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女王の命は誰の手に?
刃と銃〜五カ国首脳会議
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テレシア女王誘拐事件なんて大事になるだろうか。いや、早まったネザリアの行動はそもそも良しとされないだろうからな。他国からの圧力で隠蔽に持っていかれるか。
無言で居ても頭と足は動かす。俺と女王は言葉を交わさないままで、岬のところまで戻ってきた。
ネザリアの警察と鉢合わせて、かなり驚いた顔をされた。想像するに、女王はもう死んだものとして動こうとしていたんだろう。
「も、戻られましたか……」
だからこんな変な言葉を掛けられる。ガレロなら直ちに胸ぐらを掴んでから放り投げただろう。
俺はしない。しかし女王も主犯らを気にしなかった。激励の言葉を掛けるでもなく、チラッと見ただけで隣を素通りしていく。
「クロノス。ガレロ達はこの先に居るかしら?」
「えっ。ああ……多分」
ガレロは考え無しの男だが、捜索員を全員出してこの場を無人にすることはしないだろう。ひとりぐらいは誰か残していると思う。
すると、目先にでかい人間が見えてきた。待っていたのはガレロか。……と、思ったがアナーキー、ジャスミン、それからリーデッヒも揃っている。
「あいつら何やってんだ」
やっぱり主人が居なくなっても穏便で過ごしてたのか。バカか。
フフッと女王が笑っている。
「あなたのことを信用しているようですわね」
「いや。それだと困るんですけど」
俺の立場はどうなってんだ。
ガレロがなんとなしに振り返った。そこで俺と女王がゆっくりと歩み寄ってきているのに気付けたみたいだ。ガレロは特に驚くことなく冷静に状況を理解した。それから周りの奴らに声をかけたら、他の三人は一斉にこっちを振り返った。
「テレシア!!」
中でも女王の愛人リーデッヒは駆け出してくる。眉を下げて泣きそうになりながら。
その後ろでもまた「テレシア様!」と、走り出す二人がいた。
よくある感動の再会みたいだった。
夕日までいかなくても、昼下がりの太陽の傾きがこっちからだと眩しい。走り出す三人のシルエットが嬉しそうにと演出している。
このまま中腹で抱き合って「よかった」なんて言い合うものだと信じてしまった。ガレロの方から見た景色はどうだっただろう。いずれにしても二人とも油断した。
女王のもとに、先に辿り着きそうなリーデッヒ。後ろに続く男女はアナーキーとジャスミンだが。彼らは愛人よりも先に女王のところへ着きたいと思ってか、どんどんスピードを上げていく。
やがてリーデッヒを追い越した。
「待て!!」
男の声が叫んだ。異変だと気付いたのはその時。
誰が誰に待てと言ったのか。それはリーデッヒがアナーキーに言ったんだ。
キラリと光った。昼下がりの太陽がリーデッヒの後で俺にも見せてくれたのは、短剣の反射だ。アナーキーが両手で刃物を構えて女王の元へ走ってくる。
俺は急いで女王を庇う。リーデッヒはアナーキーを止めるために手を伸ばす……が。
「ううっ!?」
力の入った声が聞こえ、俺の目の前で血飛沫が飛んだ。
「はっ……」
最悪だ。テレシア女王もしっかりとその赤を視界に入れたらしい。俺の腕に爪を立てて掴み、息が止まっていた。
短剣はターゲットにしっかりと刺さっている。リーデッヒの胸元からポタポタと滴る血が、短剣の柄を伝って止まらない。
「ジャスミン! 早くしろ!」
アナーキーが叫んだ。女王を刺すかと思った動きは見せかけで、今はリーデッヒを抱えるようにして血を流させている。
「ジャスミン!!」
「わ、分かってる!!」
まだ何かあるのか。ジャスミンはリーデッヒの場所よりもまだ距離があった。しかし距離なんて何でもない。ジャスミンの手には短銃が構えられていて、一発、二発と、銃声をこの岬の空に鳴り響かせる。
「……!!」
声にならない女王の叫びも虚しく掻き消された。リーデッヒは、剣先を受け止めた後、二発の銃弾を当てられてその場にグシャリと倒れた。
たった一瞬の出来事。俺もガレロも予知していなかったことだ。
「嘘……。そんな……」
「テレシア様! やりました! アスタリカの右腕を仕留めました!!」
「なんてことを……」
呆然とする中。アナーキーの勝利の雄叫びが次に響く。
これを聞いて全員が一瞬の出来事を理解した。特にテレシア女王には大きなショックを与えた。
「いやああああ!!」
あの冷静で沈着だった女王が叫ぶ。留めていた俺の手を引き裂く勢いで払いのけて、リーデッヒのところへと駆け出した。足を痛めているのも、濡れたドレスが重いのも何も邪魔じゃなく、倒れたリーデッヒのことしか見ていない。
「リーデッヒ!! リーデッヒ!!」
泣き叫びながら愛人の名前を連呼する。そんな女王の姿を誰が見たことがあっただろう。もっとも驚いていたのはアナーキーだ。侵食してくる敵の脅威を払いのけたっていうのに、どうしてだと狼狽えた。
……とはいえ。……この状況はまずい。
「ガレロ!」
「ああ! わかっている!」
嫌だが、俺はガレロと連携を取る。
馬鹿野郎のアナーキーとジャスミンはガレロに任せておく。俺は女王をなだめる前にリーデッヒの応急処置だ。刃と銃弾二発の傷に、王族の涙を垂らしたって治るもんじゃない。
「車に乗せる! 手伝ってくれ! 救急病院に運ぶ!」
俺がそう周りに聞かせても、他国の軍人……ましてやアスタリカの軍人なんかを助ける気になれないか。大勢の兵士がいるっていうのに誰も動かない。俺は苛立って舌打ちが出た。
「ネザリア兵!! ここでリーデッヒが死んだらニューリアンだけが始末されるんじゃない!! 今日集まった主要の国々全土が焼き払われるぞ!! それでもネザリアだけが生き残れる自信があるって言うなら驕り過ぎだ!!」
話が届くと少しどよめく。すると、ひとりの男が一歩前に出た。見覚えがあると思ったら、俺とガレロをテントに連れて行こうとした奴だ。
「我々がお前の指図に従う理由は無い。入り込んだ虫を始末し、お前たちもその男と同じ場所にて葬ってやる」
そいつは指示役みたいだな。影響力のある発言をすることで、周りのどよめきを静かにさせている。
「悪いけど。ネザリア王国の勘違いを正してる時間は無い。……誰でもいい!! 頭の良い奴から早く手伝ってくれ!!」
「頭の良い奴……?」
カチンとくる言葉だっただろう。しかし、この状況でどっちの味方についた方が正しいのか。どうやら部下の方が自分で判断できるらしい。
自分たちの間違いに気付ける人間がバラバラと集まって来た。それに対して指示役はもちろん吠えているが、そいつのことはどうでもいい。
五人がかりで運び、車の中にリーデッヒを納める。パッと俺の腕を掴んだ手があった。それは赤く染まっているものでリーデッヒの腕だった。
「……すまないね。クロノス君」
「礼は結構です。死なないように努めてください。テレシア女王のためです」
腕を払って扉を閉めたいところだが、掴んでいる手のひらの力が強くてまだ離してくれなかった。
「クロノス君」
「はい」
「テレシアがあんなに泣いてくれるとは思わなかった」
言われて探してみると、女王はテントの影で泣いているようだった。ガレロが近くにいるし、また何処かへ行ってしまうことはないだろう。
「……そうですね。俺も驚きました。じゃ、それが最後の言葉ですね。聞き届けました」
扉を閉めたいから手を離させたい。しかしこれが強すぎる力だ。
「クロノス君、聞いてくれ」
まだ何かあるのか。車の中に引きずり込まれるかと思うぐらい腕を引っ張られる。口から血を垂らすリーデッヒが俺の耳元に囁いた。
「テレシアのことを頼んだよ。君がテレシアを守るんだ。いいね?」
そうして、腕の力が抜けて離れた。
「……」
俺からこの男に聞きたいことがあったが。とにかく治療が先だと判断して車の扉を閉めた。
五カ国首脳会議はこの後、起こった事件をどうするかでまた集まった。
ニューリアンやネザリアに多額の賠償金を払わせることは簡単だが、やはりリーデッヒの息を繋ぎ止めることが絶対だ。
この会議制度が取られてから、歴史上において最も長い会議期間が過ぎていく。
(((これにて1章は終わりです!ありがとうございます!
続きは5月からまた毎週[月火]の2話更新にて投稿していきます。
詳細は近況ボードをご覧ください!
(((次話は5月6日(月) 17時に投稿します
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無言で居ても頭と足は動かす。俺と女王は言葉を交わさないままで、岬のところまで戻ってきた。
ネザリアの警察と鉢合わせて、かなり驚いた顔をされた。想像するに、女王はもう死んだものとして動こうとしていたんだろう。
「も、戻られましたか……」
だからこんな変な言葉を掛けられる。ガレロなら直ちに胸ぐらを掴んでから放り投げただろう。
俺はしない。しかし女王も主犯らを気にしなかった。激励の言葉を掛けるでもなく、チラッと見ただけで隣を素通りしていく。
「クロノス。ガレロ達はこの先に居るかしら?」
「えっ。ああ……多分」
ガレロは考え無しの男だが、捜索員を全員出してこの場を無人にすることはしないだろう。ひとりぐらいは誰か残していると思う。
すると、目先にでかい人間が見えてきた。待っていたのはガレロか。……と、思ったがアナーキー、ジャスミン、それからリーデッヒも揃っている。
「あいつら何やってんだ」
やっぱり主人が居なくなっても穏便で過ごしてたのか。バカか。
フフッと女王が笑っている。
「あなたのことを信用しているようですわね」
「いや。それだと困るんですけど」
俺の立場はどうなってんだ。
ガレロがなんとなしに振り返った。そこで俺と女王がゆっくりと歩み寄ってきているのに気付けたみたいだ。ガレロは特に驚くことなく冷静に状況を理解した。それから周りの奴らに声をかけたら、他の三人は一斉にこっちを振り返った。
「テレシア!!」
中でも女王の愛人リーデッヒは駆け出してくる。眉を下げて泣きそうになりながら。
その後ろでもまた「テレシア様!」と、走り出す二人がいた。
よくある感動の再会みたいだった。
夕日までいかなくても、昼下がりの太陽の傾きがこっちからだと眩しい。走り出す三人のシルエットが嬉しそうにと演出している。
このまま中腹で抱き合って「よかった」なんて言い合うものだと信じてしまった。ガレロの方から見た景色はどうだっただろう。いずれにしても二人とも油断した。
女王のもとに、先に辿り着きそうなリーデッヒ。後ろに続く男女はアナーキーとジャスミンだが。彼らは愛人よりも先に女王のところへ着きたいと思ってか、どんどんスピードを上げていく。
やがてリーデッヒを追い越した。
「待て!!」
男の声が叫んだ。異変だと気付いたのはその時。
誰が誰に待てと言ったのか。それはリーデッヒがアナーキーに言ったんだ。
キラリと光った。昼下がりの太陽がリーデッヒの後で俺にも見せてくれたのは、短剣の反射だ。アナーキーが両手で刃物を構えて女王の元へ走ってくる。
俺は急いで女王を庇う。リーデッヒはアナーキーを止めるために手を伸ばす……が。
「ううっ!?」
力の入った声が聞こえ、俺の目の前で血飛沫が飛んだ。
「はっ……」
最悪だ。テレシア女王もしっかりとその赤を視界に入れたらしい。俺の腕に爪を立てて掴み、息が止まっていた。
短剣はターゲットにしっかりと刺さっている。リーデッヒの胸元からポタポタと滴る血が、短剣の柄を伝って止まらない。
「ジャスミン! 早くしろ!」
アナーキーが叫んだ。女王を刺すかと思った動きは見せかけで、今はリーデッヒを抱えるようにして血を流させている。
「ジャスミン!!」
「わ、分かってる!!」
まだ何かあるのか。ジャスミンはリーデッヒの場所よりもまだ距離があった。しかし距離なんて何でもない。ジャスミンの手には短銃が構えられていて、一発、二発と、銃声をこの岬の空に鳴り響かせる。
「……!!」
声にならない女王の叫びも虚しく掻き消された。リーデッヒは、剣先を受け止めた後、二発の銃弾を当てられてその場にグシャリと倒れた。
たった一瞬の出来事。俺もガレロも予知していなかったことだ。
「嘘……。そんな……」
「テレシア様! やりました! アスタリカの右腕を仕留めました!!」
「なんてことを……」
呆然とする中。アナーキーの勝利の雄叫びが次に響く。
これを聞いて全員が一瞬の出来事を理解した。特にテレシア女王には大きなショックを与えた。
「いやああああ!!」
あの冷静で沈着だった女王が叫ぶ。留めていた俺の手を引き裂く勢いで払いのけて、リーデッヒのところへと駆け出した。足を痛めているのも、濡れたドレスが重いのも何も邪魔じゃなく、倒れたリーデッヒのことしか見ていない。
「リーデッヒ!! リーデッヒ!!」
泣き叫びながら愛人の名前を連呼する。そんな女王の姿を誰が見たことがあっただろう。もっとも驚いていたのはアナーキーだ。侵食してくる敵の脅威を払いのけたっていうのに、どうしてだと狼狽えた。
……とはいえ。……この状況はまずい。
「ガレロ!」
「ああ! わかっている!」
嫌だが、俺はガレロと連携を取る。
馬鹿野郎のアナーキーとジャスミンはガレロに任せておく。俺は女王をなだめる前にリーデッヒの応急処置だ。刃と銃弾二発の傷に、王族の涙を垂らしたって治るもんじゃない。
「車に乗せる! 手伝ってくれ! 救急病院に運ぶ!」
俺がそう周りに聞かせても、他国の軍人……ましてやアスタリカの軍人なんかを助ける気になれないか。大勢の兵士がいるっていうのに誰も動かない。俺は苛立って舌打ちが出た。
「ネザリア兵!! ここでリーデッヒが死んだらニューリアンだけが始末されるんじゃない!! 今日集まった主要の国々全土が焼き払われるぞ!! それでもネザリアだけが生き残れる自信があるって言うなら驕り過ぎだ!!」
話が届くと少しどよめく。すると、ひとりの男が一歩前に出た。見覚えがあると思ったら、俺とガレロをテントに連れて行こうとした奴だ。
「我々がお前の指図に従う理由は無い。入り込んだ虫を始末し、お前たちもその男と同じ場所にて葬ってやる」
そいつは指示役みたいだな。影響力のある発言をすることで、周りのどよめきを静かにさせている。
「悪いけど。ネザリア王国の勘違いを正してる時間は無い。……誰でもいい!! 頭の良い奴から早く手伝ってくれ!!」
「頭の良い奴……?」
カチンとくる言葉だっただろう。しかし、この状況でどっちの味方についた方が正しいのか。どうやら部下の方が自分で判断できるらしい。
自分たちの間違いに気付ける人間がバラバラと集まって来た。それに対して指示役はもちろん吠えているが、そいつのことはどうでもいい。
五人がかりで運び、車の中にリーデッヒを納める。パッと俺の腕を掴んだ手があった。それは赤く染まっているものでリーデッヒの腕だった。
「……すまないね。クロノス君」
「礼は結構です。死なないように努めてください。テレシア女王のためです」
腕を払って扉を閉めたいところだが、掴んでいる手のひらの力が強くてまだ離してくれなかった。
「クロノス君」
「はい」
「テレシアがあんなに泣いてくれるとは思わなかった」
言われて探してみると、女王はテントの影で泣いているようだった。ガレロが近くにいるし、また何処かへ行ってしまうことはないだろう。
「……そうですね。俺も驚きました。じゃ、それが最後の言葉ですね。聞き届けました」
扉を閉めたいから手を離させたい。しかしこれが強すぎる力だ。
「クロノス君、聞いてくれ」
まだ何かあるのか。車の中に引きずり込まれるかと思うぐらい腕を引っ張られる。口から血を垂らすリーデッヒが俺の耳元に囁いた。
「テレシアのことを頼んだよ。君がテレシアを守るんだ。いいね?」
そうして、腕の力が抜けて離れた。
「……」
俺からこの男に聞きたいことがあったが。とにかく治療が先だと判断して車の扉を閉めた。
五カ国首脳会議はこの後、起こった事件をどうするかでまた集まった。
ニューリアンやネザリアに多額の賠償金を払わせることは簡単だが、やはりリーデッヒの息を繋ぎ止めることが絶対だ。
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