22 / 172
Ⅰ.進む国/留まる国
対談‐ネザリアの陰謀‐
しおりを挟む
「ネザリア王国……いや、そろそろ帝国と呼ぶ時まで来たかもしれないな。あの国は今、国境付近の諸外国との交流を強めていてね。それが悪い話だと、まるでネザリアの傘下まで落とし込む勢いで動いているところもあるんだよ」
オルバノ王の言葉がよく聞こえる。皆が静かに耳を傾けていた。
「……それとは別に。あの国は急激に軍事化が進められて民は置いてけぼりだ。とにかく税金を巻き上げて軍事資金としてつぎ込んでいる。そして、大きな部隊を作ったとか秘密兵器を投入したとか、最近はそういうニュースばかり発出しているよ。さてバル君。君はこのネザリアが何をしたいか予想がつくかな?」
突然の質問形式に俺は一瞬慌てた。だが俺も唸りながらネザリアの行く末を想像してみる。
ネザリア王国は周りの国を味方に付けている。それに自国の武力も高めながらだ。
「……何かを警戒しているのか。はたまた攻撃する為の準備なのか」
考えをまとめながら独り言が漏れていたようだ。オルバノ王は「うむ」と一声上げた。
「さすが王子だな。まあこれくらいはすぐに出てきて貰わないと困る」
それでオルバノ王は答えを告げた。
「正解はどっちもだ。ネザリアは、国が大きくなろうとする姿勢を存分に見せておいて、他の大国からの忠告を待っているんだ。その忠告を無視すれば、もちろんネザリアは一発で止めを刺されるだろう。大国にとってネザリアは指先で突ける程の小さな国だからね。でも、ここからネザリアの恐ろしい思惑があるんだよ」
窓から日差しが消えて部屋の中が陰りだす。
「ネザリアと他国との契約は、つまるところ”助け合おう”という内容だ。もしネザリアが大国から攻撃を受けたなら、成約した国は共に戦ってくれることだろう。で、終戦したとしよう。ネザリアを含む数々の諸外国が被害を受けている。復興には金がかかるが、さあ一体何処から出そうか」
……民から巻き上げた。
「税金だ。ネザリアのな。ここでも契約は生きているから、ネザリアは諸国を見捨てないだろう。多額の金を貸して形では”助け合い”を演じてくるが、結果的にはネザリアの元に下ったも同然だ。そうしてネザリア王国は長い時間を掛けながら、周囲の国を服従的に取り込もうと目論んでいるんだ」
話を終えたオルバノ王は茶を飲み喉を潤している。陰った部屋では静寂も妙なものに感じられた。
俺やカイセイは各々別の方向を向き、今後の自国を案じている。エセルは難しい顔をして俯いていた。事情を持つ彼女なりの考えがありそうだ。茶を飲み終えたオルバノ王が俺に尋ねる。
「どうだい、この話。信じるかい?」
やけに明るく言われるから、まさかオルバノ王の作り話なのではと疑った。いやまさかと思っていると、オルバノ王が懐からひとつ小さめの封筒を取り出してテーブルに置く。
「これは?」
「その契約書だよ」
許可を得て俺はその封筒の中身を見せて貰う。契約書にしては紙二枚しか無いのに驚いた。内容も非常にシンプルである。かなり狙った見方をすれば、約束に慣れていない王でも内容が分かりやすい書き方のように取れた。
甲の名にはネザリア・カイリュの自筆のサインがある。乙の名はまだ書かれていない。だが、これをオルバノ王から見せられるということは、つまりである。
「ではメルチ王国も?」
聞くと突然オルバノ王とイアリス妃は顔を合わせて笑い出す。
「そんな怖い顔をしないでおくれ。まだ結ぶと決めたわけじゃない」
「ええ。だって私達、カイリュと仲良くする義理がないもの」
オルバノ王に続いてイアリス妃も気楽に言っている。これに少し安心していた俺であったが、オルバノ王の次の言葉はそんな俺の安直さを一気に破滅させるものであった。
「実はこの契約の決定権は息子たちに渡そうと思っている」
信じがたい断言に俺が固まっていると、イアリス妃も微笑みを絶やさず話すのである。
「私たちも、そろそろ引退しても良いんじゃないかって。この機会だからこの国の運命はあの子たちに託しましょうって決めたのよ」
「……そうですか。大変よろしいことだと思います」
「あら本当? バル君、顔が引きつっているわよ?」
そりゃあ顔くらい引きつって当然だ。逆に顔以外が正常であることが不思議なくらいだ。
オルバノ王とイリアス妃は、俺達三人と重暗い空気だけを残して席を立った。扉をまたぐ時にイリアス妃は振り返り「頑張ってね!」と激励の言葉をくれた。それは火の中の虫同然に何の効力も成さない。
静寂しか無い部屋ですぐにノックがされ、リュンヒンが軽快に入ってきた。そしてすぐにこの重苦しい空気を感じ取ったようで、足をピタリと止めた。しかしこうなることを彼は知っていたのだろうと思う。苦い表情の奥で、かすかにほくそ笑んでいる気がするのだ。
それにこれは勝手な余談だが、オルバノ夫妻が険悪なムードを作るくらいに揉め合ったのは、たぶん代替えの話だったのではないだろうかと思うのだ。だが今はそれを咎める体力が無い。
リュンヒンは苦笑を浮かべながら窓の方を指して言った。
「今日は天気が良いね。話なら外でするに限る」
その言葉をきっかけに、俺たちはリュンヒンより強引に外へ連れ出された。
オルバノ王の言葉がよく聞こえる。皆が静かに耳を傾けていた。
「……それとは別に。あの国は急激に軍事化が進められて民は置いてけぼりだ。とにかく税金を巻き上げて軍事資金としてつぎ込んでいる。そして、大きな部隊を作ったとか秘密兵器を投入したとか、最近はそういうニュースばかり発出しているよ。さてバル君。君はこのネザリアが何をしたいか予想がつくかな?」
突然の質問形式に俺は一瞬慌てた。だが俺も唸りながらネザリアの行く末を想像してみる。
ネザリア王国は周りの国を味方に付けている。それに自国の武力も高めながらだ。
「……何かを警戒しているのか。はたまた攻撃する為の準備なのか」
考えをまとめながら独り言が漏れていたようだ。オルバノ王は「うむ」と一声上げた。
「さすが王子だな。まあこれくらいはすぐに出てきて貰わないと困る」
それでオルバノ王は答えを告げた。
「正解はどっちもだ。ネザリアは、国が大きくなろうとする姿勢を存分に見せておいて、他の大国からの忠告を待っているんだ。その忠告を無視すれば、もちろんネザリアは一発で止めを刺されるだろう。大国にとってネザリアは指先で突ける程の小さな国だからね。でも、ここからネザリアの恐ろしい思惑があるんだよ」
窓から日差しが消えて部屋の中が陰りだす。
「ネザリアと他国との契約は、つまるところ”助け合おう”という内容だ。もしネザリアが大国から攻撃を受けたなら、成約した国は共に戦ってくれることだろう。で、終戦したとしよう。ネザリアを含む数々の諸外国が被害を受けている。復興には金がかかるが、さあ一体何処から出そうか」
……民から巻き上げた。
「税金だ。ネザリアのな。ここでも契約は生きているから、ネザリアは諸国を見捨てないだろう。多額の金を貸して形では”助け合い”を演じてくるが、結果的にはネザリアの元に下ったも同然だ。そうしてネザリア王国は長い時間を掛けながら、周囲の国を服従的に取り込もうと目論んでいるんだ」
話を終えたオルバノ王は茶を飲み喉を潤している。陰った部屋では静寂も妙なものに感じられた。
俺やカイセイは各々別の方向を向き、今後の自国を案じている。エセルは難しい顔をして俯いていた。事情を持つ彼女なりの考えがありそうだ。茶を飲み終えたオルバノ王が俺に尋ねる。
「どうだい、この話。信じるかい?」
やけに明るく言われるから、まさかオルバノ王の作り話なのではと疑った。いやまさかと思っていると、オルバノ王が懐からひとつ小さめの封筒を取り出してテーブルに置く。
「これは?」
「その契約書だよ」
許可を得て俺はその封筒の中身を見せて貰う。契約書にしては紙二枚しか無いのに驚いた。内容も非常にシンプルである。かなり狙った見方をすれば、約束に慣れていない王でも内容が分かりやすい書き方のように取れた。
甲の名にはネザリア・カイリュの自筆のサインがある。乙の名はまだ書かれていない。だが、これをオルバノ王から見せられるということは、つまりである。
「ではメルチ王国も?」
聞くと突然オルバノ王とイアリス妃は顔を合わせて笑い出す。
「そんな怖い顔をしないでおくれ。まだ結ぶと決めたわけじゃない」
「ええ。だって私達、カイリュと仲良くする義理がないもの」
オルバノ王に続いてイアリス妃も気楽に言っている。これに少し安心していた俺であったが、オルバノ王の次の言葉はそんな俺の安直さを一気に破滅させるものであった。
「実はこの契約の決定権は息子たちに渡そうと思っている」
信じがたい断言に俺が固まっていると、イアリス妃も微笑みを絶やさず話すのである。
「私たちも、そろそろ引退しても良いんじゃないかって。この機会だからこの国の運命はあの子たちに託しましょうって決めたのよ」
「……そうですか。大変よろしいことだと思います」
「あら本当? バル君、顔が引きつっているわよ?」
そりゃあ顔くらい引きつって当然だ。逆に顔以外が正常であることが不思議なくらいだ。
オルバノ王とイリアス妃は、俺達三人と重暗い空気だけを残して席を立った。扉をまたぐ時にイリアス妃は振り返り「頑張ってね!」と激励の言葉をくれた。それは火の中の虫同然に何の効力も成さない。
静寂しか無い部屋ですぐにノックがされ、リュンヒンが軽快に入ってきた。そしてすぐにこの重苦しい空気を感じ取ったようで、足をピタリと止めた。しかしこうなることを彼は知っていたのだろうと思う。苦い表情の奥で、かすかにほくそ笑んでいる気がするのだ。
それにこれは勝手な余談だが、オルバノ夫妻が険悪なムードを作るくらいに揉め合ったのは、たぶん代替えの話だったのではないだろうかと思うのだ。だが今はそれを咎める体力が無い。
リュンヒンは苦笑を浮かべながら窓の方を指して言った。
「今日は天気が良いね。話なら外でするに限る」
その言葉をきっかけに、俺たちはリュンヒンより強引に外へ連れ出された。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる