振り返るといつもの君がいたような気がした。僕が助けた少女は有名なシンガーソングライターだった。『君の歌と僕の夢……。』

上条 樹

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君とセコンド

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「本当に昌子さんがプロレスなんてするんですか?」美桜は会場についても信じられない様子であった。確かに、俺もあの昌子がまさか覆面レスラーとしてデビューしてしまうなんて発想は全く無かった。

「青コーナー、ジュディ如月選手の入場!!」彼女の入場曲であろう洋楽が大きな音で会場の中を流れる。その音楽に合わせるように歓声が沸く。リングの袖から青いコスチュームに身に纏った端正な顔をした少女が姿を現す。

「えっ、外人!?」俺は思わず声を出してしまう。その少女は美しいロングの金髪であった。

「ちがうよ。ハーフだよ」いきなり声がしたので振り返るとそこにはこのプロレス団体の社長兼エースの有紀の姿があった。彼女も試合を控えているようで上下真っ赤なジャージに身を包んでいる。「亮!久しぶり!!」彼女は周りの目を気にせず抱きついてきた。

「ちょ、ちょっと!」いきなりの抱擁に俺は面食らう。顔面が彼女の大きな胸に埋もれて息が出来ないほどであった。

「亮!ちっとも来てくれないから寂しかったわ」いや、俺が女子プロレスのスタジオに頻繁に通ったらおかしいでしょ。さすがに変態かと思われるわ。

「えっ!?」いきなり服の裾を掴まれて引っ張られる。その行動は美桜によるものであった。美桜は無言のまま、唇を尖らせて俺を睨みつけている。いや、にらむ相手は俺じゃないでしょう。

「あっ、MIONちゃん一緒にいたの?気付かなかったわ」いや絶対気が付いていたはずである。「ほら、昌子ちゃんの入場よ!」なんだか少し誤魔化すかのように有紀は指をさす。

 黒いコスチュームに黒のマスク。それは猫というよりも黒ヒョウのようであった。スタイルの良い昌子の体が、さらに際立っている。

「赤コーナー!今日がデビュー!!黒猫選手の入場です!」入場曲はMIONの歌「インテグレイト」。バラード調が多いMIONの楽曲の中で、珍しくテンポが速く激しい歌であった。こういう場所で聞くと勇ましい歌に聞こえる。美桜は自分の歌が会場に流れているのが恥ずかしいのか恥ずかしそうに下を見ている。

「あれ、あの男は・・・・・・・」入場してくる昌子の傍《そば》にそば少し小柄だが、体格の良い男の姿が見える・

「ああ、昌子があまりにも覚えがよくて、並みの女子では相手が出来なくなってきたから、スパーリングパートナーをお願いしていた・・・・・・」

「北浜!?」俺は思わずその名を口にした。

「ん?彼に事を知っているのか」有紀は少し驚いたような顔をした。

「ええ・・・・・・、まあ・・・・・・・・」返事を濁す。

「二人意気投合してな、彼が昌子のデビュー戦にセコンドに付くっていってくれたんだ」腕組をしてリングを見つめている。

「そ、そうなんですか・・・・・・・・」まさか、あの空手道場樹心館で俺を悶絶させた北浜がプロレスラーとは驚いた。普通ではないと思ってはいたが、プロのレスラーなら素人相手に少しは手加減しろよと少し怒りが湧いてきた。

「相手のジュディ如月も日本ではまだまだ無名だが、実力者だ。昌子のデビュー戦には丁度いい相手だ」有紀は嬉しそうな顔をしている。この人は昌子をプロレスラーとして育てる気満々だなと感じる。リングの青コーナーで何やら、昌子が北浜からアドバイスを受けている。その様子を遠くから見て、少し胸の辺りがモヤモヤする。

「亮介さん・・・・・・・、どうかしたんですか?」俺の様子を見て美桜が心配してくれているようだ。そんなに変な顔をしていたかと反省する。

「い、いいや・・・・・・、別に・・・・・・・・、なんでもないよ」

「ふーん、傷心したらいつでも慰めてあげるわよ」有紀が俺の腕に絡みついて胸を押し付けてくる。

「ちょ、ちょっと離れてください!」珍しく美桜が顔を真っ赤にして怒っている。また俺の服を引っ張る。そのうち敗れてしまいそうな勢いであった。そうか、昌子の試合をきちんと見ろという事なのだろう。

 そうこうしているうちに、試合開始のゴングが会場に鳴り響いた。
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