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雨の日、あなたが……。

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 雨が激しく降っている。

 アスファルトに跳ね返る水しぶきで、傘も全く役に立たない。跳ね返る雨で靴下まで濡れている。

 こんな雨が降った日は、嫌でも睦樹の事を思い出してしまう。

 この雨のふり方は、まるで睦樹と初めてあったあの日のようだった。

 まどかは、傘をさしながら、あの民家の軒下へと自然に足が向いた。

 あの日と同じように前の見えない道、傘がなく鞄を頭にこの、道を走った事を思い出した。
「あの場所で、あの人に……」呟きながら民家に視線を移す。

「まさか?!」まどかは、民家の軒下に人影を見つける。その瞬間、胸の鼓動が高鳴る。小走りに走り、あの日のように軒下に飛び込んだ。

「はあはあ……」両肩で息を整えながら顔をあげる。

「大丈夫、すごい雨だね」その言葉を聞いて、相手の顔を見る。
そこに立っていたのは、睦樹には似ても似つかない中年の頭の禿げた小太りの男であった。
その瞬間、まどかの両目から大量の涙が溢れ出す。

「うわーーーーん!」今まで、出した事のないような大きな声で彼女は号泣した。

「ちょ、ちょっと……!」中年の男は突然現れた少女の号泣に狼狽えている。

「うわーーーーーん!」さらに勢いを増したように、まどかの雄叫びは続いた。

「ひー!」中年の男は居たたまれなくなったのか、豪雨の中へダイビングしていった。

「う、う、う、う……」まどかの号泣は止まらない。

 そこに一台の車が走って来たかと思うと、まどかが雨宿りしていた民家へ飛び込んできた。

 轟く轟音!!

 その音に驚いて近所の住人達が飛び出してきた。

「車が飛び込んだみたいだぞ!」

「大丈夫か!ケガ人はいないのか!?」車に乗っていたドライバーを救出する。どうやら、軽いケガですんだ様子であった。

「ここは、長い間誰も住んでいないから……、でも巻き込まれた人とかいないか?」手分けして、車の下、バンパーの辺りをチェックする。

「幸い、誰も居なかったみたいだ」住人達は、安堵のため息をついた。
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