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15.間宮先輩
しおりを挟む間宮先輩の部屋の前につき、ノックしようとしたとき、同時に部屋の扉が開いた。
「うわぁ!」
扉が顔面に当たりそうになり、驚いて声を出してしまった。
「え?誰かいるの?」
僕の驚いた声を聞き、扉の開くのがとまった。そして、そっと扉から誰かが顔を出す。
間宮先輩と同室の先輩だ。
「あっ、夜遅くにすみません。間宮先輩に用があるんですけど…」
「あぁ~、間宮なら今寝てるよ~。まぁ、起こしても怒らないと思う。起そうか?」
「いえ、忘れ物を取りに来ただけなので大丈夫です。」
「そっか。俺今から用事だから、部屋から出るとききちんと扉閉めといてね~、よろしく!」
そう言って、すごい速さで先輩は部屋を出ていった。
うわぁ、すごい速い…っていうか、
寝ている人物だけの部屋に、人を入れて残すって、物が盗まれるとか考えないのかな?まぁ、僕が盗むわけじゃないんだけど…
そんなことを思いながら部屋に入る。
中には、二段ベッドの下に寝ている間宮先輩が見えた。
本当だ。先輩ぐっすり眠ってる。それにしても、布団もかけずに寝てるのか?それだと風邪ひきそう…
僕は先輩のベッドに近づき、布団をかけてあげた。
それにしても、寝顔が綺麗すぎる。
静かな寝息を立てながら、長いまつ毛を伏せ寝ている先輩は、妙に色っぽく美しい。
って、なに先輩に見とれているんだ。こんなことしている場合じゃないじゃん。
ここに来た本来の目的を果たそうと、ベッドから離れようとしたとき、
ぱしっ───
先輩から腕を掴まれた。
「え?」
いきなりのことで驚く。
先輩の顔を見ると、まだ瞳は閉じられていた。
どうやら、寝ぼけて掴んだようだ。
それにしても、全然腕から手が解けないんだけど…
僕の腕から先輩の手をとろうとしたが、全くとれない。すごい力で掴まれている。
「どうしよう…」
寝ているところを起こすのもあれだし。
いや、でもこのままだと離してくれなさそう…
先輩には悪いが起こすしかないよね。
「…おかぁ…さん…」
先輩を起こそうと肩に手を置いたとき、先輩がかすかな声で言った。そして、閉じられている瞳から涙が流れていた。
「…先輩?…」
声を殺すようにすすり泣く先輩。とても辛そうな顔をしていた。
いつも穏やかに優しく笑っている先輩から、見たこともない悲しい顔。
「先輩…怖い夢でもみてるんですか?泣かないでください…」
涙を止めてあげたくて、自然と先輩の方へ手を伸ばし涙をぬぐっていた。
先輩の瞳から流れる涙を、自分の指で拭う。
すると、目が覚めたのか先輩の瞳が開いた。
空ろな目の先輩。まだ、寝ぼけているようだ。
「せんぱ───」
「行かないでっ」
「先輩」と呼ぼうとしたら、腕を引かれギュッとされ、横抱きのような体制になった。
強い力で背中を掴み、小刻みに震えながら「いかないで…」と言っている先輩。
「先輩、三上です。大丈夫ですよ、僕はどこにも行ったりはしませんから。それよりも、背中の腕解いてもらってもいいですか?」
震えている先輩をなだめるように言った。すると、意識がはっきりとしてきたのか腕の力が弱まる。
そして、「えぇっ?!」と響く声をあげながら、がばっと僕の体をはがした。
「…っえ…なんで三上ちゃんが?!え、え、」
先輩は、僕がここにいること、ベッドに抱くようにいたことの意味が分からず、すごく驚いているようだ。
「いや、携帯を置き忘れたみたいでここに来たんですけど…寝ぼけている先輩に腕を引かれて、こんな感じになりました…」
僕が状況を説明すると、「そ、そうだったんだ…ごめんね」と言いながら起きあがった。
「それにしても、どんな夢を見てたんですか?」
「え…あぁ、久しぶりにね。母親の夢を見たんだ。まぁ、母親と言っても顔はよく覚えてないんだけどね~」
そう言った先輩は、一瞬悲しそうな顔をしたが、次の瞬間、何でもないといった感じで明るい声を出した。
「覚えていないんですか?」
「僕の母親は、僕が小さい頃出ていったんだ。」
「そうだったんですか…すみません!事情も考えず聞いてしまって…」
「別にいいんだよ。小さい頃だから覚えてないし、それに、母親の事なんてどうでもいいしね~」
先輩はそう言って笑った。
でも、その笑顔はいつもの先輩の笑顔じゃなく、とてもつらそうな笑顔だった。
「おかあさん」と言って涙を流した先輩。「行かないでっ」と強く抱きしめてきた先輩。
「どーでもいい」なんて、嘘に決まってる。無理して悲しいのを抑えている笑顔だ。
何やってんの僕…僕が、無責任に先輩の母親について聞いたから…
先輩のこんな顔、みたくない。
そう思うと、何故か無意識に先輩の背中に手が伸びていて、
僕は先輩を強く抱きしめていた。
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