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Ⅰ.ネザリア王国
対談‐王の威厳‐
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赤絨毯を踏みながら、城に仕える者の案内で城内の奥へと足を進めた。絵画や彫刻といった美術品は一切置かないで窓辺に花さえも飾らない。ここは客人を歩かせる廊下じゃないのかと思いながら、とりあえずはこの男に付いていくことにしている。
すると先導する男が振り返り、立ち止まった。
「この奥の部屋でカイリュ王がお待ちになっています。どうぞお進み下さい」
男は横道の奥にある扉を指して言う。それなら何故扉の前まで行かせないんだと疑問を抱いた。言われたとおりにその扉の方へ足を進め出す。
すると突然、剣を抜く音が背後で聞こえて俺は身を翻した。そこには男の後ろ姿と、抜き取った銀の剣がキラリと光って見える。剣はカイセイの行く手を塞ぐように真横に向いていた。
「申し訳ございません。王子以外は入れないようにと。カイリュ王の命でございます」
控えめな言葉を吐くようであるが、淡々とした言い方に違和感を覚えている。
ここから先は側近であっても踏み入れさせないらしいが、わざわざ剣を抜いて見せるとは随分威圧的なことをするものだ。
いくら好戦的であっても、前後を敵に挟まれた状態で戦おうとは思わないだろうと思う。
「大丈夫だ。俺ひとりで会ってくる」
「……分かりました。ではバル様、また後ほど会いましょう」
それでも剣は仕舞われることが無く、たぶん俺が部屋に入りきるまでそうしていたことだろう。
扉は分厚く重かった。鉄製の扉を体に当てて押し開き、大部屋の中に身を滑り込ませた。電気で煌々と照らし出された部屋の中心で、ソファーに座りワイングラスをくゆらす男が目立っていた。ネザリア・カイリュ。彼を見るのは二回目で、会話をするのは始めてである。
「待ちかねたぞバル王子。元気にやっていたかね」
「はい。おかげさまで。すぐに顔を出せず申し訳ございません」
「よいよい。こちらもあれからだんだんと忙しくなっていてな。こうしてようやくゆっくり座れる時間が出来たところだ」
カイリュ王は愉快そうに肩を揺らしながら笑った。俺もささやかながら微笑を作って返した。
先方は軍服を付けた恰幅の良い体だ。母上やオルバノ王と同世代だと聞くが思ったより面は若い。しかし飲酒で腹だけがぷっくり膨れた体型には、それ相応の年齢を感じる。
「まあ座りたまえ」
「失礼します……」
対面して座ると俺は珍しく緊張をしている。エセルの親父のことをただの卑劣な権力者だと思って過ごしていたが、いざ目の前にするとカイリュ王の威厳らしいものに気圧されていた。
それに加えて匂いだ。酒の匂いに紛れて漂ってくる火薬の匂いを嗅ぐと、まるでつい今まで戦地にいたのかと思い妙に怖い思いがした。
固唾を飲み込む俺のことをカイリュ王はじっくりと見つめ、そして睨んでいるのか笑っているのか目を細めた。
「私には息子がおらんでな、お前のことは我が息子のように思っておるぞ」
「ありがとうございます」
謙虚でいると含み笑いのようなものをされる。
「そう畏まるな。私達は家族ではないか。この時は腹を割って何でも話そう」
その後、愛飲するワインのうんちくなどを気前よく語りだした。希少な葡萄を使うとか滅多に出回らないとか、とにかくすごく良質な物であることを俺は理解して、うんうん頷いて聞いていた。
貴重なのだと言っているその葡萄酒を、カイリュ王は水のように飲み干している。グラスが空になれば、また自ら注いで飲み干した。あれだけ熱弁し絶賛していたのだが、こちらにも飲ませてやるとは至らなかった。
またグラスには葡萄酒が満たされていく。コポコポ音を立てながらボトルから紫色の液がうねりを作っている。
「ところで。”あれ”のことは大層可愛がってくれていたらしいが、なんだ喧嘩でもしたのか?」
「”あれ”……ですか」
カイリュ王はグラスを見つめたままで困ったように小さく唸った。
「お前にやった正妻が、何故だか知らんがひとりでここに帰ってきてしまった。なんと可哀想に。涙まで流して、訳を聞いても話したくないと言うではないか。父は何があったのかと心配で堪らんのだよ。君からこっそり聞かせてくれないか」
悲観的な表情の割に作った芝居のような口調をして言われた。
カイリュ王は常に余裕を見せつけたいようだ。黙っていれば俺に催促を掛けるように表情を変えたりしてくる。
「……話したくないか。それとも話せないのか。まあ、いずれにしても私は穏やかな気持ちでは無いのだよ。分かるかね?」
「はい。申し訳ありません」
「なあに。君が招いた事ではないか。何も謝ることは無いだろう」
カイリュは乾ききった笑い声を部屋中に響かせた。それが不慮の不幸でネザリアの名誉に傷をつけられた怒りと取るか、それとも長きに渡り隠し持っていた台本通りに進む事をほくそ笑んでいるのか。
どちらにせよ、俺がエセルを突き返すことになった事態には、何かしらの落とし前を求めてくるはずだ。
すると先導する男が振り返り、立ち止まった。
「この奥の部屋でカイリュ王がお待ちになっています。どうぞお進み下さい」
男は横道の奥にある扉を指して言う。それなら何故扉の前まで行かせないんだと疑問を抱いた。言われたとおりにその扉の方へ足を進め出す。
すると突然、剣を抜く音が背後で聞こえて俺は身を翻した。そこには男の後ろ姿と、抜き取った銀の剣がキラリと光って見える。剣はカイセイの行く手を塞ぐように真横に向いていた。
「申し訳ございません。王子以外は入れないようにと。カイリュ王の命でございます」
控えめな言葉を吐くようであるが、淡々とした言い方に違和感を覚えている。
ここから先は側近であっても踏み入れさせないらしいが、わざわざ剣を抜いて見せるとは随分威圧的なことをするものだ。
いくら好戦的であっても、前後を敵に挟まれた状態で戦おうとは思わないだろうと思う。
「大丈夫だ。俺ひとりで会ってくる」
「……分かりました。ではバル様、また後ほど会いましょう」
それでも剣は仕舞われることが無く、たぶん俺が部屋に入りきるまでそうしていたことだろう。
扉は分厚く重かった。鉄製の扉を体に当てて押し開き、大部屋の中に身を滑り込ませた。電気で煌々と照らし出された部屋の中心で、ソファーに座りワイングラスをくゆらす男が目立っていた。ネザリア・カイリュ。彼を見るのは二回目で、会話をするのは始めてである。
「待ちかねたぞバル王子。元気にやっていたかね」
「はい。おかげさまで。すぐに顔を出せず申し訳ございません」
「よいよい。こちらもあれからだんだんと忙しくなっていてな。こうしてようやくゆっくり座れる時間が出来たところだ」
カイリュ王は愉快そうに肩を揺らしながら笑った。俺もささやかながら微笑を作って返した。
先方は軍服を付けた恰幅の良い体だ。母上やオルバノ王と同世代だと聞くが思ったより面は若い。しかし飲酒で腹だけがぷっくり膨れた体型には、それ相応の年齢を感じる。
「まあ座りたまえ」
「失礼します……」
対面して座ると俺は珍しく緊張をしている。エセルの親父のことをただの卑劣な権力者だと思って過ごしていたが、いざ目の前にするとカイリュ王の威厳らしいものに気圧されていた。
それに加えて匂いだ。酒の匂いに紛れて漂ってくる火薬の匂いを嗅ぐと、まるでつい今まで戦地にいたのかと思い妙に怖い思いがした。
固唾を飲み込む俺のことをカイリュ王はじっくりと見つめ、そして睨んでいるのか笑っているのか目を細めた。
「私には息子がおらんでな、お前のことは我が息子のように思っておるぞ」
「ありがとうございます」
謙虚でいると含み笑いのようなものをされる。
「そう畏まるな。私達は家族ではないか。この時は腹を割って何でも話そう」
その後、愛飲するワインのうんちくなどを気前よく語りだした。希少な葡萄を使うとか滅多に出回らないとか、とにかくすごく良質な物であることを俺は理解して、うんうん頷いて聞いていた。
貴重なのだと言っているその葡萄酒を、カイリュ王は水のように飲み干している。グラスが空になれば、また自ら注いで飲み干した。あれだけ熱弁し絶賛していたのだが、こちらにも飲ませてやるとは至らなかった。
またグラスには葡萄酒が満たされていく。コポコポ音を立てながらボトルから紫色の液がうねりを作っている。
「ところで。”あれ”のことは大層可愛がってくれていたらしいが、なんだ喧嘩でもしたのか?」
「”あれ”……ですか」
カイリュ王はグラスを見つめたままで困ったように小さく唸った。
「お前にやった正妻が、何故だか知らんがひとりでここに帰ってきてしまった。なんと可哀想に。涙まで流して、訳を聞いても話したくないと言うではないか。父は何があったのかと心配で堪らんのだよ。君からこっそり聞かせてくれないか」
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カイリュ王は常に余裕を見せつけたいようだ。黙っていれば俺に催促を掛けるように表情を変えたりしてくる。
「……話したくないか。それとも話せないのか。まあ、いずれにしても私は穏やかな気持ちでは無いのだよ。分かるかね?」
「はい。申し訳ありません」
「なあに。君が招いた事ではないか。何も謝ることは無いだろう」
カイリュは乾ききった笑い声を部屋中に響かせた。それが不慮の不幸でネザリアの名誉に傷をつけられた怒りと取るか、それとも長きに渡り隠し持っていた台本通りに進む事をほくそ笑んでいるのか。
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