠くの空を見つめるような顔で天井を見上げている。

「社長、どうしたんですか・・・・・・?」美桜が心配そうに社長の顔を見る。

「勢いで言っちゃった・・・・・・・」その言葉を聞いて、俺達一同は灰色のように真っ白になってしまった。
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